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アイドルの儚さとアイドルグループの持つ宿命


乃木坂46のドキュメンタリームービー第2弾となる『いつのまにかここにいる』を遅ればせながら見た。2019年6月に公開された本作は、2018年9月から1年弱に渡る密着取材によって製作された。その間には、1期生として、また乃木坂の顔として幾度もセンターを務めた西野七瀬の卒業や、坂道合同オーディションによる4期生の加入だけでなく、衛藤美紗や若月佑美などの1期生として乃木坂を支えてきたメンバーの卒業もあり、この作品は、国民的アイドルグループへと成長した乃木坂46の過渡期にカメラを向けたものとなった。上映当時、評価が低かった割には、中々興味深いシーンも多かったように感じたが、一言で言ってしまえば、アイドルグループの、コンテンツとしての儚さを改めて想起させるものだった。


映画は監督の撮影時の心境や感想の言葉と共に映像が切り替わっていく形だが、当の監督本人が冒頭で「既にスターになった彼女たちの何を撮れば良いのだろう」といった心境を吐露している。そのような背景からか、内容の割合としては半分ほどが西野七瀬の卒業について、そして残りがグループとしての仲の良さや、新しく加入した4期生、そしてグループのエース齋藤飛鳥などに焦点があてられている。


2011年に結成された乃木坂46は、取材当時が結成7年目。既に前年に『インフルエンサー』でレコード大賞を受賞。海外ライブなども成功させ、日本を代表するアイドルグループとなっていた。では監督の懸念していたように、もうグループとしての魅力やコンテンツとしてののびしろが無いかといわれたら、そんなことはない。

アイドルグループをエンタメコンテンツとして考えた時に、見る者を惹きつける要素としては大きく分けて2つあるように思う。1つは彼女たち自身のライフストーリーだ。ステージで歌って踊り華やかな姿を見せる彼女たちにも様々な背景があり、アイドルとして表舞台に立つ中での本人の失敗や成功、そしてその成長を見届けることは、アイドルを応援することの最大の魅力の1つだろう。その点で言えば、乃木坂というグループが大きくなるにつれ、1期生を初めとする各個人がテレビや雑誌、舞台など多方面で活躍の場を広げるようになれば、ファンとしては飽きることなく応援できるはずだ。また、大人数アイドルグループ最大の特徴の1つである世代交代。これに関しても、新しい子が加入すれば、またその子らのライフストーリーが、グループに新たな色味を加えてくれる。

ではもう1つの要素に関してはどうだろうか。アイドルグループが見る者を惹きつける2つめの要素は、そのグループが内包するストーリー(ヒストリー)だと思う。グループとしての歴史、挫折と栄光、それらがグループのアイデンティティーを確立する。もっと言えば、これらと1つめの要素、その双方が組み合わさった瞬間こそが、そのアイドルグループが最も魅力的に映る瞬間のように思う。そう考えると、7年間という時をかけて、紅白出場、東京ドーム公演やレコード大賞受賞など、数々の業績を打ち立てた乃木坂46というグループとしてのストーリーは、既に完成されてしまっている部分も多いことは確かだろう。そして何より、そのストーリーを作り上げてきたメンバーのほとんどがこの2018年から2019年にかけてグループを卒業していったことも無視できない。7年間で培ってきた1ページ1ページ。それを刻んできた当人たちがいなくなってしまっては、語られるストーリーの魅力を残すところ無く受け取ることも難しくなってしまうのではないだろうか。

そのように考えると、乃木坂46も、アイドルグループというコンテンツの短命さを避けては通れず、白石麻衣までもが卒業してしまった今となっては、いよいよ1つの時代の終焉に直面しているのかもしれない。

かつて全盛を誇ったAKB48 も、神セブンと言われたメンバーが存在し、彼女たちがその歴史を刻み、ファンを熱狂させてきた。その人気に陰りが見え始めたのはやはり、前田敦子や大島優子、そして渡辺麻友など、その歴史を生きたメンバーがグループを離れた時期だろう。


無論、その後を継ぐメンバーがいて、彼女たちが新たな乃木坂を作り上げていくことは間違いない。3期生の山下美月や久保史緖里などが新たなる顔としてグループを牽引していき、粒ぞろいな4期生も加わって、過去にないほどの盛り上がりを見せる可能性も十分にある。

しかし、今後、残る1期生の齋藤飛鳥や、生田絵梨花などがグループを去り、その世代交代が完全に完了した時、乃木坂が積み上げたものの偉大さと同時にその儚さに改めて思いを巡らせることになるのかも知れない。

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