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『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』感想(ネタバレなし)

※ネタバレなしつってるけどストーリーの結末まで触れてます。この映画はネタバレとか関係ないだろ!と思って……。

大人気です。田舎のシネコンのレイトショーでも激混みだった。

ブルックリン在住の配管工マリオとルイージの兄弟は、夢を追い会社を辞めて独立するもうまくいかないエブリデイ。家族にもバカにされ、なんとかチャンスをつかもうと奮闘していたところ、ひょんなことからファンタジックな異世界へ迷い込む。マリオはキノコ王国に落ちてキノピオやピーチ姫と出会うが、離れ離れになったルイージは悪の大王クッパに捕らえられてしまった。愛しのピーチをマリオに寝取られたと勘違い&逆恨みしたクッパは強大な軍事力とルイージの身柄を盾にして、ピーチに結婚をせまる。果たしてマリオはルイージを救出できるのか!? ピーチは王国を守ることができるのか!? ……みたいなあらすじ。

この映画は厳密には『スーパーマリオブラザーズ』の映画化ではなく、マリオを中心として多様に広がる世界観とキャラクターたちを一本の映画にまとめてみた、という認識が正しい気がする。そもそもマリオの世界観って冷静に考えると意味わからんので、一本筋の通った物語にするためにかなりの工夫が凝らされている。
まずなんで配管工がお姫様と仲いいの?とか、キノコ王国なのになんでお姫様は人間なの?といったツッコミどころが違和感のないように説明され、しかももとの世界観を崩さないギリギリの濁し方もしている(ピーチの出自が結局は不明だったり)。馴染み深いマリオのカオスな世界が秩序だった物語に整理されているのがなんだか新鮮な感じ。

ストーリー上の楽しさとして、特筆すべきはピーチ姫の描写。ゲーム『スーパーマリオブラザーズ』ではクッパに攫われ、それをマリオが救出するわけだが、この映画ではピーチはむしろマリオより強く、国を守るために最前線に立って戦うアクティブなプリンセスだ。ヒーローの助けを待つだけの存在じゃない、現代のプリンセス像ですね。
これはただ現代的な価値観にアップデートしてるだけじゃなく、あらゆる意味で正解の描写だった。原作通りにやっちゃったらメインキャラのはずのピーチの出番が少なくなって映画としての楽しさが目減りすることになる。また、本作のマリオが現実世界の住人であるという設定上、ピーチを助けるために冒険する動機がない。だいたいバリバリ戦う女の子が嫌いなヤツいないのだ。

対するクッパはもともとのキャラクターイメージと変わってないのだが、ピーチが現代的に描かれていることで相対的に「古い男」というイメージが強くなる。力の強さで周囲を威圧し、ナイーブな内心を必死で隠して、好きな女を力ずくでモノにしようとする有害な男性性の化身。対立構造が実に分かりやすい。クッパの末路が「肉体が矮小になる」だったのもそういう文脈で読めるかも。

マリオファン以外にはあまり知られていないかもしれないが、マリオというキャラが初登場したゲームは『ドンキーコング』。このゲームはドンキーが主人公なわけではなく、彼はプレイヤーを邪魔する敵キャラだ。そしてプレイヤーが操作するのがマリオその人。最初は敵キャラとして登場したドンキーだったが、今ではみんなが知ってる通り主役になったゲームも人気、すっかりマリオファミリーの一員になっている。
本作でのドンキーが当初マリオと敵対し、決闘を経て仲間になる流れはその歴史的な経緯を汲んでるのかなーなんて思ったりした。
それぞれのキャラクターをいろんな読み解き方ができる描き方しつつ、ストレートなエンタメ脚本として独自性を出しすぎない展開に収めることで、老若男女誰にでもすんなり受け入れられる仕上がり。プロの技ですわよ。

ファンサービス要素として、無数のマリオゲームからの小ネタが詰まっているのはもちろん楽しい。
大きなところでは、ピーチとの修行が本家『スーパーマリオブラザーズ』の横スクロールコースの再現になっていて、映画のメインに据えるには無理があったであろう原作再現アクションをここでしっかり見せてくれる。
それから予告にもあった、カートでレインボーロードを激走する場面。ここを予告で見たことで俺もこの映画見てみようという気になった。
他にも子供時代の回想がベビィマリオだったり、乗り物のパーツを選択する機械がめっちゃ見覚えあるやつだったりと、マリオにわかの俺でも画面を見ているだけで楽しめた。

本作のマリオのゴールはピーチと結ばれることではなく、周囲の人間に認められることだ。だからクライマックスでは現実世界に侵攻してきたクッパ軍団をやっつけることで、みんなの喝采を浴びる。でもそれって配管工としての人生とは関係なくない???お前の夢はそんなんじゃなくない???と思うわけだけど、これはもう元から配管工設定なんだから無理が出るのは致し方ないのかも。

作中の盛り上がりどころでは80年代ポップソングの名曲がたくさん流れて気分をアゲてくれる。Holding Out for a HeroとかTake On Meとか、音楽に詳しくない俺でも知ってる曲ばかりだった。
メジャーなポップソングを流しまくるのって最近の映画に多いけど、さすがに食傷気味というか、ちょっと安っぽくなるような気もしないでもない……かも……。『スーパーマリオブラザーズ』発売当時の曲をかけるよって意図なんだろうけど。

その他思ったこととしては、こういうキャラものの映画ってみんなマリオの姿が見たくて見に来てるわけだから、ファスト映画みたいなのに左右されなさそうだよねとか。

関係ないけど、上映開始直前に照明が落ちたときに子供が「くらーい!」って半泣きで言うとテンション上がるよね。

見出し画像出典:https://movies.yahoo.co.jp/movie/385163/