住処は砂漠。
ただただ広大で昼間はうるさく、夜になると途端に寂しくなる。そんな世界。ゴールなんてない。道もない。今たっているこの場所が現実。
そんな世界に住むただの1人の物語。
ある日の朝。
僕は眠たい目をこすりながら起きる。
朝だ。
昨日はあまり眠れなかった。
「くしゅんっっ!」
まだ少し肌寒い。
もう一度毛布にくるまる。
それにしても昨日の夜はいつにもまして身に染みる寒さだったな~
ふと視界に白い靄が見えた。
昨日の夜のせいか、薄暗く霧がかかっているようだ。
いやいやいや、
砂漠に霧なんて…おそらく寝ぼけていたのだろう。
きっと砂埃か何かだ。
「そんなことよりやばい。早くしないと」
朝は始まり、日も昇り、これから温度がどんどん上がっていく。
水も食料も手に入れないといけない。
砂漠はサバイバルだ。毎日が忙しい。
生きるのに精いっぱいだ。
一瞬瞼の裏に白い靄が見えたが、そんなこと気にしてる時間はなかった。
急いで身支度を済ませる。
僕は今日も生きるために砂漠を歩く。
「さあ、今日も頑張るか」
そうしてしばらくがたった。
熱い...
「そうか、もうお昼か」
日も昇り、いつの間にか周りは灼熱地獄と化している。
あ~喉が渇いた。
いつものことだ。毎日それだけ。日々の繰り返し。まるで僕は僕の奴隷のようだ。
「水はないだろうか」
太陽が1時の方向に傾く。
今日はなかなか水が見つからない。
もうそろそろ限界だ。
意識もうろうとしながらも砂漠の山を越えると、
目の前にひとつのオアシスがみえた。
「やった!水だ」
嬉しくなって走り出した。
これほど生きてて良かったと思えることがあるだろうか。
そう、あれだ。
腹が減ってる時ほど、飯がうまいってやつだ。
いや、そんなことより水。
風を切る音、顔に砂が当たる痛み。
「あと少し、あと少し」
どんどん近づく。
あと数メートルのところまできた。
高揚した。もうそれしか見えなくなっていた。
それでもいい。水さえ手に入れればこの苦悩から開放される。
早く早く
もう目の前だ。
「あと一歩...!」
その瞬間…それは消えてなくなった。
いや、なくなったのではない。元々そこには何もなかったのだ。
あるのはただの砂だ。
そう見てただけ。そう見えただけ。
じりじりと肌を焼く音がする。
僕は風船のように弾け飛び散った張りのない残りカスみたいにその場立ち尽した。
「....」
言葉が出ない。
「なんでだよ」
やっとの思いで絞り出した言葉は宙に消えた。
その言葉には意味を持つことが許されてないかのようだった。
この世界で僕はたった独りだ。
そう思った。そう思いたかった。
でも涙は出なかった。
「!!」
いたたまれなくなって拳を地面に振り下ろす。
砂が舞い上がる。キラキラと光る綺麗な砂だ。
一瞬砂が鏡のように反射して自分の姿が映る。
見えたのはみすぼらしい自分。
繰り返しの中で同じように生きるあの頃と変わらない自分。
誰かに期待して、誰かのせいにして、そうやって生きてきた自分。
あれ、俺って…なんのために生きてるんだろうか。
そう思った瞬間。何かが崩れ去る音がした。
どうでもいいや。
喉もカラカラ。
もうこのまま砂漠の1部となって死にゆくのだろうか。
それも悪くないな。
良く考えれば、どうしようもない人生だった。
最初の歩みだしはよかった。希望に満ち溢れ、生に対して肯定できた。
「なんて素晴らしい人生だ」
いつも空は青かった。
でもそれは長くは続かなかった。
いつの間にか生きるのに必死になっていた。
砂が僕の友達。
生きることになんの価値がなんの意味があるのだろうか。
確かにその道のりに対してここまで来たって成長したって胸張ったこともあった。
でもそこには何者でもない自分しかいない。
僕はどうしようもなくやりきれなくなった。
そう、そんな自分の人生に料理名を付けるとしたらこうだ。
「苦悩と絶望とほんの少しの希望を添えて」
ほらね、ほろ苦い僕の人生の出来上がり。
あ〜なんて残酷だ。
もし僕以外の誰かがいてもきっとこうはならないだろう。
時間に追われ、お金に追われ、期待に追われ、いつも何かに脅える。
自分ではない何者かに追われる日々
あ〜なんて惨めだ。
あ~このまま砂の一部になってしまおう。そう決心した時、初めて砂漠を訪れた青くてきれいだった空を思い出す。
ただの思い付きだった。ゴロンと180°回転した。
「あ、」
そこには空を飛び回るタカがいた。
何があるわけでもない。なのに自由だった。
俺はいつもなら思わないのだが、こんな日だから思ったのかもしれない。
羨ましいな。
あああああああああああああ!!!!!!
その時の僕は狂気に満ちていた。
誰かに見られたらきっと変な人だと言われるだろう。
がそんなことはどうでもよかった。
人生ふざけんなよ!俺は俺だ!お前らにお前らになんでなんで...
湯水のように感情があふれ出す。
こんな人生は嫌だ。
血肉踊るような生き様を刻みたい。
英雄でありたい。
自由でありたい。
でも、
何より俺は...俺は…
幸せでありたい。
いつも誰かのせいにしてきた。
でも本当はわかってたんだ。
あれもこれも誰も俺を幸せにしちゃくれないってことを。
幸せに出来るのは自分しかいないってことを。
そう思うと涙が出た。
泣いた。気が済むまで泣いた。
喉はカラカラなのに涙は止まらなかった。
恥もすべて捨てて泣いた。
思うがままに泣いた。
そして、命が宿った。
しばらくするとだんだん気持ちも落ち着いてきた。
「アハハ」
僕は少しはにかんだあと呟く。
「今日はいい日だな」
もう空を見上げてもタカは居ない。
「こうしちゃいられない!」
砂漠はいつも通り灼熱地獄だ。しかも太陽は2時の方角を指している。
それなのになぜか暑さを感じなかった。
もう一度立ち上がる。
今日生まれ変わるのだ。
誰の記憶にも残らないかもしれない。
諦めてみんなと同じ道を歩むかもしれない。
どこかで野垂れ死にするかもしれない。
そうなる可能性はある。
それでも僕は僕を信じて、最後まで信じ抜く。
僕は今までの"僕"の人生に花を添え、
今日もまた太陽に向かって水を探して足跡を刻む。
それが僕の幸せだから。
「あれ?こんなに空って青かったっけ?」
今日はなんだか景色が違うみたいだ。
気のせいかもしれないが、そう思うことにしよう。
今日決めたことがある。
僕は砂漠を住処とする。
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