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Live2D 高可動域モデルの顔の角度XYのすすめ③

はじめに

皆さんこんにちは。乾物ひものです。

3回に分けてお送りしてきたこのシリーズも、いよいよ最終回となりました。

まだ前回の記事2つをお読みでない方は、是非とも読んでいただけると嬉しいです。

今回は「髪の毛」と「小物」作り方をお話していきたいと思います。

※この記事は、Live2D社主催「みんなの Live2D LAB」開設記念noteです

それでは早速、本題に入っていきたいと思います。

制作にご協力いただいたVTuberさん

今回も、記事制作にご協力いただいたVTuberさん&イラストレーターさんは以下の方々です。ありがとうございます!

【お名前一覧(敬称略)】

制作にご協力いただいたVTuberさん1

制作にご協力いただいたVTuberさん1

雨森青葉
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制作にご協力いただいたVTuberさん2

制作にご協力いただいたVTuberさん2

駆動ルル
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 イラストレーター:めーすけ

制作にご協力いただいたVTuberさん3

制作にご協力いただいたVTuberさん3

黒咲ユリア
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 イラストレーター:本田ロアロ

物理演算について

髪の毛や小物類は物理演算で揺らすのが一般的ですが、今回はサラッと触れるだけに留めます。

揺れの作り方は、主に3種類あります。

・ワープデフォーマで付ける方法
・回転デフォーマで付ける方法(スキニング)
・アートメッシュに直接付ける方法

どれも色々試した結果、私はワープデフォーマで付ける方法に落ち着きました。
青葉くんはスキニングで作りましたが、オススメはしません(高可動域モデルをスキニングで作ると、設定が大変過ぎます)

ということで、ここからは青葉くんに変わって、ルルちゃんにメインで登場してもらいます。

制作にご協力いただいたVTuberさん2

髪パーツについて

Live2Dモデルの髪パーツは、大まかに「前髪」「横髪」「後ろ髪」に分けられます。

ルルちゃん1

ルルちゃん2

ルルちゃん3

※ツインテールについては、後で小物と一緒にご説明します。

前髪の変形①

前髪一つとっても、実際には毛束ごとに数パーツに分かれていることが多いです。

ルルちゃん4

しかし、これらのパーツ全てを別々のデフォーマで動かすと調整が大変なので、

大きなデフォーマでまとめて動かすと破綻しにくくなります。

それだけでは変形が難しかったり、平面的になってしまう場合は、

アートメッシュを直接変形させるか、毛束ごとのデフォーマを内部に作って変形させます。

(ルルちゃんは全体デフォーマのみで作っています)

デフォーマの中には物理演算や差分用のデフォーマも入っているので、構造はかなり複雑になります。

デフォーマ

デフォーマ2

デフォーマが増えると混乱の元になるので、名前はしっかりつけましょう。

自分なりの法則を作ると覚えやすいです。
(私は、XY系のデフォーマは「〇〇の曲面」物理演算は「〇〇の揺れ」Zの動きは「〇〇のZ」表示非表示は「〇〇のONOFF」という命名規則で付けています。〇〇の部分にはアートメッシュの名前が入ります)

デフォーマのはみ出しについて

前髪の話の途中ですが、ここで注意しなければならない「デフォーマのはみ出し」について説明します。

変形させたときに、親のデフォーマから子のデフォーマやアートメッシュがはみ出してしまうと、その分モデルが重くなってしまいます。

はみ出し

参考:公式サイト
https://docs.live2d.com/cubism-editor-manual/combintion-of-parent-child-relation/

このはみ出し、ゲーム業界では厳禁だそうですが、実はV用のトラッキングソフトでは、はみ出しまくっていても問題なく動いてしまいます。

実際、私も昔はこの事を知らずはみ出しまくりでモデルを作っていました。

やべえよ…

(自分のモデルははみ出しが多すぎて今見ると震えます)

そもそもV用のLive2Dモデル・しかも高可動域となると、どう作ってもある程度は重くなってしまいますので、「はみ出しは厳禁!!!!死すべし!!!!」とまで必死にならなくても大丈夫なのかな?と思います。

ただ、「はみ出さずに作れるスキル」を持っているか持っていないかの差は大きいと思うので、意識しながら作ると技術の向上につながると思っています。

はみ出している部分は、「表示」の「親デフォーマからはみ出した頂点をハイライト」で目立たせることが出来ます。

はみだし2

また、「モデリング」→「デフォーマ」→「デフォーマの検証」から、はみ出している部分を一覧表示できます。

はみだし3

ここのはみ出し表示が0になるととっても気持ちがいいので是非頑張ってください!笑

はみだし4

前髪の変形②

話を前髪に戻します。

「はみ出し」を防ぐためにも、変形は物理演算の、毛先部分から順に設定していくのが良いでしょう。

当たり前ですが、はみ出さないように意識していくと、親になるデフォーマはどんどん大きくなります。

ルルちゃん5

しかし、デフォーマが大きくなっても、基本的な変形方法は変わりません。

角度XYを付け、「4隅の形状を自動生成」をして微調整します。

ルルちゃん6

前髪は気を抜くと平面的になってしまうので、頭蓋骨の丸みを意識して作りましょう。

ルルちゃん7

横髪の変形①

ルルちゃんは前髪と横髪がくっついてしまっていたので、全て一つのデフォーマで変形させてしまいましたが、

ユリアちゃんのように、横髪が長い場合は個別で変形させたほうが良いでしょう。

横髪は、長ければ長いほど変形が難しくなります。(物理演算用のデフォーマが増えてXY用のデフォーマが大きくなってしまうため)

ユリアちゃん1

横髪をどう動かすかは髪型によって個人差が大きいので、モデルに合わせて臨機応変に対応する必要があります。

3面図がある場合はそれを参考にできますが、ない場合は自分で推測するしかありません。

横髪

このように、横髪の形によって動かし方は千差万別です。

どんな動かし方が適切か見極めるには、普段からいろんな髪型のイラストや3Dモデルなどを見て研究すると良いと思います。

ユリアちゃんの場合、横髪の上部は平べったいリボン状に見えますが、下部はある程度厚みがあるように見受けられました。

なので、上部のみ大きく変形させて幅を縮め、下は元の形を残しています。

ユリアちゃん2

リボン状の横髪はこのように幅を縮めるだけで解決しますが、難しいのは筒状の髪です。

幅を変えないまま奥にやろうとすると、普通は描画順を変えることになると思いますが、そのままだと耳の時にも起こった「描画順チラチラ変わる問題」が起こってしまいます。

髪の毛は物理演算で揺れるので特にこの問題が顕著でしょう。

苦肉の策で思いついたのが、「同じパーツを複製して変形させる方法」です。

まず、横髪のパーツを複製し、2つ目を輪郭より下の描画順にします。

描画順

そして、横を向いたときに手前の横髪のみ大きく変形させます。

ユリアちゃん3

輪郭を2つの横髪パーツでサンドイッチする感覚ですね。

こうすることで、横髪自体の幅は変えないまま奥行きを再現することが出来ます。

他にも、マスクを使った変形方法などがありますが、今回は割愛します。

横髪の変形②

横髪の長さに関わらず、上を向いたときは幅を縮めるといいでしょう。

全体的な位置も上にあげます。

ユリアちゃん4

(顔が斜めに反るため、髪の毛も斜め後ろに引っ張られて、縮まっているイメージです)

逆に、下を向いたときは髪の毛は重力で下に垂れ下がっているので、上部のみ変形し、下部はそのままストンと下ろした方が自然になります。

ユリアちゃん5

斜めの動きは他と同様です。

ユリアちゃん6

交点について

すべての部位に言えることですが、最終的に違和感が無いように動かすのが重要なので、あまり変形ルールに囚われず、臨機応変に動かすのが大切です。

基本的な変形ルールは、1回目の記事でお伝えしたとおりですが、実際にはこれだけでは綺麗に動かないことが多々あります。

輪郭の変形(斜め)4

ユリアちゃんのデフォーマを見ても、とても複雑な変形をしているのが分かると思います。

では、何を基準にすればいいかというと、「交点」です。

例えば、ユリアちゃんの顔で目立つ交点は、こんな感じです。

ユリアちゃん7

このうち、髪のハイライトに関しては、ほぼ同じ奥行きで、動きも固定されているので、
角度が変わっても関係性は変わりません。

ユリアちゃん8

ココがずれてしまうと、止め絵では問題なく見えても、動かしたときに不自然にパーツが滑ってしまい、見た人に違和感を与えてしまいます。

ユリアちゃん8

※↑滑っている例

ユリアちゃん9

※↑問題ない例

そして、髪と目・眉毛の交点ですが、こちらは奥行きに差がある=髪が手前にあります。

奥行きに差がある場合は、横を向いたときに手前部分が進行方向に押し出されます。

目頭と毛先の交点を見ると分かりやすいですね。

ユリアちゃん10

この差が大きければ大きいほど、顔と前髪の間に隙間があると考えることが出来ます。

どれくらい差を出すかは絵柄によりますが、

奥のもの→手前のもの→進行方向

という順番は変わりません。

逆に言えば、手前のものより奥のものが進行方向に押し出されてしまっていると、これまた動いたときに不自然に見えてしまいます。

ユリアちゃん11

※↑前髪が滑っている例

どんなに複雑な形状のものを動かす時にも、「交点」は重要になってきますので、覚えておくと良いでしょう。

後ろ髪のパーツ分け

角度XYで一番難しい髪のパーツは、実は後ろ髪だったりします。

そもそも、普通のLive2Dの動かし方では後ろ髪はほとんど見えないため、見える事を想定して作ってないことが多いです。

(色ムラや塗りのこしがあったり、そもそものパーツがなかったりする)

特に多いのが、「後ろ髪の側面のパーツが無い or あってもとても幅が狭い」というパターンです。

側面が無い、もしくは幅が狭いと、横を向いたときにすき間が生まれ、後ろ髪の影が見えてしまいます。

ルルちゃん8


ルルちゃん9

そのため、側面パーツがない場合は追加で制作し、ある場合はデフォーマで変形させて影を隠します。

幅が狭い場合は変形だけでは限界があるので、更に側面のパーツを追加する必要があります。

ルルちゃん10

この追加パーツは、原画にはないパーツです。

前を向いたときは、なるべく手前のパーツに隠れるように動かしましょう。

ルルちゃん11

このように、後ろ髪は原画から大きく形が変わりますので、追加パーツを作る際は
トラブルを避けるためにも、イラストレーターさんに確認を取りましょう。

後ろ髪のパーツ分けは個人差が大きいですが、私は大体こんな感じで分けています。

ルルちゃん12

少し分かりづらいですが、元の側面の髪に隠れるように、追加で新しい側面用の髪を作っています。

また、髪の根元の部分…後頭部(丸い所)は個別で分けたほうが、変形がしやすいので良いでしょう。

側面の髪は横を向いた状態で描いて、後から縮めたほうが見た目がキレイになります。

ルルちゃん13

後ろ髪の変形


パーツを作り終えたら、後は規則に則って変形させるだけです。

ルルちゃん14


ルルちゃん15


ルルちゃん16

デフォーマ構成は、毎回臨機応変に変えているので特に決まってないですが、

ルルちゃんの場合は

回転デフォーマ
 →物理演算デフォーマ1
  →物理演算デフォーマ2
   →アートメッシュ

という形で作り、まず回転デフォーマで大まかな位置に動かしてから、アートメッシュを直接変形させて微調整しています。その間に物理演算用の変形を仕込みます。

ルルちゃん17

ここまで出来れば、後ろ髪はあともう一息です。

最後にやらなければいけないのが、つむじの処理です。

ルルちゃんのように、つむじが無い絵柄の場合は何もしなくてもいいので楽ですが、

ユリアちゃんのようにつむじがしっかり描いてある絵柄だと、下を向いたときに大きな隙間が出来てしまいますので、パーツを付け足す必要があります。

ユリアちゃん12

今回は影のパーツを左右に追加しました。

ユリアちゃん13

つむじの元の部分はアートメッシュで直接動かし、それにあわせて追加パーツをデフォーマで動かしています。

ユリアちゃん14

ユリアちゃん15

これで髪の毛も完成です…!

あとは、キャラクターに合わせた小物を作っていきます。

(一切小物が無いキャラクターは、これで顔の完成です。)


小物の変形


小物は、人によって種類もサイズも動きもバラバラなので、いくつか参考例を挙げたいと思います。


①ツインテール・サイドテール・リボンなど側面のパーツ

ツインテールやサイドテールは髪ですが、小物として紹介します。

これらのパーツは、側面の髪に合わせて、回りこむような動きをします。

ルルちゃん18

奥のパーツは横に縮めるか、描画順を下げて後頭部の後ろに置きます。

描画順を下げるやり方はダイナミックな回り込みが出来ますが、調整が大変なのと、物理演算で良く動く髪の場合は恒例のチラチラと描画順が変わってしまう問題があります。

横に縮めるやり方は、安定感がありますがあまり動いたように見えず、可動域が広すぎると不自然に見えます。

※ルルちゃんは、描画順を変えずに根本を変形させて、無理やり奥に隠しています。

ルルちゃん19

どれくらい動かせば自然に見えるのか…それを考える時も、前述した「交点」を使うと良いでしょう。

今回は、猫耳とカチューシャの根本を基準にします。

ルルちゃん17

②カチューシャなど頭頂部にあるパーツ

頭頂部に合わせて変形します。一番ダイナミックに動かす必要がある小物パーツです。

今回の場合、「アホ毛・カチューシャ・猫耳・前髪」という多数のパーツが混在しており、

かなりシビアな位置調整が必要でした…。

この場合も、「交点」を見つけて辛抱強く変形させていきます。

ルルちゃん18

③獣耳
複雑な動きをします。

パーツは
・前面
・奥
・中のふさふさ(ある場合)
に分けましょう。

ルルちゃん20

まずは、全体を目と平行な位置に変形させ、

ルルちゃん21

横を向いたときの前面パーツを更に変形させます。

ルルちゃん22

他にも、ポニーテールや帽子、王冠、イヤリングなど、紹介したい小物は多数あるのですが、今回ご協力いただいているVTuberさんは付けていないパーツのため、割愛します。


終わりに


これで、顔の角度XYは完成です…!

読んでいただいた通り、とても作業量が多く根気のいる部分ではありますが、
その分実際に動いた時の達成感は大きく、やりがいのある作業のひとつです。

Live2Dで高可動域を目指すというのは、その分元の原画の形を崩していくことと同義です。可動域と顔の良さの両立はとても難しく、ただやみくもに沢山動かすだけでは元の可愛らしさ・カッコ良さは失われてしまうので、日々研究を重ねています。

それでも、ぐりぐり動くモデルは生き生きとしていて、動かす側も見る側もとても楽しいです。私もまだまだ至らない部分も多いので、これからも魅力のある動きを追及して頑張っていきたいと思います。

かなり長い記事になってしまいましたが、少しでも参考になれば幸いです!

また、再三の宣伝になりますが、本記事で登場した雨森青葉くんの制作過程は、YouTubeでも公開しています。noteでは書ききれなかった部分も、1から詳細に解説していますので、是非ともご覧下さい。

noteでも、機会があればまた記事を描いてみたいと思います。


お読みいただきありがとうございました!!

それでは。

乾物ひもの

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ひものさん

HP
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乾物(かんぶつ)ひもの
バーチャルYouTuberとしてメイキング動画・ゲーム実況・歌ってみた動画などをYouTubeとニコニコ動画に投稿する傍ら、フリーランスのLive2Dモデラーとして多数のVTuberモデルを制作。元々はイラストレーターとして活動。


昨年11月には「Live2Dクリエイター表彰プログラム」を受賞


代表的なLive2Dモデルの制作実績

リスちゃん

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YouTube…https://www.youtube.com/channel/UCOyYb1c43VlX9rc_lT6NKQw/
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メイカ君

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イツミちゃん

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アズミちゃん

歌衣アズミ
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