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【超ショートショート】(261)~お腹が空いたよ~☆ASKA『バーガーショップで逢いましょう』☆

あるラジオ番組でのことだった。

日本のみならず、
世界中から引っ張りだこに活躍の場を広げていた、
新進気鋭のミュージシャンがいた。

新進気鋭のミュージシャンは、
あるラブストーリーのドラマで、
主題歌を大ヒットされた。

そのドラマを見ていた、
当時まだ10歳の少女。

ドラマの俳優さんに惚れることもなく、
ドラマの最後に流れてくる主題歌の歌声を
とても楽しみにしていた。
いつもお母さんの「早く寝なさい」と戦いながら。

そんなある日、
お母さんがラジオをつけて話した。
「もうすぐあなたの好きな人が出て来るから、
ラジオ聴いてごらん」

少女はノイズが時々入るラジオの音を聴くために、
ラジカセのスピーカーに耳をつけた。

「(DJ)さて!リスナーの皆さんお待ちかねの
今話題のドラマ主題歌を歌う世界的有名な
ミュージシャンの登場です!
では、さっそく入って頂きましょう。
こんばんは。ようこそいらっしゃいました」

「こんばんは。よろしくお願いします」

少女は、この時初めて
ミュージシャンの話し声を聞いた。
歌のときとの違いもなく、
いつもの声に安心しながら、
一言一句彼の言葉に意識を集中させた。

「(DJ)では、次の質問が届いています。
ペンネームろってりあんさん、
群馬の女性の方からです。
〈ミュージシャンに質問です。
もし今彼女とデートするなら、
どこでデートしたいですか?
ちなみにもし私が彼女なら、
バーガーショップでデートしてみたいです〉
ときていますが、いかがですか?」

「そうですね~。さすがにバーガーショップは今
行くと大変なことになるので、
それはできませんが」

「そうですよね!
でもそうした普通のデートを
したことはありますか?」

「そうですね。学生の時にありますが」

「それはどんな風に?」

「だから、質問のようなバーガーショップで、
待ち合わせして、ずっとそこに居たりして」

「へえ?ずっとバーガーショップ?」

「はい、お金がなかったから、
ハンバーガーをおごることしかできなくて」

「あっそういうことですか。でも彼女は?
怒らなかったんですか?」

「うん、怒らなかった。それどころか、
〈ここでいい〉と言ってくれて」

「へえ、いい彼女ですね」

「まぁ」

「その彼女とはどれくらいお付き合いを?」

「でも半年位かな」

「あら!それは何で?」

「僕が上京することになって」

「レコードデビューですか?」

「はい、そうです」

「待っててくれとか付いて来いとは
言わなかったんですか?」

「うん、言えなかったよ」

「それはなぜ?」

「あの頃、
もう気持ちが離れていくのがわかったんだ」

「どちらの?」

「彼女の」

「あんなにあなた思いの彼女が?」

「はい」

「それは何か理由が?」

「まあまあ、大人な事情です」

「大人な事情とは怪しいですね(笑)」

「元々彼女には僕より先に長くお付き合いしていた
彼女の初恋の人がいて」

「はい」

「それで、彼女がその人と別れたからと、
なぜか僕の所に来て付き合うことになった」

「う~ん、どちらから告白を?」

「彼女から」

「へえ、それで何で気持ちが・・・」

「彼女は自分の気持ちに嘘をついて
僕と付き合っていただけなんだ」

「えっ!それはせつないですね」

「いや、意外にそんなこと無いんだ」

「あら!それはどうして」

「僕らの付き合いと言っても、
手も繋いだことがないで終わった。
それに僕もうすうす彼女の気持ちに気づいたから、
それ以上気持ちを向かわせることを
止めようと努力したよ」

「だからそれがせつないですってば」

「あっそうか」

「でも・・・」

ラジオの会話を聞きながら、
少女は
「ミュージシャンかわいそう」と泣いていた。

「(DJ)じゃあ、
バーガーショップでデートできたら、
どんなファッションをしますか?」

「そうですね!やっぱり僕の仕事柄、
サングラスとキャップは必須アイテムですかね」

「それでは彼女にも同じ格好を?」

「いえいえ、彼女はそのままで」

「でも、ミュージシャンの彼女なら、
女優やモデルとかもいたりして」

「ハッハッハ、僕意外と普通の人がいいです」

「普通の人?」

「はい」

「へぇ~意外ですね!」

「ハッハッハ、失礼な(笑)」

ラジオが終わると少女は、
「普通の人って何?」とお母さんに質問。

「それはね、
お母さんやあなたみたいな人を言うのよ」

翌週、別のラジオ番組でのこと、
リスナーからのミュージシャンへの質問を
ファックスで受け付けていた。
少女はいてもたってもいられず、
お母さんに質問を書いた紙を、
ファックスしてほしいと手渡した。

「(DJ)さっそく質問がたくさんきています。
ありがとうございます。
では一枚ご紹介しましょう。
〈こんにちわ。ミュージシャンさんに質問です。
私はまだ10才ですが、
いつかデートしてくれますか?
私はバーガーショップの
チーズバーガーとポテトが大好きです。〉
ときていますが(笑)」

「デートですか?まだ10歳でしょ?(笑)」

「でも結構真剣みたいですよ!
少女のお母さんがコメントを書いていて
〈娘はドラマ主題歌に出逢ってから、
ずっとミュージシャンに恋しています。
何をするにもミュージシャンならどうする。
何かをしてあげたいと、お料理の勉強を始めたり、
おしゃれに目覚めたりと、
すっかり恋する乙女になっています。
ですので、どうか娘の初恋の願いを
叶えてあげてください〉とありますが(笑)」

「イヤイヤイヤイヤ、それは困りましたね!」

「イヤイヤイヤイヤ、
モテる男はつらいですね(笑)」

「もう、そんなにいじめないでくださいよ!」

「でも、どうですか?じゃあ少女に一言、
コメントを」

「はい、そうですね。どこの方かな?」

「京都ですね」

「京都か~良いところですね!
じゃあ、何何ちゃんかな?」

「◯◯ちゃんです」

「◯◯ちゃんがね、いい娘にしてたら、
今度、いつか京都でコンサートするから、
その時に・・・楽屋でもいいかな?
楽屋でチーズバーガーとポテト、
お兄さんがおごるから、一緒に食べましょう」

「それでいいんですか?」

「へっ?ダメですか?」

「お母さんの話では、マジ恋ですし、
子供扱いすると、
◯◯ちゃんもショック受けるんじゃないですか?」

「もう、また、そんなにいじめないでくださいよ!
じゃあ、どうしよう」

それから、
数日後、少女の家のポストに
ラジオ番組からお礼のステッカーが届いた。

「(お母さん)ステッカー届いたわよ」

「うん」

「それと・・・」

「それと?何?」

「お手紙が入っていたわ(笑)」

「お手紙?」

「いいから、早く読んであげなさい」

「うん・・・」

少女はお母さんから手渡された
ステッカー入りの封筒から、
ステッカーと三つ折になった手紙を取り出した。

~~~~~~
◯◯ちゃんへ

今日はファックスありがとう。
お兄さん、ちゃんと質問に答えてあげられなくて
ごめんね!

いつか、京都でコンサートしたら、
お話したように、
ハンバーガーを一緒に食べようね。

それと、
もしだけど、
◯◯ちゃんが嫌じゃなければね、
いつか◯◯ちゃんが大人の女の人に成長して、
まだ僕のことが好きだったら、
その時は、本当にデートしてみようかね?

ずっと、
◯◯ちゃんが大人になるまで、
僕の好きでいてね!

じゃあ、またね!

ミュージシャンより

~~~~~

あのドラマの主題歌発売から、
今日で25年となる。
少女はすっかり大人な女性へと成長。
彼女の横には、
誰かいるだろうか?

彼女は今も大切に、
その時の手紙とステッカーを額縁に入れて
飾っている。
もう25年も彼女は彼の文字を眺め続けていた。

電話が鳴った。

「もしもし?なんしょう~と?」

「うふふ(笑)」

「あのさ」

「うん(笑)」

「元気か?」

「ううん(笑)」

「元気じゃないのか?」

「ううん(笑)」

「どっちだ?(怒)」

「あなたは?」

「えっ!俺か?まぁ~元気だよ」

「あっそう(笑)」

「あっそう!じゃないよ!
本当に大丈夫なのか?」

「うん、ケナンチャナヨ!」

「ケナンチャナヨ?」

「韓国語で大丈夫は
ケンチャナヨって言うでしょ?」

「うん?そうだっけ?(笑)」

「・・・」

「今日これから・・・」

「これから?」

「ハンバーガー食べないか?」

「夜中に?」

「うん、ダメか?」

「ううん、ダメじゃないけど、太るよ!」

「それは大丈夫!」

「何で?」

「だってほら・・・」

「ほら何?(笑)」

「だから・・・その・・・」

「だから・・・その?(笑)」

「全部言わせるなよ!」

「全部言わせるなよ!」

「コラっ!真似すんなよ!(笑)」

「コラっ!?いつもの服で行くね」

「あっ!おっ!きゅ!急に、
それはないだろう(汗)」

「うふふ、ドキドキした?(笑)」

「あっ・・・あ~ぁ、いいから早く来い」

「待てないの?」

「お腹が空いてるからな?」

「うふふ(笑)」


(制作日 2022.3.12(土))
※この物語はフィクションです。

このお話は、
1997年3月12日発売 アルバム
ASKA『ONE』の収録曲、
『バーガーショップで逢いましょう』をヒントに
書いてみました。

有名人のデートの苦労を感じさせる歌詞。
有名人に恋したまだ子供の少女。
まさか、将来、
この歌詞のようなデートをするなんて、
というお話にしてみました。

デート一つするもにも、
普通とは違う苦労が
逆に、いつも新鮮なドキドキを
与えてくれるかもしれませんね。

でも、
それがずっと続くのは大変かもね(笑)

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~


ヒントにした曲
ASKA『バーガーショップで逢いましょう』
作詞作曲 ASKA
編曲 ASKA・PAUL STAVELEY O'DUFFY
☆収録アルバム
ASKA『ONE』
(1997.3.12発売)

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