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熊本地震から丸4年、南阿蘇鉄道駅管理者として今思うこと

 四年前の今日4月16日、熊本地震の本震が起きた。そして2020年の今日、新型コロナウィル感染拡大の影響で日本全国に緊急事態宣言が出された。この日は何か起こる日なのか。

 ひなた文庫は2週間前から営業を自粛している。新型コロナの影響がなければ毎週の営業日ではないけれど地震から丸四年を迎える今日は営業するつもりでいた。営業自体は休みにしたが、やはり今日はこの駅舎に居たいと思い午後から駅に向かった。

 熊本地震から4年経った今も南阿蘇鉄道のこの駅には列車が来ていない。現在は始発の高森駅からこの駅の隣駅にあたる中松駅までの部分運行を行なっている。南阿蘇鉄道全線は全長17.7キロメートルの鉄道でその区間に10駅あるがそのうちのちょうど半分の5駅間を折り返し運転している。
全線開通は2023年夏になると昨年発表された。部分開通の状態でも地震直後に比べると駅舎を訪れるお客さんは徐々に増えてきた気がする。しかしその分この駅にはまだ列車が来ていない事実が忘れ去られていっていると感じる。ひなた文庫に来たお客さんの中にも当たり前のように列車はいつ来るのかと尋ねる人も少なくない。時間が経ち、熊本地震以外にも全国で災害が起きている昨今では仕方ないことであると思う。その分私たち駅管理者や南阿蘇鉄道関係者は全線開通まで南阿蘇鉄道が忘れ去られないよう努め、開通した時に乗りに来てもらえるよう魅力を発信していかなくてはと思っている。観光客に乗車してもらうことこそがこの村の鉄道利用者にとって、さらには南阿蘇鉄道の存続にとって必要なことなのだ。
 第三セクターである南阿蘇鉄道の収入は熊本地震以前も9割が観光目的の乗客によるものだった。近年は外国人観光客も増え団体のバスツアーも組まれるほど。それと同時に村に住むお年寄りが病院や買い物に出掛けるのや学生の通学にとっては必要不可欠な公共交通の役割も担ってきた。そういった日常で熊本地震は起きた。地震後、南阿蘇鉄道も線路やトンネルなどに被害を受け修復しなければ列車を走らせることができないと分かった。その復旧費用は約70億円が必要と見積もられた。
観光客は乗っているものの、車社会の田舎で村民の利用者はごく限られている中で70億という莫大な費用をかけて線路を修復し復旧するべきなのか、南阿蘇鉄道の存続が危ぶまれる事態になったと正直思った。
そんな時、南阿蘇村の村民にもアンケートがとられた。その結果は9割の村民が南阿蘇鉄道は必要という回答だった。

この結果が出て私は前を向いて進んでいく決意ができた。村民の中にも駅には一度も行ったことがないし列車にも乗ったことがないと言う人がいる、それでもこの村には鉄道が必要だと思っていると村民の意思が示されたのだ。
 熊本地震が起きるちょうど一年前ひなた文庫を始め、営業していく中で正直なところこの駅舎から乗車するのは学生が一人か二人と昼間に病院に行くというおじいさんかおばあさんがこれもまた一人か二人、観光シーズンに走るトロッコ列車は満員だが冬になれば観光客も減り誰も乗っていない列車が走っているのを見送ることも多かった。村の人はこの鉄道のことをどう思っているのだろう?、必要としているのはごく一部なんじゃないかと思ったりもしていたのだ。それがこの地震をきっかけに村にとってこの鉄道はたとえ乗らなくても必要であり残すべきだと村民は思っていると分かった。この回答にはとても勇気をもらい何としても全線開通まで南阿蘇鉄道を応援し、全線開通して再び、いやそれ以上に盛り上げていきたいと思った。それから今まで列車が来ない駅だからこそできるイベントを企画したり各駅で連携した企画を村役場や南阿蘇鉄道と一体となって行なっている。三年後の全線開通を村民みんなで喜びあえる日を目指して。

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車を運転して駅に着くと先週は変化のなかった駅の目の前の田んぼが一面ピンクに染まっていた。

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 快晴の陽射しの中でレンゲの花が風に吹かれて揺れている。ここはなんて和やかで平和に満ちた場所だろうと思う。

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 この駅の真横の食事処きしゃぽっぽのご主人が毎年レンゲの種を蒔き、この駅を訪れた人に楽しんでもらおうと周りの田んぼが漉き込みを終えるなか毎年ゴールデンウィークが終わるまでレンゲを残してくれている。今年は例年よりも早く開花したようだ。しかし、外出自粛の影響で見にくる人は少ないのだろうと思うと仕方ないことだが寂しい気持ちになる。

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 4月16日、この日が巡ってくるのをまだそのまま素通り出来ない日。この日が近づくとどうしても何年経ったかを数えてしまう。でも今年は新たにあと三年経てばと未来の年数も数えることができる。そして同じく熊本地震後不通区間であったJR豊肥線が今年の8月に開通すると先日発表された。
 少しずつ前に進んでいる。日々の外出もままならない日常が続くけれども一刻も早く感染拡大が収束に向かいこの本屋を営業して再び全線開通を待ちたい。

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 夕方、この春初めて遠雷が聞こえ間もなく黒い雲がやってきて、ざぁーっと雨を降らせていった。 帰路に着くと林から差す夕陽と新芽につく雨粒が眩しくてしばらく眺めていた。なんて温かい光だろうと思った。


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