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感想「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

2023年11月17日に公開された映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」。

ちょっと遅れたんですけど、見に行ったんですよ。

滅茶苦茶面白かったです。

今すぐ友達に長電話で感想を述べたい気分なのですが、生憎そんな友達はいないので、代わりにちょっと聞いていってもらえますか?

※ネタバレ記事です。未視聴の方は今すぐ最寄りの映画館へどうぞ。

・ストーリーライン

あらすじとかは省きます。ネタバレ記事な以上、この記事を読んでいる方全員が把握していると思いますので。

①序盤

冒頭から、鬼太郎の父(以下ゲゲ郎)が村にやってくるところまでです。

最初の方は、「ああ、よくある話の導入だなあ」と思いました。

仕事で権力者に会いに、閉鎖的な村に行く。よそ者は監視されていて、村の子どもからその事を指摘される。

具体例は思いつきませんけど、割とありがちですよね。昭和時代が舞台で、閉鎖空間の村とか大富豪とか、当主の遺産とか跡継ぎ問題とか。

わたしの好きなゲームで「うみねこのなく頃に」というのが大体そんな感じですね。あくまで導入は、ですけど。


どの世界でも大富豪の当主はとんだクソ野郎ですね。

序盤の方は、そういう「ありがちな空気」にうんざりしていたのを記憶しています。映画館の予告が長かったから心が擦れていたのかもしれません。

どことなく金田一耕助的感があるというか。
良く言うと王道、悪く言うと見飽きた感じ。

そういう食傷気味な空気が変わったのは、時貞の遺言を読み上げた時ですかね。こういう場で揉めるのはフィクションではやっぱりありがちなんですが、その騒動を一喝して止めた時麿の挙動には度肝を抜かれました。

龍賀時麿。退場早かったっすね。

何がすごいって、この人クッソキモいんですもん。
思わず背筋引いちゃいましたよ。映画館の椅子、背もたれ柔らかいですね。

"亡き父親の遺影に寄り縋って涙する"というシチュエーションそのものはシリアスで悲劇的なんですけど、絵面と声がエグくてびっくりしました。作画班と声優の本気を見た気がします。
"こいつイカれてやがる……"と一発で分かる言動で、物語の空気感を一発で変えてくれました。

ここからどんどん面白くなるんですよねえ。

②中盤

水木とゲゲ郎がまともに会話をし始めてから、龍賀沙夜が死ぬまでですかね。

後で個別に語りますけど、沙夜は本当良いキャラしてましたよね。後半の畳みかけに感動しました。

さて、ストーリーですけど……
金田一耕助感は無くなりましたね。

水木達が離れ小島に渡って以降、妖怪の存在が明言され、長田幻治率いる"裏鬼道"とのバトルでアクションを演じる等、「ちょっと不思議で奇妙なバトルアニメ」という鬼太郎らしさが前面に押し出されていた感じでした。

ただ、その中でも異彩を放つのが作中で着々と進行していく連続怪死事件。

死に方がかなりえげつないんですよね。
「ゲゲゲの鬼太郎」って、曲がりなりにも子どもをターゲットにしたニチアサアニメなので、その空気感は結構衝撃でした。

この映画が子ども向けの題材にも拘わらずPG12なのは、制作側の苦渋の決断を感じずにはいられませんね。

あと、割とパワーバランスが現実的というか。

ゲゲ郎は水木とタッグでこの映画の主人公で、離れ小島の妖怪や裏鬼道の連中相手に大立ち回りするくらいには強いのですが、狂骨相手には敵わない。

狂骨>ゲゲ郎>その他

というパワーバランスがシビアで、結局これは最後まで崩れる事はありませんでした。

少年誌にありがちな唐突なパワーアップが許されないというのは、子ども向けにしてはやや無常な印象を受けました。

それから、沙夜を中心に挙げられた龍賀一族の忌まわしい関係について。

端的に言うと近親相姦ですが、普通にエグいですよね。子ども向けの題材で取り上げるにしては、かなり。それこそ前述のうみねこでもあった要素(金蔵と二代目ベアトとか、安田沙代の恋心とか)ですが、うみねこではメディア媒体によってはその辺かなりぼかした感じになっているそうですね。

その辺思い切ったというか、ダークに振り切ったというか
わたしは好きですが。

③終盤

龍賀時貞と邂逅してからエンディングまでですかね。

バトルは少なめで、とにかく悲劇的な描写が多かった印象です。まあ全編通してそうなんですけど。

まさに悲劇的です。
だって登場人物のほとんどがジェノサイドされたわけですからね。モブまで含めて。
ある意味金田一耕助感が戻ってきたと言いますか。
こういうストーリーって誰が生き残るのか予想するのも楽しみの一つですけど、まさかこんなに死ぬとは……いっそ清々しいくらいです。

肝心要の決着方法についてですが、ややご都合主義なのは否めないです。

ゲゲ郎の奥さんは敵である時貞がわざわざ引き上げてくれて、奥さんは何年もずっと子どもを妊娠したままで、その子どもの泣き声が上手く他の幽霊族を刺激し、霊毛ちゃんちゃんこ誕生。
さらに時貞本体は無防備であるにも拘わらず水木はノーマークで、その水木も人間が耐えられないと思しき空気の中、特に理由も無く生きており、その後もつつがなく脱出まで漕ぎつけている。

こう羅列すると、後半滅茶苦茶強引ですね。ただ、そうでもしないと逆転が見込めないほど絶望的な状況だったのも確かなわけで。そこにエンタメ性を見出すのは映画のストーリーとしては正しいのではないでしょうか。

最終的に「子どもに未来を託す」というテーマで本来の主人公である鬼太郎にスポットが戻るのはなかなか面白かったです。


総合的に、ストーリーはすごく楽しめました。後半の都合の良い展開も、それまでの積み重ねあってのものと思うと、趣深かったと思います。
全体としては、こんな感じですかね。

・キャラクター

次いで、キャラごとに語りたい事が山ほどあります。

①水木

水木先生の自画像は大抵出っ歯ですが、この水木は違いますね。
まあ主人公のビジュアルだし、オミットされたのでしょう。

主人公ですね。
「水木」という名前自体は、「ゲゲゲの鬼太郎」というメディアで幾度と無く登場しています。水木しげる本人がモデルでしょうね。
映画の元となっている「6期」でも、序盤で目玉おやじが「鬼太郎は水木という人間に育てられた」という旨の話をしていたと思います。今回の話はその前日譚という事で、その事実に繋がるエンディングがどのようなものなのか。また、鬼太郎の育ての親がどんな人物なのか。
その辺りに注目が行くため新規キャラでありつつもかなり目を惹くキャラでした。

さてこの水木がどんなキャラかというと……
非常にフラットな印象を受けました。

最初期こそ「第二次世界大戦に参加した過去から、がむしゃらに富と栄光を求めている」「そのためには手段を選ばない」といった、非常にストイックな性質の持ち主でした。

しかしゲゲ郎に絆され、少しずつ変わります。温厚で愛妻家な雰囲気を持っていたゲゲ郎と仲良くなる事で「結婚する」という幸せを意識し、友人を大事にするという意識を持つ。
さらに沙代との交流でその意識をより強くし、時弥くんへも感情移入をし、優しい一面を覗かせる。

一方で、沙代を巡る近親相姦の事実を知って嘔吐したり、暴走した紗代相手にドン引きしたような態度を見せたり、時貞の卑劣な挙動に怒りを露わにしたりと、マイナスの感情に関しても常識的かつ素直に見せてきます。

良くも悪くも、体験した事にダイレクトな染まり方をする、普通の青年といった感じですかね。狂言回しとして理想的な、感性の持ち主というか。

彼は結局、ゲゲ郎の目的達成に大きく貢献しました。

元々はゲゲ郎に協力関係を持ち掛け、「ちょろい」と内心で毒づいていた辺り、利用する気満々だったのでしょう。当初のハングリーな彼であれば、大事な場面でゲゲ郎を見捨てていたかもしれません。

当初の水木の目的は、要約すると二つ。

一つは次期当主候補の龍賀克典に取り入り、媚を売る事。
もう一つは不死の妙薬である「M」の秘密を解き明かす事。

しかし前者は克典が次期当主でなくなった事から早くも瓦解し、後者も明言こそされていませんが、「M」の原料が幽霊族の血である事を知って以降、それに執着する言動を見せなくなりました。

Mについての話を水木が聞いたのは、ゲゲ郎が捕まったタイミングです。その時点で水木の目的は完全に失われていました

だからその後は全てゲゲ郎のため。多少の私怨めいた感情はあったかもしれませんが、基本的にはゲゲ郎の「妻に会いたい」という気持ちを肯定し、そのための協力を献身的に行っていた、という感じです。

そこにあるのは、友情に違いないでしょう。
この映画は、水木とゲゲ郎の友情がテーマと言っても過言ではありません。
友情というのは、良いですね。何度も心打たれました。

それと、彼を語る上で欠かせないのがラストシーンです。
彼が鬼太郎を抱きしめたのがこのお話の終わりで、全ての始まりでもあります。極論、ラストシーンだけあれば前日譚は成立します。が、そこにドラマを加えたのが本作であるわけです。

結局、水木が記憶を失った事については特に説明がありませんでした。ラストバトルでのダメージが残っていたのでしょうか。いずれにせよ水木は記憶を失い、ゲゲ郎は失っていない。それは、現代のゲゲ郎(目玉おやじ)の、水木を友人と語る言葉からも明らかです。
それだけに、エンディングで水木がゲゲ郎の姿を見て逃げ出した事について、彼がどう思っているのかちょっと気になりました。

結局、水木はこの物語で全てを失いました
目的意識はおろか、恋仲に発展したかもしれない少女も、日本の未来を夢見た少年も、守る事が出来ずに。最後に残ったゲゲ郎との友情さえも、記憶を失うという形で奪われて。

だからこそ、キャラクターとして美しかったです。

②ゲゲ郎

在りし日の目玉おやじ。
6期アニメで身体を得た際にも白髪でしたね。

ビジュアル、めっちゃいいですね。端的にかっこいい。

ただ、主人公としての活躍はそれほど多かったとは思えませんでした。
雑魚と戦っているうちは「強い」と感じますが、結局狂骨には敵わず。

勝てなかった相手は狂骨だけですが、結局狂骨を使役する人物が多いため、大事なところでは負けっぱなしでしたね。

奥さんの情報を手に入れる際に紗代に口利きして貰って孝三と話す事ができたのは水木のはたらきによるものですし、幻治や時貞に捕まった際にも水木に助けられ、最終盤の狂骨相手には鬼太郎に助けられていました。

当初不気味な様子で出てきたゲゲ郎ですが……かなり周囲に翻弄されていましたね。
そういえば行きの電車内で水木に「死相が出ている」と警告したのは、単純におせっかいのつもりだったのでしょうか。
結局、反対に水木だけが生き残る結果になったのは結構な皮肉ですねえ。

ともあれ、いい感じに締まらないけど、水木とセットの主人公……と言った感じでした。

③龍賀沙代

最初見た時、絶対黒幕かと思ってました。
ある意味間違ってませんでしたが。

ヒロインにして、悲劇的な立ち位置でした。

連続怪死事件の犯人であり、中盤のグロ描写の立役者

彼女の発狂により、敵役として振る舞っていた裏鬼道も龍賀乙米もあっさり殺されるという異常事態。ある意味ストーリーそのものを引っ掻き回したトリックスターと言えなくもない

ただ、彼女の主観に立って考えるとひたすらに可哀想です。

彼女が水木に抱いた感情は、終わってみれば完全に裏表無しの恋心でした。
その思いに従って、彼女は実に献身的に水木に尽くしていました。

水木が自分に近づくのは、情報や血筋を利用するための事……というのは、薄々彼女も理解していたようです。
それでも尚、彼女は水木に尽くします。水木は彼女の欲しい言葉を与えますが、それが本心からのものなのか、気が気でなかったでしょう。

ゲゲ郎が捕まった後、彼女は水木と一緒に村の外へ出ようとします。
そこで水木は捕まったゲゲ郎の身を案じて引き返すのですが……
沙代の目的が村から出る事だけならば、そこで彼女も同行する必要は全くありませんでした。それでも尚、水木に着いていったという事は、完全に彼女の利益の外……つまりは愛です。
彼女の行動原理の大半は恋愛感情といっても過言ではないでしょう。

そこまで水木に傾倒した状態で、明かされた近親相姦の事実。

沙代はどう思ったでしょう。
その場での水木の態度を、どう感じたでしょう。

直後、彼女は発狂します。
周りの人間全てを殺害し、水木さえも手に掛けようとします。

これは非常に極端な行動です。
しかしその行動原理さえも「近親相姦の事実を知られた以上、もう水木に愛されない」という事で説明がついてしまうのが恐ろしいところ。

結局彼女は本当に水木を愛していて、ただそれだけだった。
ストーリーの最大の被害者にして、とても美しい最期でした。

④長田時弥

本当に一切悪い事してないんですよね、この子……

悲劇的な立ち位置その2。

正直、時くんは生き残ると思っていました。ゲゲ郎が彼に希望を見出した事、水木に懐いていた事から、彼が生き続けるのが物語のハッピーエンドの構成要素だと思っていました。

でも死にましたね、普通に。
しかも諸悪の根源である時貞に身体を奪われ、悪い事をしていないのに地獄行きという理不尽。
その上現代まで狂骨としてさまよう咎を受ける始末……この子が一体何をしたというのか。

最後に鬼太郎に救われたとはいえ、あまりにも報われない末路。可哀想にもほどがあります。

⑤長田庚子

取り立てて可愛い系のキャラデザでもないし、
普通に子持ちのおばさんなんですが……

特に取り上げる事もないキャラのはずなのですが……

この人、声可愛すぎん?

最初にこの人の声を聞いて、思わず笑いそうになりました。

見た目も設定も全然可愛くないはずなのですが、声だけ可愛いというギャップ。このミスマッチ感、くせになりそうです。

⑤ある謎の少年

完全にネズミ男である。

完全にネズミ男である。

コミカルなキャラですし、登場する事で雰囲気が和むから全然良いんですけど……一つだけ。

時系列を考えるとこの人、鬼太郎よりかなり年上なんですね。

同い年くらいかと思いきや……
っていうかこの場合だと、鬼太郎もせいぜい80歳くらいですか。そう考えると、鬼太郎は妖怪達の中では若者に分類されそうですね。

メインのストーリーは鬼太郎が生まれる前なので、当然鬼太郎との絡みはありません。ただ、ネズミ男と鬼太郎の友情は好きなので、次回の劇場版があればその辺フィーチャーして欲しいと思いました。

⑥長田幻治

こいつ、黒幕候補だったんですけどね……

あまりにも属性過多すぎる人。

糸目で、裏切りそうな声。
村長という特殊な立ち位置で、かつ裏鬼道の使い手。

……

なんでこの人、あんなに早く退場したんですかね。

裏鬼道とは一体なんだったのか。いかにも幽霊族の仇として出てきて、一度はゲゲ郎を下した実力者ですが、二度目の対戦は無いまま死亡。因縁も何もあったもんじゃない。

沙代が悪いといえばそうなのですが、この肩透かし感は面白いです。
沙代の奥に時貞というラスボスが控えているからこそできる在庫処分……面白い作劇でした。

・まとめ

総合的に、すごく良かったと思います。

前述した通り、ストーリーの後半は多少ご都合主義でしたが、それを補って余りあるエモーショナルな展開。

昭和初期、閉鎖的な村、大富豪、連続怪死事件、妖怪、厚い友情、行き過ぎた恋愛感情、無情過ぎるほぼ全滅エンド……

全部好みです。
性癖ドストライクと言い換えてもいい。

あまりにも良かったので、感想を垂れ流してしまいました。

駄文ですが、読んで感想を共有して下さると幸いです。

何卒よろしくお願いいたします。

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