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2019年6月終わりの推薦図書

私は文学少女という存在に憧れています。
長い三つ編みに繻子のリボン、古めかしい優等生然としていながらマルキ・ド・サドを平気で読む、大人しそうでいて頭の中は好き放題な思考でいっぱい。キティちゃんより学業成就のお守りをぶら下げて…(ディテールは省略します)
そんな文学少女に、私はなりたい。本を読みます。

小説 - 「“文学少女”と死にたがりの道化」

この小説に登場する文学少女天野遠子は物語の描かれた本をむしってむしゃむしゃ食べる妖怪だけど、この遠子のように直接的ではなくても小説を読みそこから派生された考えを口の端にのぼらせていれば作り話が血肉になっていく、そのくらい小説を中心とした話。

共感の欠如や相互理解について……なんでしょうが、こういう答えを小説の中に求めるのは正解なのでしょうか。小説は一個人が作った密閉された世界なのだから、どれだけの説得力ある言葉を書かれても参考以上にしてはいけないということなのかもしれませんが、マイノリティな性質の悩みに深く共感してしまった場合距離を置くことができると言い切れません。
それに、小説を食べちゃうくらい愛している人にとってはそんなよそよそしい読書は寂しいと感じてしまうものです。

小説 - 「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」

きっちり納得してしまう見事なバッドエンドでした。
いや~な気持ちになりました。(あ、本を悪く言ってるんじゃなくてね)

中学二年生辺りからって、どうしても藻屑のように「子供時代は何とか乗り越えてきたけど、大人になることはできないんだろうな」って感じの見てて痛々しい子がちらほら出てきちゃう時期じゃないですか。痛々しい本人もその絶望的な状況をわかってくる頃で、だからなんとか帳尻を合わせようと奇っ怪な行動に出たり。具体的にはオカルトにどっぷりハマったり、ナントカの生まれ変わりとか言ってみたり他。
大勢の普通の子の中にそういう子がぽつぽついて、ちょっと疎まれてる、みたいな空気がどこでも中学~一時期だけあると思うんですよ。そして大人になると、ヘタすればそういう思い出が自慢話みたいに浮ついた調子で語られちゃったりして。
18歳未満の人間は、現在進行している問題に対して具体的な解決をする術を何も持たないことが多いです。お金がなくてバイトしたって生活できないお小遣い程度の額しかもらえない。食べていける技能を育てるほどの時間もまだ与えられてない。だから藻屑は砂糖菓子の弾丸を撃つしかないしなぎさも将来のことなんて考えられない、刹那的な子たちです。
多分18~20歳くらいまで生きられれば、どうにかなります。けどそこまで生き残れる見込みが薄い子達はどうしたらいいのか? という答えの出なさそうな空気のなかで、やっぱり答えが出ないままこのお話は終わってしまいました。
最悪の終わり方なんだけど、なのに「これが当然!」としか思えない結末。
オブラートにくるんでいても苦いものは苦かったです。

漫画版も描写が緻密で素晴らしいです。

漫画の画面から、一切の「逃げ」を感じない隙のなさを尊敬します。
田舎特有の息がつまる空気が見事に表現されています。

小説 - 「ピーターパン・エンドロール」

全てのウェンディは大人になる
(終章のタイトル)

一人称の真央は、全てのものをボコボコと穴が開いたような曖昧な認識で見ているので、ずっと霞がかかったような淡々としたモノローグです。人の顔を覚えられないとか、他人が油絵具を塗ったような適当な形をしていたような? なんて思っているところとか。
この不思議に認識された世界の描写だけでもう満足してしまって、前半を読んでいるときはこのまま何も起こらずに終わるのではないかと思ってました。
若気の至りがトリックになっているのが面白かった。重要なところを一見、若気の至りでバカなことを考えているようにサラッと書かれていて、それが伏線だなんて思いもよらず。

なんともいえないもどかしさが残りました。
真央は旅人さんに感謝しているのでしょうね。
真央の夢のような認識の仕方で、旅人さんはリアルな人間ではなく真央にとってはずっと旅人さんだったわけですが、旅人さん自身もそれを望んでいたのなら幸せなのかもしれません。

あとがきを読んで、
こんなに十代特有の心理に対して真摯に妥協なく向き合っている作家さんを始めて見ました。
純粋な十代の心理は十代にしか書けない、と。
確かに、大人の書いたお話の中の十代は、あくまで物語のエッセンスやスパイスとして機能するためにいるような気がします。


小説 - 「たったひとつの冴えたやりかた」


SFって、熱心な人はすごく熱心なジャンルで、一、二冊読んだだけでは全然理解できないもののような先入観を抱いていました。実際に読んでみると、現代物のように暗黙の了解が通じるところが少なくて、いちいちそのフィクションの中での常識を取り込んでいかなければいけないところに若干の敷居の高さと山ほどの面白さが詰まっているように思いました。

ずっと未来の学生が、歴史の勉強をするために図書館にきて
「たったひとつの冴えたやりかた」
「グッドナイト、スイートハーツ」
「衝突」
のノンフィクション中編三部を借りて読む、というのが全体の構成。

「たったひとつの冴えたやりかた」はコーティーの性格がすべてっていうくらい、主人公コーティーの行動力と決断でなにもかも決められていきます。コーティーはとても頭がよくてサバサバした性格。

「そこであんたはあのふたりのメッセージ・パイプに乗ってきたわけね。わあぉ──やるじゃない! シロベーン、あたしがあれをひろってよかったね。それであんたが助かったんだもん。うれしいよ」

このくだけた喋りかたがとても可愛い。
最後まで、シロベーンを友達と言い切ってしまうところ。一度決めたことには微塵も後悔しない精神。すばらしく魅力的です。

星々のチャートが見てみたいなぁ。誰か作ってくれていないかな。
誰かが命をかけてしたことが、後に続く誰かを助けて、誰かの憧れになる。そういう風にできている世界なら、個々の物語は悲劇で終わっても希望に満ちていますね。

時間と距離と冷凍睡眠の関係がなかなかすっきりわからなくて、時系列がちょっと混乱しました。クーペですっごく早く移動すると時間が引き伸ばされてクーペのなかにいる人は歳をとるから、冷凍睡眠をして移動するのがこの世界の常識。でいいのかな? 確かそこらへんにあるニュートンに解説が載っていた気がするのであとでみてみよっと。

本編を読み終わってお腹いっぱいになると、あとがきや解説は読まずに本を閉じてしまうことがあるのですが、これは読んでよかった。びっくり。
だって私はアリスと名のつくものを集めてしまう趣味があるのです。

小説 - 「ハピネス」

普通の、現実でもありえるような普通の普通のお話。
文章もとても普通で、洗練されてはいるものの日記のようです。

余命一週間、一日一日を大事にしなければ! というときに、じゃあお姫様になろう! というふうに思えるのは、女の子にとって最強の前向きささなのではないかと思いました。

このお話の中では、みんながそのお姫様的な彼女の決意に協力します。ロリータ服を買い漁り、彼氏の部屋に外泊したり、彼氏と旅行に行ったり、とにかくすべてのわがままが許される。ヒロインが見ようとしたのは天使や薔薇やフリルの夢の世界なのだけれど、基本的に決してファンタジーではなく現実的に描かれているので
大量の出費も気になるし、
トイレでロリータ服に着替えるし、
薬を飲むための水はペットボトルだし、
火葬場では赤い薔薇を持ち込むなと怒られます。
けど現実の物事と軋轢を起こしながらも一生懸命夢を見ようとする彼女はとても気高い。
乙女として堂々たる立派な最期です。恨み言をグチグチと垂れ流して、枕を涙でびしょ濡らして八つ当たりするのもそれはそれで乙女的にアリだとは思うのですが、絶望をさらりと口にしてあとはわがまま放題、のほうが実際にいたら美しくて素敵です。

このお話は「彼」の一人称で綴られていて、その彼の繊細なモノローグがまた、彼女は本当に幸せだったのだなと思わせられます。彼女に対して何もできない、とずっと苦悩していますが、ロリータの夢の世界に理解を示して、彼女の死後も「彼女は空の上で天使たちと戯れているんだ」と本気で考えてしまうというのはなかなかできることじゃないと思います。最高の王子様っぷりです。

「彼女」自身も作中で言っているように死ぬことは特別ではないこと。
死ぬまでにすることはいくらでも特別にできるけど。

小説 - 「隣の家の少女」

陰湿で黒い。
とんでもなく残酷な話なのに、すぐそばのご近所で起こってもおかしくないな、と思わず考えさせられてしまうところが絶妙でした。なぜならほんのちょっと、この子自分より立場弱いよね、とか自分よりこうだよね嫉ましい、とか思った瞬間に、誰のそばにも狂気の落とし穴があるんじゃないか? って思えるからです。
それと集団であるということも落とし穴に直結してると思います。「みんなでやってるんだから」という意識があれば、人一人の人権なんてたやすく無視される。これも別に普通の、誰にでもある心理です。だからこの話は怖いんだと思います。

メグを追いつめながら「この写真のモデルより、メグのほうがずっとかわいいじゃないか」とあっさり言うところにルースの邪悪さが凝縮されてると思います。

「人間はホントはみんな優しいんだよ☆」という物語はたくさんあるし、それらは素晴らしい心地よいもの。でもそれは物語を現実逃避の手段として見ているという一面があることを私には否定できません。真剣に物語(フィクションでもノンフィクションでも)と向き合う気があるなら、カタルシスや多幸感よりも見つめなければならないことがいくらでもあるのでしょう。


さて。文章書くの得意じゃないけれど、一月に一度くらいは面白かった本についてまとめてみたいなーと思っています。今回は読みやすい感じの小説を中心にまとめてみました。積ん読がいくらかあるので、(〜全集、的なのとか。夢野久作全集と坂口安吾全集、どちらを先に読もうかなー)7月からはもっともっと読んでいきたいです。


目指せ文学少女。

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