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【超ショートショート】(259)~遅い朝ごはんは旨い~☆CHAGE&ASKA『YAH YAH YAH』☆

怒りの矛先・・・
そんな物騒な焦燥感に襲われ、
衝動的に振り上げた拳の着地点を探す。

「なぜ?人は、意見の違いを理解ではなく、
論破したがるのだろうか?」

ある日のこと。
ある家族に起きた悲劇である。

良かれと思ってすすめられた治療が、
たまたまその家族の誰かには適さなかった。

結局彼女は、
救急搬送され、
意識もないまま、
8本の管に繋がれたという。

「覚悟していてください」

という医師の言葉。
家族にとって、
その言葉は信じられるものではなかった。

「どこで、この治療を?」
という医師問いかけに、
家族が治療に至るまでの経緯を話した。
すると、医師から、
「それは・・・患者さんの持病では、
やらない治療というか・・・
いくつかの論文でも危険であると、
専門医なら知っていることですね」

家族の彼女は、
3日過ぎ容態が安定したと説明を受けるが、
まだ管に繋がったまま。

一般の病棟に移されてから1週間。
ようやく意識を回復。
彼女に起きたことを医師が丁寧に話をすると、

「あっそうですか。
でも、治すためなら仕方ないですね?」
「いや、そんなことはないよ!」
「それは?」
「もし、治療に疑問があるなら、
他の医師に話を聞いてもいいんだよ!」
「へぇそうなんですか?でも・・・」
「でも?」
「でも、今の先生はいい先生だから」
「でもね、やっていい治療といけない治療があるんだよ!
その説明を先生が教えてくれた?」
「いいえ。〈これをすれば大丈夫〉と言われただけ。」
「そう」
「それから、中身は何ですか?って聞いたら、
〈それはヒミツ〉って言われて教えてくれなかった」
「それはひどいね」
「それでもう一回聞いたら、
〈お母さんとお父さんに話してあるし、
お二人とも了承しているよ〉と言われた」
「お母さんとお父さんは本当に・・・」
「私たちはしていません」
「お母さんにも私にも治療の説明はなく、
娘がこの治療をしたいと言っていると言われて」
「そうですか・・・」
「先生?」
「なんだい?」
「私の病気良くなる?治るの?」
「うん・・・そうだね。
良くなるように頑張ろうか?ね!」
「うん(笑)」

それからしばらく、
彼女は学校にも行けずに治療に専念。
また、長期入院と
彼女の身体に合わなかった治療で起きた
副作用の筋力低下のリハビリも行われた。

「ねぇ?先生?」
「うん」
「私ね!将来オリンピック選手になりたいの」
「種目は?」
「水泳!」
「水泳か!日本人なら金メダルも狙えるね!
でも、ライバルが多いぞ?」
「うん、知ってる」
「そうか!それでも?」
「うん、絶対金メダル取る!」

彼女の願いを医師は、
叶えてあげられないことを、
この日彼女の両親に話した。
泣き崩れるお母さんと、
それを支えるお父さん。
ふたりの落胆ぶりは、
医師も見ていられない程だった。

「先生?」
「はい」
「私たちのせいで娘は・・・」
「お母さん!そんなことはありません」
「でも」
「娘さんの病気は仕方ないものです。
また今回の治療も良くはありませんでしたが、
でもそのお陰で、私に治療の機会を与えてもらいました。
僕はあきらめていません!
娘さんもオリンピック選手になるんだと、
リハビリを頑張っています」
「・・・(涙)」
「だから、娘さんを信じてあげてください。
1日も早くせめて普通の生活ができるように、
まずは健康を取り戻しましょう?
お母さんがいつまでも暗い顔していたら、
また娘さんは・・・」
「(涙)はい!すみません」
「大丈夫ですよ」
「なぁお母さん、頑張ろう、あの娘のために」
「(涙)うん、お父さん」

数年後、
この医師は論文を書き、
今回の治療の問題点を告発した。
そして、
彼女の今の状況を伝えた。

「彼女は今、水泳ができるほど回復しました。
オリンピックには出れませんでしたが、
長い治療とリハビリで普通の生活ができるまで回復。
その間、悲しいお別れも経験しています。
もうこのようなことがないように
新しい治療をする際には、
患者さんとそのご家族には、
適切なインフォームドコンセントが必要と、
改めて思います」

この医師が抱いた怒り、
振り上げた拳は、
人を助けるために使われた。

どんな怒りでも、
命を傷つけることに殴る拳より
命を助けるために、
自らに向ける拳で、
奮起する方がましだ!

奮起した拳で傷つく傷は、
ただの過去の経験という勲章。

その勲章には、
出会った人々の悲しみ喜びが
大切にしまわれている。

医師は、
その勲章を胸の置くにしまって、
また今日も病で苦しむ人々の心に
寄り添うのだった。

「患者さんが本当にほしい診断結果は、
どんな身体や健康でも、
この世に生きることを認められること。
そして、痛みを知り、
痛みを忘れる冗談を言い合える
信頼という愛の行動がすべてだ」

「先生?」
「うん?何だ?」
「ちゃんと家に帰ってる?」
「何でだ?」
「だって、ずっと私の検査に朝から一緒だから」
「一緒じゃあ、嫌か?」
「嫌じゃないけど・・・」
「けど?何だ?」
「先生・・・私のこと・・・うふふ」
「何だ!(笑)」
「好きかぁ?(笑)」
「・・・(笑)」
「あっ!笑った!?」
「ほら、6時半なったぞ!2回目の採血するぞ!」
「えぇ~!お腹空いた~」
「朝ごはんは朝の9時だ!」
「何で・・・」
「遅い朝ごはんの方が結構うまいぞ(笑)」
「あっ!そう」
「ほら採血終了!(笑)」
「えっ!!?」
「ほら(笑)」
「本当だ!いつ刺したの?」
「腕を消毒したときだよ!」
「わからなかった!」
「それにしても、ほら見ろ!
ちゃんと腕、洗ってるか?」
「洗ってるよ!お風呂で!」
「本当か~?
こんなに消毒綿が汚れてるじゃないか(笑)」
「先生がいつもゴシゴシ拭くからでしょう(怒)」
「じゃあ、あと20分したら戻ってくるから」
「へぇ?どこに行くの?」
「ちょっと他の患者さん診てくるね」
「うん・・・」


(制作日 2022.3.3(木))
※この物語はフィクションです。

今日のお話は、
1993年3月3日発売の
CHAGE&ASKA『YAH YAH YAH』をヒントに
書いてみました。

この曲は、
フジテレビドラマ『振り返ればヤツがいる』の主題歌。
医療系のドラマでしたし、
ここ最近の日本や世界で起きている
風邪の出来事も参考にしてみました。

患者さんやそのご家族というのは、
良い先生に出会うまで、
孤独なのかもしれません。
良い先生にたとえ出会えても、
治療期間だけですから、
一生を診てもられるわけではない。

でも、
世の中には親身になってくれる
お医者さんが必ずいると思っています。
そうした先生が、
特に今からの時代は増えてほしいと思います。

※参考※
入院時の小児科のスケジュール
6:00 起床
6:30 朝食
11:30昼食
15:00おやつ
17:30夕食
21:00就寝

※お話の最後の朝の採血は、
前日の夕飯を食べずに検査している設定です。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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ヒントにした曲
CHAGE&ASKA『YAH YAH YAH』
作詞作曲 ASKA
編曲 ASKA・十川知司
(1993.3.3発売 シングル)

YouTube
【CHAGE and ASKA Official Channel】
『YAH YAH YAH』Music Video
https://m.youtube.com/watch?v=yfZIaTZJo0o

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