母の打ち明け話

この頃母が「もう私も長くないのかな」などと前置きしながら、過去の話をすることがある。今日もちょっとしたことからその話が始まった。昔から人の話をちっともきかない父が、最近としをとってもっとその傾向がひどくなったとのこと。「としをとるとなおるもんじゃないのかな」と母がいうので、「としをとると元々の性格がもっと強烈になるって話なら聞いたことがあるよ。ほら、だってそうじゃない。Mおばさん(父の妹)とか、A子(私の妹)とか」と、私がそんな風にいったのは、その二人とも最近おなじような感じにキレやすくなって、母も私もその被害にあったからだった。「どうして、あんな風になっちゃったのかな。まえはあんなじゃなかったよね。ストレス、かな?お母さんはそんな風にならなくてよかったね」母は若いときは子どもの私から見ても、きつい性格のように思えたことがあった。私はよく当たられていた。なので、私は言ってからこれはちょっと嫌味っぽかったかなと思った。すると、そうだね、と母がはなしはじめた。

「私も最近昔のことを思い出して、あ~あのときあんなこと言わなければよかったと思うことがあるんだ。うちに出入りしていた営業さんとかに冷たい言い方とかしちゃって、今思うとよくあんなひどいこと言えたなって自分でも思うの。だからきっとA子ちゃんも反省していると思うよ。最近のA子ちゃん見てると、あ~私も若いときあんな風なことしちゃってたな、A子は私に似ちゃったのかな、って思うんだよね・・・」

母はたしかに私が子どものころ、いつもイライラしている感じで、私は子ども心に八つ当たりされてると感じていた。基本的に私はマイペースではあったけど、反抗的とかいたずらをするとかそういう子どもではなかったので、いつも怒られるときはなぜだかわからなかった。そして、けっこう早いうちにこれは八つ当たりなんだと気が付いていた。だからたぶん、そのことで自分を責めたりしないですんでいた。八つ当たりする大人のほうが悪いと思っていた。

母がそんな風に昔の反省をするときに、私はいつも、私にしたことは忘れちゃったの?それとも私にしたことは今でも悪いと思ってないの?と思ってしまう。母がきついことを言ってしまったと反省しているのは、自分を育てた継母だったり親戚の人だったり、うちに出入りしていた営業さんだったりであって、私は?一番近くにいて、一番弱かった私に対しては?と。そんな気持ちが出てきたとき、私は毎回思うのだ。母がいう「A子も反省しているんだよ」ということが、たぶん私の疑問のこたえなんだと。母はきっと覚えている。私に言ったひどいことを。もうそれでいいかなと思った。たしかに今の母はおだやかで、私が子どもの頃の母とは別人のようだと私には思える。私は昔の母は大嫌いだったけど、今の母は好きだし、尊敬もしている。こんな風に若い時のことを振り返って反省するところも、すなおにすごいなと思うのだ。

母がいうには、A子は嫁ぎ先でいろいろがまんしたり、ストレスをためているんだろうと。きっとそれも自分の過去と重ね合わせているのかなと思った。私は、どんなにストレスがあったとしても、それを自分の当たりやすい人に当たるのはしてはいけないことだと思う。相手も人間なのだから、傷つくし、その傷はけっこう深くて長く残るから。関係性にも影響があると思うし。でも、たぶん当たっている意識がなくても、そうなっていることもあるとも思う。もちろん、私も。だから人との関係は難しい。なにが相手を傷つけているか、わからないことがあるから。

たぶん、母とはまたこの話をすることがあると思う。私にも聞いてみたいことがある。母が昔、親せきの人に厳しい意見をいってそれから関係が悪くなり10年以上疎遠になったことがあった。その時のことは覚えているか、どう思ってるのか。私はその時期すごくさびしかったので、母がどう感じていたのかが知りたい。私に対しての八つ当たりも覚えているのか、どう思っているのか知りたい気持ちもある。だけど、私からはきっと聞かないと思う。母がいつか話題に出すような気もするし、そうでない気もする。でも、もうどちらでもいいのかもしれない。もうそれは過去のことで、終わったことだから、そのことで現在の私が幸せになったり不幸になったりすることもないんだなって、そんな風に思ったりもする。

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