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165-車に轢かれる菜緒 Ⅲ

事故の翌朝、いの一番に目が覚めた〇〇は台所に立って、学校に出かける妹たちの朝ご飯とお弁当を作っていた。

陽菜:……お兄ちゃん、菜緒お姉ちゃんは…?

〇:おはよ、……なんとか一命は取り留めた、って…

1階に降りてきた陽菜の口から一番に出たのは、菜緒の安否だった。

陽菜:……。

〇:…学校行く気起きない…?

陽菜:……(コクッ)

〇:無理して行かなくてもいいよ?

陽菜はそのままソファに寝転がる。

美玖:おはよ…

〇:うん、おはよ

美玖も起きてきて、〇〇の隣に立つ。

美玖:……夜中、ひよりたち泣いてたわよ…

〇:……だろうね…

そういう美玖の目も赤く腫れていた。

お互い目も合わせず調理していく。

美玖:…私たち3人でバイト増やしてなんとか生活費工面するから、しばらくの間末っ子組と愛萌とひなののメンタルケアお願いできる…?

〇:…分かった、彩花や芽実ちゃんにも事情話してサポートしてもらうから…

そうして朝ご飯が完成し、ダイニングテーブルに並べられる。

〇:上の人たち起こしてくる

美玖:分かった

〇〇は2階に上がり、寝ている面々を起こす。

(コンコンッ)

〇:久美姉ちゃん…

久:んんっ…、おはよ……

〇:うん…、朝ご飯出来てるから…

続いて史帆の部屋に。

(コンコンッ)

〇:史帆姉ちゃん…

史:……。

〇:…起きてるんでしょ

史:…先朝ご飯食べてて……

〇:分かった…

そして愛萌の部屋の前に着く。

(コンコンッ)

〇:愛萌姉ちゃん…

愛:〇〇…、……もう朝か…

〇:…あんまり寝れてない…?

愛:ううん、大丈夫…

〇:大丈夫じゃないでしょ、お昼になったら病院行くからそれまでゆっくりしてな…

愛:うん……

愛萌の部屋を出たあとは、ひなのの部屋に。

(コンコンッ)

〇:ひなの…

ひなの:……。

〇〇の声に、ひなのは布団に深くもぐった。

〇:…俺たちは双子なんだ、我慢なんかすんな…

ひなの:……ひぐっ…(涙)

ひなの:…ゔうぅ……(涙)

布団にくるまって嗚咽するひなのを、〇〇は優しく背中をさする。

〇:……しばらくはゆっくり休め、菜緒姉ちゃんは絶対戻ってくるから…

ひなの:…ゔん……(涙)

ひなのの部屋を後にした〇〇は末っ子組の部屋にやってきた。

(コンコンッ)

〇:二人とも…、学校休むか…?

ひより:……。

芽依:……。

〇:お兄ちゃんは止めないぞ、行きたくなったら着替えて降りてきな…

ひより:…なんでお兄ちゃんは冷静なの……?

ひよりが起き上がり、〇〇の方を向く。

〇:…なんでだろうな……、…菜緒姉ちゃんが起きたときに弄られそうだからかな……(苦笑)

ひより:変なの……

〇:(苦笑)

末っ子組の部屋を後にした〇〇が最後にやってきたのは……、

(コンコンッ)

〇:……菜緒姉ちゃん、朝だよ…

〇:…早く起きてよ……

誰もいない菜緒の部屋だった。

〇〇は中に入り、ドアを閉める。

〇:…起きてよ……(涙)

今まで涙を流さなかった〇〇の目から、涙がとめどなく溢れ出る。

〇:菜緒姉ちゃん……!(涙)

床に突っ伏して号泣する〇〇のドアの向こう側では、

久:……(涙)

史:……(涙)

久美と史帆が静かに涙を流していた。



そして8時半ごろ、リビングの固定電話が鳴った。

美玖:はい、もしもし

先📞:もしもし、皇海学園中等部の※※と申しますが、佐々木陽菜さんのご自宅の番号でお間違えないでしょうか

美玖:はい、いつも陽菜はお世話になっております

それは、陽菜の学校からの電話だった。

先📞:それで、本日陽菜さんが登校されていないのですが欠席でしょうか…?

美玖:えっ……?

ひよりと芽依は休むというので学校に欠席の連絡をしたが、陽菜はいつも通り出かけて行ったので登校したのだと思っていた。

美玖:いえ、陽菜はいつも通り家を出ましたけど……

先📞:…分かりました、こちらでも陽菜さんを探してみます

美玖:すみません、お手数をおかけします…

電話を終えた美玖は立ち上がり、陽菜に電話をかける。

(プルルルッ、プルルルッ…)

久:どうしたの?

美玖:陽菜が学校に登校してないらしいの…

久:えっ……

美玖:…ダメだ、繋がらない

陽菜のスマホに電話をかけるが繋がらない。

〇:探してこようか…?

久:お願い…

〇〇は美玖と一緒に車に乗り込み、陽菜を探しに行く。

美玖:…目途はついてるの?

〇:……うちの学校の裏手、細い山道があって山の上に登れるんだ…

美玖:そこに賭けるのね…



約一時間かけて、皇海学園の裏手までやってきた〇〇たち。

〇:俺が探してくるから美玖姉ちゃんは待ってて

美玖:うん……

〇〇は車から降り、山道を登っていく。

〇:…陽菜……どこにいるんだ…

そうして1㎞ほど登ると、少し開けた場所に人影が見えた。

〇:……陽菜…

陽菜:お兄ちゃん……

〇:陽菜…、お待たせ……

陽菜っ……(涙)

〇〇は陽菜を抱きしめ、頭を撫でる。

〇:…菜緒姉ちゃんのお見舞い行こっか…

陽菜:うん……(涙)

〇〇は陽菜と山を降り、車に戻る。

〇:お待たせ

美玖:大丈夫、陽菜もおかえり…

陽菜:うん……

美玖はシフトレバーを入れ、病院に向けて車を走らせる。

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