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江戸のダ・ヴィンチ(国友一貫斎)

※2021年10月に公式LINEにて配信されたコラムを編集し再掲したものです。

親愛なる友だちへ、ひねもです。

今回は本の紹介です。

「夢をまことに/山本兼一」


皆さんは

“国友一貫斎”

という男をご存知でしょうか?

又の名を”眠龍“

さらに又の名を弾が能く当たる事から“能当”

と呼ばれた。


1778年生まれ

職業は鉄砲鍛冶

...なのですがその鍛治の技術を活かして“望遠鏡”まで造ってしまった。

筆ペンの製作から、はたまた気球や水中船まで構想してしまったという江戸時代の天才発明家です。

江戸のエジソン
江戸のダ・ヴィンチ

と現在では呼ばれています。



最初の発明としては空気銃“気砲”の製作。

この時代の鉄砲は火縄銃なので水に濡れたら使えないわけです。

それはどうにも不便だと一貫斎は考える。

ならば空気の力で撃てばいいんだ!!
そうしたら火薬もいらないし便利じゃん!!

という馬鹿の(天才の)発想で空気銃製作に着手。

とは言っても全くの0の状態から作り上げたわけでは無い。

オランダから渡ってきたショボい空気銃を元に改良を重ねていく。

そして作業を進めるうちに

“空気とは風の事だ。しかし風の力で弾が飛ぶのではなく、その中の気を集めた力によって飛ぶのだ”

って事に気付くのです。

そこから

“風を集めてその気を圧縮する”

という科学に向かっていく。

本を読んでもらえればわかるんですが、なんというか三歩進んで二歩下がるみたいな人なのです。一貫斎という男は。

江戸時代なので科学的な事は何も知らないから全て手探りで試しては失敗の繰り返し。


そうして長い年月をかけて完成した

“殺傷能力があって連発可能な空気銃”

は値段が高価過ぎたのと、戦のない平和な時代だったので一部の富裕層が興味本位に買うだけ。

残念ながら火縄銃に取って変わることはなかった。

現代にも9挺くらい一貫斎が制作した気砲が残っているらしい。


お次の発明は“懐中筆(いわゆる筆ペン)”


この時代は“矢立”といって墨を入れた竹筒と筆を別々に携帯していた。

しかし、これだといざ書きたいときに墨が乾いていたりして不便。

一貫斎は溢れ出るアイデアを一秒でも早く書き留めたいのです。

ならば

“筆の軸に墨を入れておいて、それが常に毛先に良い感じに染み出してくれてたらずーっと書けてめっちゃ便利じゃん!!”

というまたもや馬鹿の(天才の)発想で製作に着手。

最初は竹で試すがうまくいかない。

試行錯誤を繰り返す中で

”そういえば私は鉄砲鍛冶だった!!”

と思い出し鉄で作るのです。

鉄砲製作の名手だから鉄で丸い筒を作るのは大 得意。

ちなみにこの特技は望遠鏡のときも役立ちます。

望遠鏡も丸い筒だもんね。

また三歩進んで二歩下がりながら完成する。

現代でいう“筆ペン”だ。

しかし材料が鉄だし手間かかってるしで一本が何万円もする価格になってしまう。

しかもそんな細い筒にうまく墨を入れる方法もなくて注入の度に手が墨でベタベタになるという。

その問題は後に解決しますが、これも富裕層向けの高額な商品になってしまった。

普通の人は安い竹の筆で充分。

発明としては成功してるが商売としては失敗...という。

次に”望遠鏡”の製作

江戸時代に星や月を観察する役職“天文方”があったのも驚きだ。


ここで空気銃と同じくオランダ製の望遠鏡を見て

“おれも作りたい!”

と。

筒は鉄砲鍛冶なのでお手の物。

ですが曇らない“反射鏡”作りが難航。

まず“曇らない鏡”を作ることすら超難しい。

というか当時の日本では誰も成し遂げていないのです。

望遠鏡に使うには、曇らないだけでなく、さらに表面に良い感じの湾曲を研磨して作り出す必要がある。

これが削りすぎても削らなすぎてもダメ。

月や星が近くに見えるには“良い感じの湾曲”が必須ですが、必要なカーブの数値を導き出す科学的ヒントは無しなので手探りで試行錯誤するしかない。

ひたすら曇らない鏡を焼いて研磨する毎日。

過酷で地味で終わりの見えない作業。

まるで漫画HUNTER×HUNTERの“感謝の正拳突き”みたいな。

...こういう人って実在するんだっていう。

苦難の末に出来上がった望遠鏡を“オランダ製よ り性能が良い”と天文方から褒められて月を見るシーンが泣ける。

“ショーシャンクの空に”のラストくらい泣ける。
心の中で拍手喝采。

このとき完成した望遠鏡は現存していて重要文化財となっています。


...全ては紹介しきれず他は駆け足になってしまいますが

水中で息ができる船が作りたい

とか

月まで届く船を作りたい

空を飛びたい

とかまるで子どものような夢を常に持っている人で。

でも現代の僕らからしたら飛行機なんて当たり前だし潜水艦も当たり前。

パラグライダーやスカイダイビングというカルチャーもある。

人類が月に行ったのも知ってる。

だけど江戸時代に“人が空を飛ぶ”なんて言ったらすご くすごく馬鹿にされたはず。

残念ながら生まれた時代と寿命とで一貫斎はその夢のほとんどは実現できなかったけど、信じる心と行動でたくさんのモノが生まれた。

名前の通り“一つの道を貫いて”本のタイトル通り“夢をまことに”した人だと思います。

ブラザー、シスターゆっくりでも失敗しても前に進もう!


P.S
2020年に一貫斎の生家から発明に使った道具が大量に見つかったというニュースが。試行錯誤の歴史と証だ。本当に凄い。

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