見出し画像

工業人の心

 以下の文章は、岩手県立種市高等学校の海洋開発科3年生の担任をしていた私が生徒の卒業に当たって生徒会誌に寄稿したものです。
 執筆日は2004年1月16日です。

 日本がこれまで成長してきた背景には工業人(=職人や研究者)の寄与するところが大きい。その進歩には目を見張るものがある。

 初めて鉄道が開通したのは今から約130年前のことで、東京都の新橋駅から神奈川県の横浜駅(現桜木町駅)までの約29kmで所要時間は35分であったという。それが、現代では電車に進化し、それも新幹線が一般的となり八戸から東京まで最高時速275km/hというとんでもない速さで東京までたったの3時間である。しかも将来実用化されるであろうリニアは現在のところ時速581km/hを記録しているというから驚きだ。

 もっと短いスパンの変化も挙げればきりがない。例えば、私が学生だった頃はどこにでもあったピンクや緑色の公衆電話と財布には欠かしたことのないテレホンカード。今では見向きもされず皆携帯電話である(私も含む)。更に、現在は会話のみにとどまらずインターネットができ、メールができ、カメラまで搭載され画像の送受信だってできる。そしてまだ普及に至っていないが、テレビ電話もいずれは時間の問題だ。

 何故このような話をするか一言でいうと、私たち人間は実はすごい動物だということである。これまで不可能だったことをどんどん可能にしてきているし、今後もその流れは止まらないだろう。

 こんなことを考えてみる。「役に立つことは、役に立たなくなる。」変な言い方であるが、そう痛感する。まさしくそれが工業の世界である。

 この高校生活3年間で印象に残っていること。そのメインは、本年度50周年を迎えた潜水教育に他ないと思う。この、素晴らしい海洋開発科で苦労して身につけた技術や資格、工業人としての心は、今後皆の大きな財産になるに違いない。

 卒業生に久しぶりに会うとこんな言葉をよく耳にする。「種高でやっている実習は、会社でやっていることに比べて古いですよ。」と。私はその言葉を卒業生の成長の証として喜ばしく聴く。なぜなら、「役に立つことは、役に立たなくなる。」ことを身をもって感じていてくれているからである。

 工業人は常に既存の技術やモノの改良、新たな発明を繰り返して成長してゆく。その代償になってゆくのは古い技術やモノである。ここで大切なのは、新しい技術やモノを考えるとき、ベースになっているのが古い技術やモノであるということである。言い換えれば、古い技術やモノを学ばなければ新しいことなどできっこないのである。

 「3年間、種市高校海洋開発科で、役に立つこと、あるいは役に立たないことであっても、一生懸命に学んだ。」

 このことを誇りに思ってこれからも成長していってほしい。

 いつぞやのLHRで雑談したとき、「将来、電気は導線を使わず空中を飛ばす技術を発明し、コンセントをなくするぞ。」という話をした。そんな夢みたいな話が実現できるかもしれない。自分にだってきっと。。。

 さあ、実社会への旅立ちである。不況の中、一人ひとりが真剣になって取り組み決定した進路。みなさんがそれぞれの新しい環境で、工業人としての心を「創意工夫」して発揮されることを心から祈り、贈る言葉にしたいと思う。

 卒業おめでとうございます!辛いことにもくじけずお互い元気に頑張ろう!

 追伸:お酒の飲み過ぎには注意しましょう。私もその後平穏にやっています。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?