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departure-Ep3

ep紹介:大学のお昼の休みに、ひとりでご飯を食べていると、友達がやってくる。何やら、トラブルの予感。前回から時間は飛んで、イギリス3年目の秋。

故郷を想うことはあるでしょうか。

大学のカフェでラジオの有線が流れてて。

カミーラ・カベロのハバナが何回も何回も流れていた時があって、
カミーラ・カベロはアメリカ人の歌手で当時20歳だったかな

ハバナって曲は、どちらかというとムーディーな感じで、
私の心の半分は故郷のハバナにあるの。っていう曲で、

それを散々聞きながら、ご飯を食べたり、課題をやったりしていました。

だから何だよって感じなのですが。

イギリスのミッドランドの田舎って殺風景というか、丘が続いていて、
11月はどんより雲がその丘のうえを覆って、小雨なんかが降ったりして、
おそらくハバナとかけ離れているんです。

で、私のこころの半分は故郷の東京にあったわけではなくて、
どこか別の、自分でもどこにあるかわからない場所にあったと思います。

第3話 秋霧とサラダ

本日のメニュー
チキンカレー
ベジタリアン・ビーガン ベジタブル カレー
ジャッキーポテト
フィッシュアンドチップス

私はメニューを一読して、学生食堂を後にし、隣のカフェに来た。

本日のメニュー

トマトスープ
パンプキンスープ
チキンサラダ
コブサラダ
ツナメルトサンドイッチ
ポテトクリームパイ

チキンサラダを注文する。番号札を持ってテーブルに着く。
リュックから出されたばかりの課題を取り出して、テーブルの上に並べてなんとなく眺める。

チキンサラダが運ばれてきた。クルトンとシーザードレッシングが上にかかっている。
フォークで遊びながら、斜め前のソファー席にいる同じクラスの男の子が任天堂スイッチで遊んでいるのを眺める。まだ学期が始まったばかりでみんな気楽そうだ。

スピーカーからはカミーラ・カベロのハバナが流れている。イギリスに戻ってきてから至る所でこのハバナが流れているから、一度も自分で検索して聞いたことがないのにもう覚えて歌えそうなくらいこの曲を聴いている。

サラダは冷たい。
まだ10月下旬。外は気温15度くらい。赤いフード付きのダッフルがあれば帰りが遅くなっても凍えることない。

午後はヘレナ先生の確率過程なんだ。ヘレナは私の担当教授でもあるギリシャ人の先生で、初回の確率過程の授業の後に質問に行ったら1時間丸々質問の回答に時間を使ってくれたとても良い先生だ。おっせいかなところを除けば。

どうして私が確立過程なんかやってるのかわからない。私は確率は嫌いなんだ。そもそもランダム性なんて定義できないんだ。偶然というものは本当は必然なんじゃないか。

サラダはぬるくなっってきた。

「ヘイ、ヒナ。午前の授業どうだった?」

アリスだ。アッシュブロンドの髪の毛が少し濡れている。着古された薄桃色のセーターを今日も着ている。

「とてもツマラなっかた。どうぞ、座って。」

私はテーブルの反対側の椅子を指した。

アリスは無言で座ったが、周りを見渡したり、手を揉んだりしてソワソワしている。

それからリュックからフラップジャック(flapjack)を取り出した。

「お昼食べてないの?」

「お昼どころか朝から何も食べてない。さっき起きて急いでシャワー浴びてきた。」

フラップジャックというのはイギリスのお菓子て、オートミールとシロップで作るシリアルバーのようなものだ。シロップでオートミールがふやけているからしっとりベタベタしている。 これ以上イギリスの庶民らしいお菓子を私は知らない。

アリスは小さな口でフラップジャックを少しづつ食べた。

「二人は?」

とアリスは聞いた。

タリファとナイジャなら二人とも午前中の授業にいたけれど、どちらも授業が終わった途端、バラバラでどこかに行ってしまった。
いつも二人はべったりなのに。

「わからない。 授業にはいたけど。多分図書館じゃないのかな」

「ふーウん」

私は食べ終わったサラダを退けてテーブルに課題を広げた。

「あの二人、昨日から喧嘩してる。」

「えっ?そうなの」

「私はナイジャ側の話しか聞いてないから、あまり沢山のことは知らないけどね。」

ナイジャはともかく、タリファは二人の喧嘩を部外者がペちゃくちゃ話すのを嫌がりそうだ。

「なるほどね、教えてくれてありがとう。死ぬほど何があったのか知りたいけど、Tarifaに直接聞いてみるわ」

「オーケー、いいんじゃない」

アリスの人形みたいな小さな口はフラップジャックのシロップと油で濡れている。

そして今度はリュックのポケットからタバコとフィルターとそれらを巻くための紙を取りだして、机の上でタバコを巻きだした。

タバコを袋から摘んでとって、紙の上に両手でほぐしながら、細長く乗せてゆく。
フィルターを端に置いて、ゆっくりゆっくり丁寧に巻いていく。

ほとんど巻き終わると、舌をペロっと出して余らせた紙を舐め、舐めた部分も巻いて接着させる。

巻き終わったタバコを机の上に置き、巻きタバコセットをリュックのポケットにしまうと、椅子から立ち上がってリュックを背負った。

「タバコ吸うから先行くね。」

「分かった、後でね。」

薄桃色のセーターを直し、タバコを持って、彼女はカフェから立ち去った。

第3話を読んでいただきありがとうございます。PodcastとSpotifyでは音声でお楽しみいただけます。次回、第4話は4月23日に投稿予定です。


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