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変わる街と私と

体調を崩すと母親に手を引かれていった小さな個人病院。そこの先生はいつも優しい口調で「今日はどうしたの」と話しかけてくれた。

その病院は最寄りの駅の途中にあり、毎日その建物を見ながら通勤している。何十年も改築されることなく外観が古びており、また待合室の床もベコベコしていたがいつもたくさんの人が待合室で賑わっておりというと不謹慎かもしれないが人気がある病院だった。

その病院が取り壊す工事が行われていた。何の前触れもなかった。先生はかなり高齢だったこともあり引退されたのかもしれないし、もしかしたらという不安もあった。本当のところは何もわからないが、ぽっかりとした土地を見て一つの時代が終わったのだと感じた。

私の住んでいるところは住宅地であり最近ではマンションも立ち始めている。この土地は古くから住んでいる方が多いが、世代が変わってそこに住む人がいなくなるということも多い。そのため所有者が代わり新たな建物に変わることも多い。その姿を見て寂しいと思いながらも、少し時間が経つと前に何が建っていたのかを忘れてしまう。

案外と過去を簡単に忘れるものなんだと思った。

それなのに忘れたい過去は忘れられないなんて、それはなにかの罰なのだろうか。