130 / スタバのコーヒー

“スペシャルティコーヒー” というものを初めて飲んだのは20歳の頃だった。感動した。こんなにも苦味がなくて、飲みやすいコーヒーがあるなんて。そう思った。その感動を、コーヒーが苦手だという後輩に熱弁して、わざわざスペシャルティコーヒー専門店に連れて行ったりもした。

そんな、紅茶のように色が薄くて味もすっきりとしたコーヒーを飲んでいると、スタバのコーヒーは僕にとって、『苦くて美味しくないもの』という位置づけになった。僕が通っていたスペシャルティ・コーヒー専門店のマスターは、「スタバのコーヒーを飲んだ瞬間思いっきり吐き出したよ。あんなもんはコーヒーじゃない」と猛烈に批判していた。

確かにスタバのコーヒーは美味しく無かったけれど、「コーヒーは美味しくないけど、あの空間がいいよね」「コーヒーは美味しくないけど、接客がどの店舗も素晴らしいからスタバが好きなんだよね」とか言いながら25歳の今まで、数えきれないほどスタバにお世話になってきた。

スタバは間違いなく、そのコンセプト通り僕のサード・プレイスだ。

精神的に不安定な時、部屋の中で考え事をしていたらどんどんネガティブになるけど、スタバに来れば視野が広がり、問題を解決するための具体的なアイディアが生まれた。

一生懸命働いている従業員や、分厚い付箋だらけの参考書を開いて勉強している人をみれば、少なからず自分も頑張ろうという気になれたし、たまにいる思わず二度見するほど綺麗な女性やクセの強いおじさんは、自分の辛い現状や内面ばかりに目がいって苦しんでいる僕の意識をそらしてくれた。

スタバの存在に心の底から感謝している。

僕の好きなアーティストがカフェイン抜きの生活をしているらしく、それを真似てコーヒーを一切飲まなくなった時期があった。そうなると必然的にスタバにも行かなくなった。

カフェイン抜きの生活をしたからといって大した変化があったわけではなく、散歩中にたまたまスペシャルティコーヒー専門店があったので、ふらっと寄ってみた。とにかくコーヒーが飲みたかった。

精神的にしんどかった。しんどさから意識を逸らしてくれるような、とびっきり苦いコーヒーが飲みたい気分だった。

ワクワクして、お金に困っている中頼んだ900円のスペシャルティコーヒーは、僕の望みを叶えてくれなかった。美味しい。美味しいけど、今の僕が求めているのはこれじゃない。そう思った。

スタバのコーヒーを飲みに行った。
心の底から、美味しいと思った。「そうだよ、これだよ、この苦味を求めてたんだよ俺は!」感動して、外を眺めながらゆっくりとコーヒーを飲んだ。おいおいまじか。

面白いもんだ。『苦くて美味しくないコーヒー』が、『苦くて美味しいコーヒー』に変わった。コーヒーが変わったのか?いや違う、何も変わっていない。変わったのは紛れもなく僕自身だった。今まではこの美味しさが分からなかっただけだったんだ。

うーん。面白い。これだからコーヒーっていいんですよね。
僕にとって、スタバのコーヒーを飲むことにはものすごく深い意義があるのです。だから今日も、お金に困って入るけれど、350円のコーヒーショートサイズを頼み、この苦味を誰よりも味わい尽くすのです。

ありがとう、スターバックスさん。





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