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男子トイレの幽霊

男子トイレに誰かいる

少し前のこと、会社の女子たちと話をしていたら「会社に幽霊が出る」という話になった。少し遅くまで残業していると誰もいない男子トイレで物音がする、というわけだ。

私も一人っきりで会社に残っていると、背後に何かを感じてゾクゾクっとする時がある。そんな日はさっさと仕事を切り上げて、後ろを振り向かず一目散に帰路につく。

私の会社は昔城下町だった地方都市にある。武家屋敷跡の一角に位置し、近くには役所や警察署、学校などが多くある。そういった場所にはおどろおどろしい言い伝えや都市伝説がたくさん残っている。公共施設が立っているところは、処刑場だったり牢屋だったりすることが多いそうだ。これは、学校の怪談をでっちあげる過程で一般的に広まった話かもしれないが、私の会社のすぐ近くには、実際に人柱伝説の残る石積みの橋脚跡が、今も不自然に川の中に残っている。

橋脚の人柱伝説

その不自然な橋脚の人柱伝説はこうである。
この辺りは、大きな川の三角州の上に街ができたところで、昔から水害に悩まされていた。街の中心部にかかるその橋も、幾度となく大雨に流されて地域の人は困り果てていた。新しく橋をかける際、人々は荒ぶる水神を治めるために生きたままの人を橋脚に埋めたとされている。埋まっている人は諸説あり、地元の僧侶や、たまたま通りがかった巡礼者などと言われている。

橋はその後幾度と架け替えられた。平成の時代になっても、その橋脚を取り壊すことはなかった。雑草の生えた古めかしい橋脚を避けるように今の橋は架かっている。

そんな土地柄、このオフィスにも行き場のない魂がさまよっていても不思議ではない。落ち武者なのか、誰かの陰謀で切腹させられた侍なのか。

幽霊の正体

女子たちによると、夜になると不定期にサーっと水が流れる音がするらしい。幽霊に反応して便器の水が流れている、とのことだ。

トイレのセンサーって熱を感知する赤外線センサーじゃないか?それなら幽霊に体温があることになる。そもそも幽霊に体温はあるんだっけ?人肌のぬくもりのある幽霊なんて聞いたことがない。なにかおかしい。

世の男性の皆さんはすでにお分かりだろう。
女子たちは、誰もいない男子トイレで水が流れることが不思議でしょうがないのだ。それを幽霊だと騒いでいる。

「それって配管の詰まりや臭いを予防するために自動で流れるやつと違う?」

というと、女子たちはキョトンとしていた。

「なにそれ?」
「え、知らないの、便器の上に説明書きで書いてあるじゃん! 設備保護洗浄機能で自動で水が流れることがあります、って」
「へー」

詳しく説明すると理解したようだ。
確かに、世の女性たちは会社やショッピングモールの男子トイレに行かない。だとすると確かに知らないか・・・。不思議な感覚だった。
(男子トイレ界では当たり前のことを世の女子は知らないんだ、勝った!)
説明する私は、きっと「どや顔」になっていたに違いない。

そうか、だとすると小便器の内側に「的」のシールが貼ってあることや、「一歩前へお進みください」って書かれていることも知らない可能性がある。海外の小便器が足の短い日本人には屈辱的に高いことなんかも知らないのか!なんだか、野郎たちだけの秘め事ができたようで嬉しかった。

その日は、軽いカルチャーショックとともに、ダサいおじさんが、久しぶりに若い女子たちに優越感を持てた1日になったという話。

おわり😁

文・写真 ひなのライダー


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