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納豆オムレツ

 人と人との出会いの妙。世の中にはたくさんの人が居て、その中でそれなりにたくさんの人と出会う。人との出会いは化学反応を起こして、時に善良に、時に悪辣に、その関係性の変化はまさに妙だ。

 でも私は苦手な人は苦手だ。今日も苦手な人と仕事が一緒だった。男性看護師のその人は、仕事は早くて良くできる。けれどもなにせ愚痴が多い。基本外面が良くてポジティブシンキングのスタンスでいる私にとって、彼との業務はちょっと苦痛だ。
『この業務は無駄だよね』
『あの人は報告の仕方が下手だと思う』
などなど。分かりましたわよ。貴方の考えは立派だと思う。でもこの私にどうしろと。『そうですね』と答えりゃいいのか。私はそんな事よりも、差し迫りつつある危機をどう回避するべきか悩んでいるのだから。

 差し迫りつつある危機。そう、実家の母から送られてきた大量のミョウガたち。なにせ一人で食べきれる量ではなかった。友人知人に配り歩いたけれど、そもそも私は友人知人が少ない。
 よって、サラダに入れたり、炒めてみたり、試行錯誤様々試してみたけれど。さすがにもう食べ飽きた。残り僅かなミョウガたち。今日中に食べなければきっと腐らせてしまう。それだけは阻止したい。

 私の思考回路は、仕事が終わってからもミョウガの処理をどうしようか悩んでいた。自宅に帰り、さっそく冷蔵庫を開ける。そこには質素な食材たち。しかし買い出しするにはまだ早い。
 ミョウガ以外にも消費しなければならないものはある、賞味期限の近い卵、しばらく放置された納豆、たしか引き出しの奥には開封してから時間の経った焼き海苔と鰹節があったはず。そんな食材たちを見ていて閃いた。私の好物が作れる。今日は納豆オムレツだ!

【納豆】
   言わずと知れた日本の保存食。大豆を発酵させた発酵   
   食品。初めて食べた人はきっと相当お腹空いてたんだ
   ね。初見であの見た目を口に入れようとは思えない。
【オムレツ】
   もともとフランス料理らしい。今ではいろんなオムレ
   ツがあるし、そもそも卵焼きとは違うのか?


 納豆オムレツ。オムレツの中身はなんでもいいんだろうけど、納豆を入れた人は天才だと思う。なぜ入れようと思ったのか。ほかに入れるものがなかったんだろうか。そもそもそんなに深く考えずに、入れちゃえ!的な思考だったのだろうか。発酵した豆と卵。奇妙な組み合わせだなと思う。あぁ、でも発酵した乳と卵はベストマッチするのか。ともかく私はこの納豆オムレツが好きだ。御託はいいから作りましょう。私、腹が減ってるんだ!

 まずは下準備。残ったミョウガたちを千切りにする。私はミョウガの香りや風味が好きだから、アク抜きはしないでそのままで。次に納豆を器に移して良く混ぜる。納豆の糸で混ぜづらくなるまでよく混ぜる。そこに付属のタレとからしを投入してさらに混ぜる。
 そして主役の卵。3~4個ほどボウルに割入れたら軽くかき混ぜて、そこに少量の白湯で解いた和風だしを入れる。塩コショウはしません。ここまでが下準備。

 さて、ここからが本番。納豆オムレツでも、プレーンオムレツでも、ここからが一番の勝負どころ。私は命懸けてます。
 フライパンにごま油を薄く敷く。油を敷いたら焦らずしばらくしっかりと熱する。十分フライパンと油に熱が行き渡ったら、卵液を投入。するとすぐにジュワっと卵が焼けるいい匂い。すぐにはかき回さず、フライパンとの接地面の卵が固まりだして、泡みたいに膨らみだしたら、手早く全体を混ぜる。早すぎず、遅すぎず、しばらく混ぜる手は止めない。
 固まった層と、半熟の層、さらにまだ固まっていない卵液がある状態で納豆を投入。半熟状態の卵と納豆をサックリとまぜたら、納豆の混ざった部分を銀河中心核と捉え、フライパンの持ち手とは反対の片隅に寄せていく。
 ここからは腕の見せ所。フライパンを軽く振り上げる瞬間に持ち手の手首を反対の手で肩たたきする要領でトントンと叩く。振動でフライパンの卵は銀河中心核を包むようにくるっと丸まる。ここまで来たらもう完成間近。フライパンの縁で好みの焼き色をつけてお皿に移す。

 表面がしっかりと焼かれたオムレツは外見からはプレーンオムレツ。ごま油の香りが食欲をそそる。さらにその上に千切りにしたミョウガを大量に乗せ、その上から刻みのり、鰹節を適量。最後に軽くつぶしたゴマをかけたら、納豆オムレツミョウガ乗せの完成。

 ミョウガの処理に困っていたのに、当のミョウガは刻んで乗せただけ!やっぱりミョウガは薬味として使うのが一番優秀な気がするのです。焼きあがったオムレツからはごま油の香り、納豆の香りはあまりしないし、ミョウガの香りもあまり感じない。スプーンを入れて表面を割ると、なかから半熟の卵と納豆が合わさってとろけている。そこに薬味のミョウガと海苔と鰹節をいっぱいのっけて一口。
 食べて納得。半熟の卵も濃厚だけど、納豆の粘りが濃厚さに拍車をかける。そこにミョウガの爽やかな風味とシャキシャキと小気味よい歯ざわりがプラスされる。しっかりと一つの料理としてまとまっているな。そんな自画自賛をしながら、私は一口ごとに、卵、納豆、ミョウガ、その他の乾物達の風味と味わいを感じながら食を進めた。

 食べながら思ったけれど。ミョウガに納豆。独特の風味と味。きっと苦手な人は苦手。そしてオムレツという万人受けしそうな調理方法。一見合わなそうな感じがするけど、食べてみればやっぱりおいしい。食材の組み合わせは妙だ。
 もしかしたら、私の苦手な彼にしてみても、しっかりと仕事の事を考えているから故に出てくる愚痴なのかもしれない。食材も、人も、その組み合わせでよくも悪くもなる。だったら、あまり毛嫌いはせずにちょっとだけ話を聞いてみて、組み合わせの妙を感じてみようか。

でもきっと苦手な人は苦手だな!ごちそうさまでした!

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