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詩集

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文学フリマなどで販売している詩集の試し読みです。
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【オリジナル創作】 こんな本を作っています

陽向ぽこ の名前で、これまでに5冊の個人誌を発行しています。 制作している本のメインジャンルは「詩集」で、作品コンセプトに応じてイラスト詩集や写真詩集などの形をとることもあります。 (※【追記】2024年5月発行予定の新刊は「エッセイ集」です。こちらで6冊目の個人誌となります。) ペンネームや表紙を見ていただければ なんとなくぼんやりざっくりわかるように、物騒な感じの作風ではありません。作者としては、前向きで明るいもの、おいしくてあったかいものが好きです。 でも、前向きと

お天気あめ

     〇  ふくろのなかにはフルーツキャンディ まんまる甘い ひいふうみっつ よっつ数えて顔上げた いっぱいあるからだいじょうぶ 味の種類も虹の数だけ 夕方チャイムが鳴るころに ペンのボールと回るキャンディ ひとりはレモン ひとりはリンゴ グラウンドでもパスが飛ぶ となりから順に ひいふうみっつ 緑はメロン? マスカット? 雨粒つけたあわてんぼ ブドウもらうねと手に取った それは遠目にブルーベリー ふたりが目を閉じふくろを探れば 見なれた向かいの赤い傘 お先にミル

ポップコーンと秋空のドレミ

      ♫  小さなドレミを背中に聞いて 校舎裏 きみと食べたポップコーン 秋空に 何度も何度も繰り返す ぜんぶ同じふりをした 似たもの同士をくっつけて 借りた言葉の空っぽドレミ ポップソングは後で聴こう ひとつの箱庭 詰められた 烏合の花束 名前はみんな 並んで揺れる揃いの服は 装う木々から目をそらし ただばらばらに指揮を見ていた あくびと叫びが混ざりあう あの子と この子と その子の涙 重なる和音の奏でる不興 キンコンカンコン チャイムが鳴れば かしげた音符も

寒がり猫舌60℃

ほおづえついた夜が冷ました ひとりぼっちの マグにはコーヒー べつに苦くはなかったけれど 砂糖は底に沈んでいった ミルクをこぼして入れるのやめた いつもよりも熱いコーヒー まだるっこしい猫舌と うらはらにまわる60分は 考えごとも半分残した 寒がり猫のしっぽがゆらす カーテンと窓のすきま時間 夜のまぶしさごまかすために 起きてなくたっていいんだよ 静かに眠ろう 静かな夜だ 難しいことは あした起きてから考えよう こぼしたミルクは戻らないけど 冷蔵庫のなか 本当はまだち

花びらたちの忘れもの

      ✿  花紙が咲いて 散るたびに やさしいはずの春風が 少しずつ忘れさせていく 花びらたちの誕生日 夢みたいな いつかの春に みんなで好きだと話した色も かぜで熱が出たときの 自分の顔色みたいに 忘れてしまったね ぼくらは 思い出せる温もりも もう作り話かな めまいがする 風がうつむいた鼻をくすぐるから ぼくはひとりで くしゃみをした ぶわり 花冷えの吹雪で 返り咲く 足もとで寝ていた春の夢 いくつも重なる 同じ上着に だいじょうぶだよと笑って歩き ひらひ