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〈 書き初め 〉 と 〈 どんどや 〉

ひなた文庫を始めてから1月の初旬に毎年続けている行事があります。それは駅舎で行う書き初め大会。
その日は古本屋の営業もしつつ同じ駅舎の一部で誰でも書き初めを行うことができます。
心を鎮め、姿勢を正して、たっぷりと墨をつけた筆を真っ白な半紙に落とす。
文字を書く、筆を運ぶ、そのことだけに集中する時間を持つことで新年の賑やかな気分を一旦落ち着けてこれからの1年のことに目を向けてみようという思いで始めました。

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 今年の書き初め大会は1月11日。少し早めに駅舎へ向かい、開店準備と書道用具をセッティングしていると早速お母さんに連れられて小さなお客様が。ひなた文庫の書き初め大会を初めてから毎年欠かさず書きにいらっしゃるかわいい姉妹。お姉さんのちょっと恥じらいながら描く様子や、妹さんの覚束ない手つきながら真剣に筆を振る表情がとても微笑ましい。
 毎年来てくれているので子供達の文字を書くことや筆と対峙する姿勢にも変化が見えて1年の成長は早いなぁとしみじみとした気分になります。
 その後も近所の方がふらっと書いてくれたり、南阿蘇鉄道の職員の方が新年の挨拶に来られ達筆な文字を披露されたり。遠くは県外から来てくださる方も。

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 初対面の方同士で何を書こうかと一緒に悩んだり、今年の目標を教えあったり、時には集中して黙々と書いてみたり。閉店まで沢山の方が書いてくださり駅舎の窓いっぱいに作品が並びました。

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 閉店して夕日が差してきた頃、座って集まった作品たちを暫し眺めていると今年もはじまった、今日もたくさんの人が集まって笑って話して帰って行った。それだけでもう十分、この場所で本屋をやる意味はあると想いがこみ上げてきます。

 南阿蘇鉄道は熊本地震以降全線復旧しておらずひなた文庫のあるこの駅には未だ列車は来ません。列車の来ない駅ならこの駅が存在する意味はないのかもしれません。実際に村の人は車移動が殆どで用も無いのに駅には行かないから一度も行ったことがないなんて話もよく聞きます。それでも今日この寒い中、書き初めをしようじゃないかとわざわざ足を運んでくれた方がこんなにたくさんいる。私たちが一緒にやろうよ、と声を上げて応えてくれる方がこんなに。ひなた文庫をはじめた時この駅を本と人、人と人、人と自然をつなぐ、そんな場所にしようと思ってはじめました。だからこそ今日のこの時間が本当に嬉しいのです。

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 そうやって店主の感慨に浸る時間を得た後はどんどやでこの作品たちを燃やします。今年は地区の方に呼んで頂いてひなた文庫のある地区のどんどやに参加させてもらいました。
どんどやは小正月に行われる火祭りの行事で火にあたったり、その火で焼いたお餅を食べることで無病息災、五穀豊穣を願う行事です。私が育った岡山では「とんど」という名で呼ばれていました。書き初めをその火で燃やしてその灰が高く舞い上がると字が上達するとも言われています。

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田んぼの中央に組まれた竹で出来た大きな櫓の根元に各家庭が持ち寄った正月飾りなどが置かれます。皆さんの思いが天に届くようにと私たちの書き初めは少し上の方にしっかりと設置。

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火が入れられると、竹の割れるパチパチという音が鳴り止まない拍手のように周囲に響き、その轟音とともに瞬く間に大きな炎と煙が上がり、遠巻きで見ているだけでも畏怖を感じます。

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 殆ど下火になるとここからはお餅の出番です。一斗缶にアルミホイルで包んだお餅を入れ、焼けた墨の上に置いておき頃合いを見て開けると柔らかく焦げ目のついたお餅が。冷たい風の吹くなか砂糖醤油につけて食べるお餅のなんと美味しいこと!

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 その後はこどもたちが率先してマシュマロを竹に刺して炙ったり、ホルモンを長〜い竹に刺してこれまた炙ったり。阿蘇ではバーベキューなどでも必ずと言っていいほどホルモンを食べるのですが、ここでも登場。炭になった部分でもかなりの熱で迂闊に手を近づけられない程なのでしなるほど長い竹の先端にホルモンを上手に挟んで焼きます。まるでアタリを待つ寡黙な釣り人のような真剣な表情でホルモンを焼いている子も。 

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更に大人は竹筒に一升瓶の酒を豪快に注いで燗付けした酒を頂きます。

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大人も子どもも火を囲んでわいわいと時間を忘れて過ごしました。
 古くから年初めに行われるどんどや、火にあたることで身も心も浄化されたようで新年に行うのには正に適した行事だなぁと思うのでした。

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