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【超ショートショート】(147)~もう一度、捧げてみたい愛~☆財津和夫『愛していたい』☆作詞 財津和夫/作曲 ASKA

今日を待つ人のもとへ、
荷物を届ける。

そう、僕の仕事は配達屋さん。
大きなものから小さなものまで、
なんでも届ける。

僕の仕事の相棒はトラック。
頭の上には、今日も彼女の写真が、
僕の働きぶりを眺めている。

彼女との出会いは、
配達した会社だった。
たまたま、彼女が受け取りに出て、
僕らは互いに一目惚れをした。

僕は、
あんなに美しい人を見たことがなかった。
彼女が僕のどこに惚れたのかって、
付き合ってから聞いたら、
顔でも、体格でもなくて、
重たい荷物を持つ腕の筋だっていうんだ。
それで一目惚れされても、
顔じゃないなら、
結局誰でも良かったのかと、
僕は寂しくなった。

今日は思いの外、
配達が遅れていた。
仕事が終わり職場に戻ると、
同僚が心配した様子だった。

「お前、なんかあったか?」

「いいえ、特に。」

「今日、お前の彼女の会社に行ったら、
お前と別れたって話してた。」

「そうですか。」

「そうですかじゃないぞ!
お前、きのうは寝てないんじゃないのか?
だいぶ顔色が悪いぞ!
昼飯も残していたし。」

「大丈夫です。ただのダイエットっすから。」

ロッカールームに行き、
着替えるためにロッカーを開ける。
小さな鏡の下に、
笑顔の彼女の写真が、
僕を迎えている。
「おかえりなさい!」と。

全く身体に力が入らないまま、
いつもなら5分で着替える所を、
20分もかかった。

酒を飲んだわけでもないのに、
脚にも力が入らないまま帰宅。
そのまま、部屋着に着替える余力なく、
ベッドに倒れ、
知らずに流れ続ける涙の温もりに、
慰められるように眠りについた。

翌日、仕事は休み。
いつもなら、朝から彼女が、
洗濯、掃除、ごはんの支度と
にぎやかな声で忙しくする。
少しでも、家事を早く終え、
午後から僕とゆっくりしたいからと、
いつも一生懸命に家のことをしてくれた。

僕は、そんな休みの日の彼女の姿を思いだし、
また気づかないうちに流れる涙。
彼女がいるときは、
映画を見て泣く僕の涙を、
やさしい手付きで拭ってくれた。
でも今日はひとり。
自分で拭うしかない。

午前中、
そんな涙にくれる自分を助けるために、
散歩に出た。
彼女がいたときは、
彼女が飼っていたトイプードルを
まるでふたりの子供みたいにしながら、
夫婦気分で歩いていた。

でも、今日はひとり。
犬も彼女が連れていってしまった。
彼女よりも僕になついていたのに。

僕は広い公園の片隅にあるベンチに
隠れるように座った。
遠くでは、家族連れが、
たくさん幸せそうに遊んでいる。

僕は、彼女とそんな未来を夢見ていた。

じゃあ今は?と考えると、
まだ、そう夢見ている自分がいる。

やっぱり一緒になるなら、
彼女しかいない。

別れたとは言え、
僕は全くあきらめる気がないことに、
この時気づいた。

なら、もう一度、
彼女に一目惚れされるように、
彼女が直してほしいと言われていたことを
直してみようと心に決めた。
そうしたら、
彼女はきっと、あの日、
僕が彼女の笑顔を引き出したときのような
甘い言葉で笑ってくれるはずだ。
僕にとってあの日の笑顔は、
彼女からもらった一番うれしいプレゼントだったよ。

午後、
僕のことを心配していた同僚が家に来た。
僕は午前中に決めた彼女奪還の決意表明を
同僚に話してみた。
すると同僚は困った顔になった。
同僚からは、
いろんなネガティブな意見をもらった。
でも、同僚は、僕が失恋から立ち直れるなら、
そうしてみろ!応援する!
と最後は恋をしたばかりの心の明るさに戻り、
食もお酒も少しできるようになっていた。

同僚が帰ってからしばらく、
久しぶりのお酒に酔い夢へ入る。
もちろん、その夢で彼女に会った。
とても幸せな夢だった。
でも、夢からさめると、
彼女のいない現実に、
布団も掛けずに寝ると風邪を引くように、
心も身体も風邪を引いてしまった。

翌朝、風邪のまま出勤。
いつもの風邪と同僚たちも慣れていて、
特別心配する者もなく。

僕はそのまま、
相棒のトラックに乗り、
頭の上にいる彼女にあいさつをした。
そして、
もう一度だけチャンスをくれと、
まず写真の彼女に一日中説得を続けた。

それから3ヶ月後、
同僚が急な休みとなり、
同僚の配達分まで、僕が配達することになった。
午後15時。
時間指定の荷物を会社に届ける。
対応に出てきたのは、
別れた彼女だった。
一通り仕事の会話を終えると、
僕は彼女に勇気を持ってこう話した。

「もう一度チャンスをくれないか?」

彼女は話を聞くと、
僕の腕にはんこを押した。

僕がどんな意味?
という視線で彼女に問うと、
彼女は、
うつ向きながら、
うふふ!と口元が笑顔になった。

僕は、これが夢であるのか?ないのか?
確かめるために、
ほっぺたをつねってみたのだが・・・。


(制作日 2021.10.28(木))
※この物語はフィクションです。

今日は、
2009年10月28日発売
財津和夫さんのアルバム
『ふたりが眺めた窓の向こう』
発売から今日で「12周年」。

このアルバムでは、
財津和夫さんの希望で、
数名のアーティストが曲や詞の提供をしました。
そのお一人にASKAさんがいます。

ASKAさんは曲を提供。
詞は財津和夫さん。
曲タイトルは『愛していたい』

今日はこの曲を参考に、
失恋した人を書いてみました。
人は失恋したとしても、
まだ愛しているもの。
またいつかやり直せる。
そんな希望も捨てない、
それよりも、
また心に生まれて来るのかもしれません。
生まれてしまうから、
もっと前よりも愛してしまう。
そんなお話にしてみました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
財津和夫
『愛していたい』
作詞 財津和夫 作曲 ASKA
コーラス ASKA
※ASKA楽曲提供
https://m.youtube.com/watch?v=2DJJ2TxetIg&list=OLAK5uy_kksPT63xEzeSroAaDeFM1IQRxvEmoh0cM&index=10
☆収録アルバム
財津和夫
『ふたりが眺めた窓の向こう』
(2009.10.28発売)


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