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背筋を何度も伝うー「火車」宮部みゆき

水鈴社からYOASOBIの楽曲とのコラボで出版される「はじめての」という書籍の4作品に、私の好きな宮部みゆきさんの作品があると知って、久しぶりに彼女の著書の中でも特に好きな「火車(かしゃ)」を読み返してみた。
読み始めたらページを捲る手が止まらず、一気に読んでしまった。一体何度目の再読だろう。

休職中の刑事の元へ、亡き妻の従兄の息子が、妻が行方不明なので探して欲しいと頼みにくる。どうやら、ただの家出ではなさそうだ…。

というのが、この物語の始まり。
宮部みゆきさんの、物語に読み手を引き込む語り口調が素晴らしく、その景色を想像させながら話は進んでいく。

「火車」は、コロナ禍の今でこそ、経済的に苦しんでいる人が多い今でこそ、読んで欲しい作品だと再読して思った。そういう、物語だからだ。
決して明るい軽快な話ではない。読み進めるうちに、冷たいものが何度も背筋を伝う。自分が目を見開いているのが分かる。登場人物の心理描写があまりに見事で、誰の視点にもなれるのだ。「火車」は、誰にでも起こりうる話を描いている。誰もが、知っておいた方が良い、話を描いている。
それは恐怖であり、地獄であり、また、救いの糸でもある。

この作品のある一文が、初めて読んだ時から忘れられない。それこそが私がこの「火車」を推薦する理由なのだけれど、そこが好きだというと、決まって顔をしかめられる。そして、解る、と言われる。もしも同じところがこころに残る人がいたら、私は、ね、ね、そうでしょう、とがっちり手を握りたい。今のこのご時世では、画面越しにハイタッチかな。

物語のネタバレをせずに、紹介をするのは難しい。ただ、宮部みゆきさんの著書はどれも読書が苦手な方にこそ手に取って貰いやすいと私は思っている。もしも重たく暗い話が苦手で、宮部みゆきさんの著書に興味のある方がいたら、「ステップファザー・ステップ」や「ブレイブ・ストーリー」をお薦めします。「ブレイブ・ストーリー」はアニメにもなっています。

「はじめての」をきっかけに、また宮部みゆきさんの作品を再読しようと思う。今回は特に好きでこのご時世に合っていると思った「火車」を紹介しましたが、読みやすく面白い作品ばかりなので、興味を持たれた方は手に取ってみてください。年齢性別問わずお薦めです。ぜひ。

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