宿題【６．残夜】

　部屋の中にはペンをノートに走らせる音だけが響く。似たような作業を黙々とこなす彼女はまるでロボットにでもなったようだ。
　たった一人で稼働し続けるロボット。誰もいない工場で稼働し続けるロボット。彼女はちょっと楽しくなってきた。

　ちょっとだけ、動きをカクカクにしてみる。文字をちょっとだけカクカクにしてみる。暇で死にそうな彼女は最悪にも宿題で遊び始めた。
　
　すでに時間は深夜。外の街はひっそりと静まり返っている。たった一人でロボットの真似をしながら適当に宿題を片づける彼女。
　そんな自分を客観視することは到底できない。つまり彼女の精神に限界が近づいていた。

　ロボットの真似をして、伸びをして振り返った瞬間、悪いものを見てしまった。彼女の眼は見開いた。

　見てはいけないものが確かにそこに在った

　ひっそりと、しかし確かに。ベッドの枕元で充電されている気が散らないようにと電源を切ったスマートフォンが。

　彼女はゴクリと生唾を飲み込む。今まで感じたことのない魔力をあのスマートフォンから感じる。抗いがたい渇望、触りたい。電源を入れてこのしょぼついた両の眼に毒々しいディスプレイの光線を浴びせたい！
　ロボットの真似事はどこに行ったのか。彼女はふらふらとスマートフォンに近づく。
だが、ぐっとこらえて彼女は机に戻った。誘惑に打ち勝ったのだ。　

　スマホを手にしたが最後、SNSのチェックに始まり、次いでかわいらしい猫の動画で癒され、終いにはくだらない動画で半笑いしながら寝落ちする。そんな自分の姿が完璧に脳内再生されたのだ。
　
誘惑に打ち勝った彼女は宿題を再開した。ロボットの真似をしながら。