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宿題【5.夜夜中】

 ペンが動かない!さっきまで順調に処理出来ていた宿題なのに、まるで魔法にでもかかったようにペンがピクリとも動かない。
 いや、動かせない。彼女の全身全霊の力を持ってしても微動だにしない。動かない、いや、もう動かしたくない!


 突如彼女はペンを勢いよく放り投げる。そして立ち上がり、そのまま部屋の中をぐるぐると歩き回り始めた。
 なぜ自分は宿題をしているのだろう。そんな疑問が彼女のなかに湧いてきた。
すでに日も暮れた。街の明かりも少なくなり、すでに眠りについている人もいるであろう時間だ。
それなのに、いつ終わるともしれない宿題なんて訳の分からないものを延々とやり続けている。そう考えていると彼女は急に腹立たしくなってきた。

 一体誰の責任でこんなことになっているのか。そもそも宿題なんてものがこの世にあるのが良くない。
 宿題を作ったのは誰なのか?悪いのは校長か?あのハゲなのか?彼女は首を振った。あのハゲにそんな力は無い。

 もっと根源的な問題があるはずだ。彼女はそう考え、さらに部屋のなかを歩き回る速度を速めた。そして急に立ち止まり天井を見上げた。


 学ばねば生きて行かれないこの世の中が悪い。つまりこの世界を作った存在。つまり悪いのは神!そう考えた彼女は拳を高く突き上げた。まるで神に怒りを叩きつけるように!!


 彼女は高く突き上げた拳をゆっくりと降ろし、大きくため息をついて、静かに自分の椅子に腰かけた。

 誰の責任なのか、彼女はよく分かっている。宿題をせずに遊び惚けていた自分が悪いのだと。ちょっとした気分転換を済ませて彼女は宿題の続きに取り掛かろうとした。が、ペンが無い。


 サインペンはある。マーカーもある。消しゴムもある。しかし、ペンが無い。そう、さっき怒りに任せて放り投げたペンが無い。
 彼女は頭の中で校長先生と神様にごめんなさいをしてから、どこかの隙間に入り込んだであろう唯一のペンを探し始めた。

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