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非モテが青春文学を読んだら、カフカ的不条理を感じた。「変身」は青春ゾンビと化した男の話。


企画説明

 どうも、非モテ読書ブログです。人は読書をするとき何を求めるのだろうか?学術書ならば知識、文学なら疑似体験、私はそう思っている。なので普段読まない、自分とはまったっく違った世界の本を読んだらどうなるのだろうか? これまでの人生で、健全な男女の交友と無縁の僕が青春文学を読んだら、カフカ的不条理に悶えた、という話をしようと思う。
 前置きな話をしよう。氷菓という小説をご存じだろうか? 日常の謎を描くこの青春ミステリ小説であり、青春部活モノの感も楽しめる一度で2度美味しい名作だ。同著者の作品に、図書館員シリーズというものがある、1作目、『本と鍵の季節』の913という話では、主人公が惚れている先輩に依頼を受け、開かずの金庫の暗証番号を探そうという話だ。ネタバレを避けるが、この話の一節にこんなものがある。主人公が友人に、先輩が好きだということを指摘されたシーンだ。

好きというほどではない。僕にはもちえない華やかさと明るさに、少し憧れていただけだ。

本と鍵の季節 913 米澤穂信

僕は、先輩に恋をしていて、この一節は明確に輝いて見えた。それが青春文学の楽しさを教えてくれた。そして今、これを書くために再び読み返して、胸が締め付けられる思いだ! かつていくらかの希望を持っていたが、今ではそれすらも望めない、ただ日常に人生をすり減らしていくだけだ。
 だからこそ僕は、今再び傷つきながら青春文学を読もうと思うのだ、いつか見た憧憬を思い出すために、そしてその筆跡を残さんと欲す。



 1作目・いなくなれ、群青 著者:河野裕

  私には何処か欠けたところがあるのだろうか? そんな疑問を抱かせる小説だった。或いは、未来のある、おそらく変化が持っている僕は、どれだけの物を捨てられるのだろうか?
この小説は、階段島と言われる孤立した島に主人公は暮らしていた、この島は捨てられたものが行き着く場所である。三か月前に気がついたらこの島にいた、そして元の暮らし(日本)に戻りたいなら失ったものを見つけなければいけない。階段島での暮らしに満足していた主人公は、別れたはずの真辺と再開する。真辺とは小学生からの仲で、その独善的な正義に惹かれていた主人公は、真辺がこの島にいることを望まなかった。彼女と同じくらいのタイミングで階段島にやってきた大地を皮切りとして、この島の秘密を暴き、本島に戻ることを決意する真辺に振り回されながらも、主人公は群青に輝く星、真辺を理想の姿のままでいてほしいと願う、そんな物語だ。作中で主人公は、探偵でありながら苛烈な理想を掲げるヒロインに振り回されるハルヒのキョン的な役割でもある。

間違うしかなくて、間違い方しか選べないような問題が、僕たちの周りにはあふれている。

僕は、ある小説から引用するならば、「大切なのは勝利ではなく、敗北してもなお利益を得る戦い方だ」という言葉が好きだ。おおよそ、人生には矛盾したような、冷酷な選択肢が突きつけられているものだろう。選択には哲学が必要だ、そしてそれを醸成するために挫折と成長が鍵となるのだ。僕は青春文学とはビルドゥングスロマーン的な要素が必要だと考えている。解説を引用しよう。

教養小説(きょうようしょうせつ、 ドイツ語: Bildungsroman)は、主人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のこと。ドイツ語のBildungsroman(ビルドゥングスロマーン)の訳語で、自己形成小説成長小説とも訳される。

wikipedia:教養小説 - Wikipedia

『いなくなれ、群青』において挫折は真辺との別れだろう、それがきっかけになり、主人公は階段島に捨てられるわけだ。真辺が自分を捨てた理由は明言されていない、それでも何かしらの挫折、理想主義を断念せざるをえないリアルがあったのだろう。

感想

変身もできない、必殺技も使えないヒーローが、それでも正義の心を忘れられなかったならきっと、悲惨な結末しか訪れないだろう。

この文で思い出したことは、私もかつてヒーローだったな、ということだ。正義の心があったかは定かじゃないけれど。それでも、思い出或いは惰性というものは強力で、ニュートンの法則にもあるように、すでに動いているものを止めるには何かしらのエネルギーが必要だ。僕らの人生のような、堕落したものをそこからすくい上げるのは、怠惰な僕らには身に余る労力のような気がする。つまり僕ら非モテは構造的に、物理的に不可能なことに身をやつしているような気がする。だが絶望はしないでくれ、それは死に至る病だから、こんな言葉もあった。

ねぇ、真辺。人は幸せを求める権利を持っているのと同じように、不幸を受け入れる権利だって持っているんだよ。

真辺というヒロインに主人公が言った言葉だ。我々はどうするべきか?僕は何も言わない、ただ選択肢は多いほうが良いだろう?

 この小説の感想だが、面白かった。一つ不満があるとすれば、あまりイチャイチャしていなかったとこだ。その御蔭で読みやすかったのだが。フィクションの、概念的な魔法やら、人間関係に対して僕は何も語ることはない。ともすれば、僕にとってこの本は、「ピストルスター」なのだ。

地球からとても離れた場所にある、本当はものすごく巨大な星

太陽よりも何倍も明るいこの星は、現実のもとに照らされた僕の、群青色の空に浮かぶ、小さな輝きに酷似していた。


 2作目 君は月夜に光り輝く 佐野徹夜

 正直この小説を舐めていた。装丁と死にそうな女の子、希死念慮の少年というプロットはあまりにも月並みに見えたからだ。でも、それを越してくる仔細の面白さが詰まっていて、非常に好感の持てるド直球なジュブナイル小説だった。

「卓也くんには、私のかわりに、私が死ぬまでにやりたことを実行してほしいの。そしてその体験の感想を、ここで私に聞かせてちょうだい」

あらすじを簡単に、主人公の少年「卓也」は姉が交通事故でなくなり、鬱屈とした日々を送っていた。友人の香山はかつていじめから主人公を救ったモテ男。「渡良瀬まみず」は寿命がわずかで、病院からはあまり出られない。
 そんなキャラクターを、有り体に「あ~、いつものやつね」みたいに思った。あまりにもありふれていると思った。そこから、紆余曲折あり渡良瀬の望みを叶えるため、遊園地やバンジージャンプ、天体観測をしながら仲を深めていく。

でも、大切な気持ちほど、案外オセロみたいに簡単にひっくり返っていくんじゃねーかって思うんだよ

これは香山のセリフだが、本当にその通りだと思う。
そんな簡単なこともわからないまま、塞ぎ込んだ日々は偽りか?
これは青春の追体験などではないのだ。
 作中、いくつも面白いシーンがあるので、些細な言葉遣いに注目してよんで頂きたいのだが、渡良瀬が死んだあとの喪失感というのも一入だった。私はこの小説を終始楽しく読めた。死について考えたり、甘酸っぱさに苦しんだりと、感情が忙しかったが、おすすめできる作品だ。
 そして、自分の知りえない所で、他人から見たら哀れな状況に置かれている。青春とはそういうものだろう、青春しようと思ってしている人はいないし、むしろしないようにと思ってしてない人もあまり多くないだろう。つまり、持っている人は最初から持っていて、持っていない人にはそれがあることすらわからない、カフカ的不条理に近いものを感じるのではないだろうか。

今回の記事はここで終わらせていただこう。また、紹介したい本があったら書くのでぜひフォローしてね!

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