【掌編】青
夏というものがそれほど好きではない。
照りつけるような日差し、アスファルトが反射する熱気、じんわりと肌にまとわりつく湿気。最後のものは住んでいる場所柄というものもあるんだろうけど。陽向はもちろんのこと、日陰もさほど涼しくはなく、風も生ぬるい。
こればかりは個人的な経験ではあるんだろうけど、消して長くはない人生の中で夏というもの自体にもさほどいい思い出もない。
記憶に紐付けられているのは、やけに沁みる潮風と日焼け。
決して”いい思い出”と思えない記憶が多い中で、少なからず存在する”いい思い出”もあるのにはあるけれど。
小さい頃、なんてことはない道のそばに小さいひまわりが咲いていたことを覚えている。
小さいながら”きれいだな”と思い、そこを通りかかるたびに眺めたり、”本当に太陽に向くんだな”と思っていた記憶もわずかながらにある。
今思えば当たり前ではあるけれど、見つけてから幾分か経った後、いつの間にか枯れてしまって、ひどく寂しくなった記憶が紐付いて鮮明に記憶に残っている。
植え替えられてしまったのか、今では同じ通りには別の花が咲いているのが寂しさに拍車をかけている。
都合上、その通りをいまだに使うことがまれにあり、その様を見るたびに、そのきれいだったひまわりの記憶と後の寂しい記憶が頭をよぎる。別に気にしなければいい話ではあるけれど、そうもいかないのが我ながらに哀しいもので。夏らしい、ひらけた雲のかからない青い空さえも憎らしくなるほどに。
そんな恨めしいほどの青い空を眺め、熱気に目を細める。
「せめてこんなに青くなければよかったのに」
こぼした言葉は誰に届くでもなく、道に敷き詰められた砂利を踏む音だけが響いていた。
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