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【集中講義Ⅵ】ミステリ的観点から見るうみねこ(殺人事件編)

はじめに

「うみねこのなく頃に」を考察していきます。

今回は前回に引き続き、うみねこをミステリ的視点から見てみます。

↓前回の考察↓

前回は碑文の謎についてでしたが、今回は事件についてです。EP1~EP4までに展開されるゲーム盤での謎をミステリ的観点から見た場合、どんな事が分かるでしょうか。早速見てみましょう。

・EP1、第一の晩

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出題

遺体発見現場→園芸倉庫

被害者→蔵臼、留弗夫、霧江、楼座、郷田、紗音

論点

→①密室状態の園芸倉庫、鍵は使用人室のキーボックスの中に戻してあった

②犯人はどうやって屋敷広間にいた6人もの大人を殺害したのか

解答

①使用人である紗音が真犯人であるため、普通にキーボックス内の鍵を使って園芸倉庫を開け、事が終わった後に戻しただけ

②協力者が複数人いるので人手を借りた

判定

①、②のどちらも推理は可能です。嵐の孤島という状況と複数人の犯行という事で、残った使用人全員を疑うのが正解でしょう。

この事件単体ではまだそれほど難しい状況ではありません。ただ、作中ではそれを推理する人がいませんでしたね。

推理要因の霧江は早々に殺害され、次に頭が良い絵羽も後述の理由から推理してくれませんでしたし。良くも悪くも直情的な人達ばかりが残ったのが人間側にとって痛手でした。

・EP1、第二の晩

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出題

遺体発見現場→客室

被害者→絵羽、秀吉

論点→密室状態の客室、チェーンが掛かっていた

解答

チェーンが掛かっているのを目撃した源次、嘉音は犯人の協力者。本当はチェーンなんて掛かっていなかった

判定

ここは相当アンフェアだと言わざるを得ません。

三人称視点で進むゲームにおいて「室内にチェーンが掛かっている」という描写そのものを疑うのは、少なくともEP1の時点ではかなり難しいでしょう。口裏合わせの嘘をあたかも本当の事のように描写するうみねこ独自のシステムに気が付かないといけません。

少なくともEP3にてワルギリアが盤上世界の描写の不確かさに言及しない限り、ここに気づくのは難しいでしょう。

ただし、逆にEP3後なら気づきは可能かもしれませんね。

・EP1、第四の晩

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出題

遺体発見現場→ボイラー室

被害者→金蔵

論点→金蔵を殺害するチャンスは誰にもなかった

解答

金蔵はゲーム開始時点で死亡している

判定

第二の晩と全く同じ理由でアンフェアです。

ゲームでは生きている金蔵がたびたび描写されていますからね。同じく等しくEP3後でなければ解けません。

・EP1、第五の晩

出題

遺体発見現場→地下室

被害者→嘉音

論点→①嘉音を殺害するチャンスは誰にもなかった

②嘉音が見た黄金の蝶はなんだったのか

解答

①嘉音の死は自作自演、検視した南条は協力者

②単なる魔女幻想

判定

②の魔女幻想は解釈が厳しいですが、①は南条を疑えば可能です。上の9人と違い明確に死亡していると分かるような見た目の死に方ではなかったので、推理はそう難しくないですが……劇中において戦人達は当たり前のように南条を信じ切っていたのでその辺は盲点になりやすかったかもしれません。

いずれにしろ、ここはそれほどアンフェアではありません。

・EP1、第六~八の晩

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出題

遺体発見現場→客間

被害者→源次、熊沢、南条

論点→①密室状態の客間、犯人はどうやって入ったのか

②何故真里亞は犯人の顔を見ていないのか

③真里亞以外の4人は皆アリバイがあり、容疑者が他に誰もいない

解答

①犯人は客間の鍵を所持していた

②真里亞はベアト信者なので犯人の言葉に従った

③第五の晩で生きていた嘉音が自由に動ける立場にあった

判定

意外とここはフェアな部分です。

第五の晩で嘉音が生きている事さえ看破出来れば、後は簡単。死んだと思われていた嘉音は鍵の入手も容易なので、①と③は推理可能。

②に関しても、真里亞がベアト狂信者なのはそこまでの描写から見て取れるので、真犯人に丸め込まれたと解釈する余地は十分にあるでしょう。

・EP1、夏妃殺害

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出題

遺体発見現場→魔女の肖像画前

被害者→夏妃

論点→生き残った4人はアリバイがあり、容疑者が誰もいない

解答

第五の晩で生きていた嘉音が自由に動ける立場にあった

判定

第六~八の晩と全く同じ理由でフェアです。

しかしやっぱり夏妃を殺害したのは謎すぎて笑えます。ヤスの私怨が透けて見えますねえ……

EP1総評

とりあえずEP1の時点でも、第二の晩の密室と第四の晩の金蔵殺害以外はフェアな推理が可能という事が分かりましたね。

ちなみにEP1に限って言えば、紗音の死が偽装である事を見破る必要はありませんでした。

しかし絵羽、秀吉、金蔵の死の謎を求めて後のゲームをプレイすると、どうしても紗音=嘉音に気が付く必要があり、そうすると今度は第一の晩の描写から絵羽・秀吉が共犯である事への気づきが必要なのがなかなか厄介ですね。

さて、次はEP2に行きましょう。

・EP2、第一の晩

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出題

遺体発見現場→礼拝堂

被害者→蔵臼、夏妃、絵羽、秀吉、留弗夫、霧江

論点→①密室状態の礼拝堂、密室状態は楼座が使用人全員・南条の立会いの下で確認している

②人はどうやって6人もの大人を殺害し、礼拝堂まで連れていったのか

解答

①楼座と使用人全員と南条が協力者である

②それだけ頭数がいれば問題なし

判定

……

アンフェアですね。

協力者多すぎでしょ。

鍵の描写が魔女幻想である事に気が付くというのもさる事ながら、ベアト入れて生き残った13人のうち過半数を占める計7人もの人物が口裏合わせをしたという考えは難しいでしょう。

とはいえ、次の事件以降も加味すれば不可能とは言えませんが。

・EP2、第二の晩

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出題

遺体発見現場→朱志香の部屋

被害者→朱志香、嘉音

論点→①露骨な魔女幻想描写

②嘉音の遺体はどこにいったのか

③密室状態の朱志香の部屋

解答

①魔女幻想

②嘉音の死体は存在しない

③使用人が共犯者なのでマスターキーを借りられる

判定

いよいよ本格的に考察の邪魔になってきた魔女幻想ですが、だからこそそろそろ気が付く事が可能だという事で、今後は魔女幻想有りの描写もフェアとしてもよいのかもしれません。

というわけで①と、第一の晩も含めて③はクリア。

残る②は、EP1の考えも含めて嘉音の黒幕説を深める方向に推理を進めていく事になりそうです。朱志香の見たものが幻想で、実際は嘉音が朱志香を殺害して逃亡した……と。実際それで正解なので、第二の晩はフェアですね

・EP2、第四~六の晩

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出題

遺体発見現場→夏妃の部屋

被害者→譲治、紗音、郷田

論点→密室状態の夏妃の部屋、鍵は全て楼座が所持しており楼座にはアリバイがあった

解答

紗音が郷田と譲治を殺害、その後自殺

判定

いよいよ混沌としてきましたが……一応推理は可能です。というか、密室が完璧なので中の人物による自殺(心中?)と考えるのが妥当でしょう。ただし二人を殺して最後に自殺をした人物が誰かというのをここで判断するのは難しいでしょう。

使用人が共犯というところまで辿り着いても、紗音と郷田のどちらが主犯かという謎に確信を得るためには、やはり紗音=嘉音を認識した上で嘉音=紗音=黒幕という方程式を立てなければならないため、EP3以降に持ち越しの謎となるでしょう。

よってここは謎そのものは解けるが犯人は分からないという事で半分フェア、半分アンフェアです。

・EP2、第七・八の晩

出題

遺体発見現場→使用人室・中庭

被害者→南条・熊沢

論点→①紗音と源次が見た嘉音とはなんだったのか

②南条・熊沢は誰が殺害したのか

解答

①紗音と源次の口裏合わせ

②二人を殺したのは源次

判定

魔女幻想はともかく、残った使用人が源次と紗音しかおらず、紗音は後程死んでいるのでここまでの推理を上手く進められていれば十分フェアな推理ができるでしょう。

EP2総評

第四~六の晩がEP2のみでは完璧には解けませんが、辻褄の合う推理をするだけなら問題ないので、とりあえずフェアだと言えるでしょう。

個人的なプレイの感想になるかもしれませんが、EP2は最終的に行方不明のままで終わる嘉音が結構印象に残りました。なのでこの辺りから嘉音に目を向けるプレイヤーは多いでしょう。

・EP3、第一の晩

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出題

遺体発見現場→個室(6人別々)

被害者→紗音、熊沢、郷田、源次、金蔵、嘉音

論点→6つの連鎖密室、使用人全員死亡によりマスターキーはなし

解答

紗音が偽装死、連続殺人後嘉音として偽装死

判定

連鎖密室、非常にミステリ的ですが、同時に非常にアンフェアだと思いました。

密室の謎そのものは、最初に見つかった紗音が偽装死だったという事で説明がつきます。

……が、紗音の死亡は赤き真実で宣言されていました

これはさすがに厳しいです。紗音=嘉音に気が付いたとしても、結局ここで手詰まりです。紗音と嘉音の死があくまで人格の死という事に気が付かないといけないのですが……ここまでにその伏線は描写は一度たりともありませんでした。

劇中で戦人がやっていたように、途中で紗音が事故死したと考えるくらいが精一杯でしょう。

・EP3、第二の晩

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出題

遺体発見現場→薔薇庭園

被害者→楼座、真里亞

論点→楼座、真里亞を殺害できた容疑者がいない

解答

体調不良を装った絵羽が部屋から抜け出し黄金発見の事実を知る楼座を殺害、騒いだ真里亞を絞殺

判定

エヴァ・ベアトリーチェという特大の魔女幻想を除けば非常にフェアです。後々霧江・留弗夫ペアが館へ赴く伏線でもありますし、幻想世界の戦人がさらなる証拠を見つけてくれるので、推理は容易です。

・EP3、第四~六の晩

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出題

遺体発見現場→玄関ホール

被害者→秀吉、留弗夫、霧江

論点→三人を殺害できた容疑者がいない

解答

疑われた秀吉、屋敷にて留弗夫と霧江を殺害。

即死しなかった霧江、秀吉を殺害。

判定

第二の晩と同じくフェアです。

秀吉が疑われる伏線はあったのですが、まさか発砲されるとは思っていなかったのでしょうか。一なる真実ではあっさり秀吉を殺害した霧江でしたが、ここで脱落。それでも一矢報いる辺り霧江の執念深さが窺えます。いや、今回の記事とは関係ない事なんですけどね。

しかし撃ち合いの末全員死亡とは、かなり壮絶です。

・EP3、第七・八の晩

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出題

遺体発見現場→薔薇庭園東屋

被害者→蔵臼、夏妃

論点→特になし

解答

二人を殺したのは絵羽

判定

特に言う事はありません。

・EP3、譲治殺害

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出題

遺体発見現場→客間

被害者→譲治

論点→譲治を殺したのは本当に絵羽か

解答

漫画版では解説されていないが、扉の文字から紗音による殺人とされている

判定

漫画版EP7の記述から、紗音がまだ生きているという事が窺えます。紗音と違って絵羽は損得が利く人間なので、動機の面から言っても譲治を殺害する事はないでしょうから、やはり紗音が犯人なのでしょう。何故碑文を解いた絵羽を無視して殺人を始めたのかは定かではありませんが……とりあえずここではその考察はしません。

ともあれ、この真実に行き着くためには紗音が生きているという前提が必要なので、第一の晩と同じくアンフェアです。

・EP3、南条殺害

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出題

遺体発見現場→使用人室前廊下

被害者→南条

論点→南条を殺害したのは誰か、戦人・絵羽・朱志香にはアリバイあり

解答

南条を殺したのは紗音

判定

言うまでもなくアンフェアです。

EP3総評

戦人殺害は明白なのでカットします。

EP3は総じてアンフェアですが、その要因は全て紗音=嘉音=もう一つの人格(ヤス・ベアトリーチェ)に辿り着く事が不可能だからです。

逆に言うと、そこに辿り着きさえしてしまえば、EP3はかなり分かりやすい構造になっています。劇中でもう一人の犯人、割れてますしね。

・EP4、第一の晩

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出題

遺体発見現場→食堂

被害者→夏妃、絵羽、秀吉、留弗夫、楼座、源次

論点→①6人はどうやって殺害されたのか

②生き残った蔵臼、霧江、紗音、嘉音、南条はどうやって地下に移動させられたのか

解答

①②戦人を除く全ての人物が買収されている

判定

……

…………

……………………

さすがにアンフェアでしょう。

探偵と協力者を除く全ての人物が共犯者という古典ミステリもありますけど、さすがにやりすぎではないでしょうか。

まあこの辺りからゲーム盤世界の事件の真相はあまり重要ではなくなってくるので何とも言えないのですが。

・EP4、第二の晩

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出題

遺体発見現場→薔薇庭園東屋、朱志香の部屋

被害者→譲治、朱志香

論点→二人は誰に殺害されたのか

解答

二人はシナリオ通り動いているだけ

判定

言わずもがな。

しかし譲治と朱志香を買収って、紗音は一体どうやったんでしょうね。二人は盛大なハロウィンパーティーのつもりだったのでしょうか。

・EP4、第四~八の晩

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出題

遺体発見現場→客室、屋敷裏手

被害者→蔵臼、霧江、紗音、嘉音、南条

論点→誰が5人を殺害したのか

解答

犯人はヤス

判定

アンフェア……と言いたいところですが、一概にそうとは言えません。

こここそがEP4における唯一にして最大のヒントだと思います。紗音の杭が身体に刺さっておらず、嘉音が行方不明。これは必然的に紗音=犯人、嘉音=犯人として、紗音=嘉音を結びつける鍵となります。

それがイコールフェアであるとは思いませんが、きちんとした手がかりを遺したという点では全くのアンフェアではないでしょう。

・EP4、郷田・熊沢殺害

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出題

遺体発見現場→園芸倉庫

被害者→熊沢、郷田

論点→誰が二人を殺害したのか

解答

犯人はヤス

判定

紗音=犯人が分かっていれば特に問題となる場面ではありません。

・EP4、真里亞殺害

出題

遺体発見現場→食堂

被害者→真里亞

論点→誰が真里亞を殺害したのか

解答

犯人はヤス

判定

もういいと思いますが、ここも同様です。

ちなみにここの真里亞、毒殺というこのゲームではかなり珍しい方法で殺されています。マリアージュ・ソルシエールのせめてものよしみだったのでしょうか。もっとも、殺害している時点で大概ですが。

EP4総評

EP4は全て紗音のジェノサイドなので、ミステリというよりもサスペンスの色が強いかもしれません。いずれにしてもミステリにおいては相当にアンフェアで、それでいて推理の余地はほとんどありませんでした。

まとめ

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EP1:概ねフェア。アンフェアな点は以下の二つ。

①第二の晩客室のチェーン→EP3にて魔女幻想の概念を知ればOK。

②第四の晩金蔵殺害時の全員のアリバイ→紗音の偽装死もしくはEP4にてゲーム開始時における金蔵の死を知ればOK。

EP2:概ねフェア。アンフェアな点は以下の二つ。

①共犯者多すぎ→致し方なし

②第四~六の晩で自殺したのは誰か→EP4にて紗音犯人説に辿り着けばOK。

EP3:ほぼアンフェア。根拠は一つ。

紗音・嘉音の死=あくまで人格としての死であり、紗音が紗音・嘉音以外にもう一つ人格を持っているという事を推測不可能であるため

EP4:ほぼアンフェア。根拠は二つ。

①共犯者多すぎ→致し方なし

②推理すべき点がほとんどない

結果:フェア×2EP、アンフェア×2EP

……つまり半々ですね。

よってうみねこは半分フェア、半分アンフェアです。

つまりミステリとして取り組む価値は十分にあるという事です。

この記事をここまで読んでいる方には何を言っても手遅れかもしれませんが、もしも今から「うみねこ」に手を出そうとしている知人がいらっしゃるなら、ぜひともそうアドバイスしてみてください。

それだけがわたしの望みです。

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