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パテラが1日で治るおやつ?

またペット業界にがっかりする出来事がありました…。(いつもネガティブですみません💦) 今回は動物愛護について、ノルウェーの裁判から見習いたいことを書く予定でした。でも、その前に日本で見つけてしまった件を。

「この子」たちの運命は私たち次第

ワンコたちの健康や幸せは、100%私たち次第です。完璧は無理でも、できるだけ正しい判断ができるよう、常に勉強したいと考えています。これまで書いてきた繁殖屋とブリーダーさんの見極めに始まり、ワクチン接種や不妊去勢手術などの医療についても同じだと思います。

何が本当に
「ホント」なのか

これ、「食」も同じですよね。毎日の運動や定期的な健康診断は大切です。でも、すべての基になるのは食べ物。

難しい食事の管理

食事についても勉強してはいるのですが、これが難しい!ドライフードも、よ~く考えて色々試しました。「これ、喜んでるな」と思っても、検査数値に心配なトコロが出たり。

手作りも試しましたが、体質的に合わない場合もあったり…。AAFCO*の栄養基準に関係することだけでも、理解すべきモノが山盛り。私には管理栄養士の資格を取らないと無理だな~と。

で、ひめりんごも平蔵も、尿石症の傾向があります。獣医さんと相談しながら、今は大手メーカーの療法食(尿ケア)を食べさせています。考え方は色々あると思いますが、少なくともデータの蓄積は膨大でしょう。療法食としての安心感はあります。また、グローバル展開している企業に、信用は何より大切。あからさまにNGなことはしないでしょう。

お勧めのドッグフード?

ということで、今のところフードは特に探していません。でも、ずっとお世話になっているペット関連業界の方から「お勧めです」と、サンプルをいただきました。信頼している方だったので間違いはないと思い、フード会社のウェブサイトを見てみました。

それが、今回の「がっかり」です 。トップページでいきなり目に留まったのが「お客さまの声」:

グレード3のパテラが、
おやつを食べたら
その日に治った

かのように、はっきりと書いてあります。コンドロイチンとグルコサミンが入ったおやつの宣伝です。

Copyrightは伏せました。問題がある場合はお知らせください
(↑スクショは問題部分を囲み、写真はモザイク処理)

藁にも縋る想い

話は逸れますが…、平蔵は肩に(今は寛解していますが)問題を抱えています。膝も緩めです。「ガラスの首」は、いつ砕けてしまうか分かりません。

基本的には、今、積極的にできる対策がないのは分かっています。でも、藁にも縋る想いで「何かないか?」と常に勉強しています。同じような飼い主さんは少なくないと思います。

コンドロイチンとグルコサミンの効果

当然、サプリも調べました。人間の場合も関節には、コンドロイチンやグルコサミンを聞きますよね。これらのサプリメントは、「機能性表示食品」という位置づけです。法律などによって、病気の予防や治療効果、過度の健康増強を訴えることは禁止です。「〇〇病の方へ」など、暗示させるような表現もNG。なので、こんな表記がされています:

ヒザの可動域をサポート;ヒザの違和感軽減

明治薬品株式会社

グルコサミンに加え、Ⅱ型コラーゲンを含有する鶏軟骨エキスを配合しました。グルコサミンは、体に多く含まれる成分で、加齢や激しい運動によって減少していきます。立つとき座るときが気になる方の健康維持お役立てください。

アサヒグループ食品株式会社

ということで、シンプルに解釈すれば

関節において、骨と骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨は、徐々にすり減っていきます。やがて、骨同士が直接こすれ、痛みが出たり関節を動かしにくくなる場合があります。コンドロイチンやグルコサミンは、(軟骨のすり減りに働きかけて?)痛みの減少や可動域の保持に役立ちそう。

筆者まとめ

ということでしょう。

機能性表示食品は、「事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です(消費者庁)」。なので、関節痛には、ある程度の効果はありそうです。外国も含め、多くの国で売られているし。(「事業者の責任において」というのが、何とも…なのですが、それはまた別の機会に。)

白黒ついていない効果

医学論文なども読みました。効果については、100%白黒はっきり断言できる状況ではないようです。リサーチ設計などによって、結論が分かれています。総論として、コンドロイチンとグルコサミンの経口摂取が、膝などの関節痛に明らかな効果があるとは言えないのが現状と言えます。100%否定もできないようですが。

医療(人間向け)でも、獣医学分野でも基本的な見解は同じようです。まとめると、

健康な時に、継続的に摂取することで、その状態を維持することへの貢献はあり得る

筆者まとめ

という印象です。

改めて論文をたくさん読んで理解しようと思います。現状は「それ、あなたの感想ですよね」と突っ込まれるかもしれません。ただ、大筋で間違いではないはずです。

明らかな高い効果があれば、製薬会社が本腰を入れて事業化するでしょう。医薬品としての開発・申請・承認にはコストがかかると思いますが、リターン(利益)は莫大なはずです。その上で、病院でお薬としてたくさん処方されるはずです。

その日にパテラが治る?

話をドッグフードの会社に戻します。以下が、「お客さまの声」をクリックした時に表示されました。

コンドロイチンとグルコサミンの入ったおやつを食べて、
「その日に」グレード3のパテラが治った

かのように書かれています。

上段(青囲み)は、カッコ書きでお客さんのコメントを引用しています。飼い主さんの感想については、他人が評価することではないですよね。実際に、膝が良くなるタイミングに当たったということもある得るかも。いずれにしても、個人的なSNS投稿には何の異論もありません。

でも、下段(赤囲み)はこの事業者としての文章。よくある(個人的には好きではありませんが)「個人の感想です」などの注意書きも見当たりません。はっきり書いてあります:

毎日抜けていた膝が、食べ始めたその日から全く抜けなくなりました!

同社ウェブサイトより

パテラって?

膝蓋骨脱臼は、一般的に軽症の「グレード1」から重症の「グレード4」に分類されます。おやつを食べて「その日に治った」というグレード3は2番目に重い状態で、

グレード3:膝蓋骨は常に脱臼した状態です。手で押すと一時的に滑車溝に戻ります。後ろ足を曲げ、腰を落とした状態で歩くなどの歩行の異常がみられます。(アニコム損保)

犬の「膝蓋骨脱臼」通称「パテラ」について|飼い主が知っておきたいこと

人間にもある疾患ですが、原因はいくつかあるようです:

  • 大腿四頭筋と膝蓋骨靭帯の角度:太ももの前にある筋肉と、膝のお皿に付いている靭帯が真っすぐでないため、動いた時の方向がズレる(下図左の「Q角」参照)

  • 膝の緩み:お皿がくっ付いている靭帯がちゃんと張っていない

  • 骨の形成不全:太ももの骨にある、お皿がおさまる窪みや溝、またはお皿自体がきちんとできていない など

日本整形外科学会のウェブサイトより
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/kneecap_dislocation.html

これまでもご紹介してきましたが、小型犬の場合、パテラの多くが(小さく「創ろう」とする)無秩序な繁殖が原因の遺伝性疾患です。直接原因は、骨や筋肉や靭帯などの整形外科(構造)的なもの。

このおやつで最大限の効果が仮に得られたとしても、コンドロイチンやグルコサミンは軟骨成分による関節痛の緩和が「機能表示」された物質です。大腿骨膝蓋骨大腿四頭筋膝蓋靭帯自体には作用しないはず。

少なくとも「食べ始めたその日から」、パテラの原因である骨格や靭帯の状態が改善し、脱臼の症状がまったくなくなることがあるとは思えません。

食品としての表示は外れるけど…

サプリも含め、ペット用の食べ物は「雑貨」としての扱いです。人間の機能性「食品」表示に関する規則対象からは外れます。でも、ここまで直接的に効果を謳う表現、「不当景品類及び不当表示防止法」に抵触しませんか?

(目的)第一条 この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。(原文ママ;強調は筆者)

不当景品類及び不当表示防止法

要するに、誇大広告というヤツです。みなさんは、どうお感じになりますか?こだわりとか価値観でなく、法律の解釈という観点で。

私は、"実際の商品・サービスよりも優れていると表示する「優良誤認」" にあたると思います。ただ、法解釈は微妙なモノが多いので専門家に確認してみます。

ちなみに、この会社を推薦した方にその旨お伝えしたところ、翌日には該当箇所が削除されていました。特に注記もなく、ひっそりと…。商品に自信があれば、直接説明して欲しいし、何よりも信念があれば急いで削除しないのでは?

ちなみにこの会社、「ワンちゃん、ネコちゃんのことには、バカ真面目」がモットーだそうです…。飼い主は、本当に真剣ですけど。

こんな姿が、少しでも長く見られますように

平蔵は肩と前脚に「ブレース」を着けています

*AAFCO:ペットフードに必要な成分(栄養素)などに関する基準を研究・公表しているアメリカの団体。