お見合いワイプアウト　携帯が通話のみの時代、いかにして出会うのか？

今から数十年前、私はサーフィンに没頭していた。のめりすぎて彼氏とも別れ、ケアを怠り日に日に黒ずんでいく私を心配したとあるマダムが、声をかけてくださった。

夫の部下で、あなたみたいな子がいるの、サーフィンばかりで、将来心配で心配で、、あってみない？

思いもかけないオファー、断る理由はない。マダム経由で電話番号を交換し、連絡をとった。共通の話題のおかげで、初顔合わせはサーフィンになった。

私はサーフショップに赴き、行き先について教えをこうた。当日の予想は、春の嵐の通過後。うねりと風のやむタイミングが難しい。店員Ｋさんは、いろいろと考えてポイントSを推してくれた。が、当日、お相手が、私の実力を考えてくれたポイントOは、それでも私にはハードすぎたのだ。

私はみるみるお相手を見失い、波にもまれて板もぶっ壊れた。鼻水をたらし、髪もグチャグチャ、茫然自失の私。相手の人となりもよくわからぬまま解散となった。

結局、また連絡します、は、社交辞令だった。

何故かモヤモヤする。が、お相手は、立場的に断りにくいお話をうけて、貴重な時間を割いてくれた。私を見て、がっかりしたかもしれないけど、もっといい波がたっていた中、わざわざ私にあわせてくれた。それだけでもありがたいのに、なんだ、この敗北感は、、じゃあ、もしお付き合いを申し込まれたら、お前の答えはイエスなのか。ただ優越感にひたりたいだけだろう？？

おのれの醜さと向き合い、もやもやした思いと壊れた板を抱えて、サーフショップを訪れた。Kさんが聞く。

あの日、ポイントSがフラットになっちゃったから、勧めたのに申し訳なくて、大丈夫だった？　波?

Oに行って、、このとおりです。

うわ！これは大変だったね！紐が長すぎてこうなっちゃったんだよ。大丈夫だった？　怪我？

はい、、

で、、大丈夫だった？　本題ね

お見合い、、ワイプアウトでした、、

ウッソー！！ワイプアウト？？　そばにいた社長の奥さんが大声をだした。

そーなの？？だめだったの？？ワイプアウト！！サーファーらしいね！お見合いワイプアウト！！！

サーフィン用語を使った表現にえらく反応してくれ、おおうけ。遠慮がちだったKさんもつられて笑い、場が和んだ。私の失敗談は、人生のネタに昇華された。

あの時Sにいっていたら、いやがおうでも普通デートになって、少しはお互いわかり会えたかもしれない。でも、こうなったのはきっと運命。私はネタを一つ獲得した。

社長の奥さんのおかげで、私はまたひとつ強くなり、次なる伴侶探しの旅にでるのだった。長い長い旅に、、ね。