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【超ショートショート】(219)~大河の正体~☆CHAGE&ASKA『モナリザの背中よりも』☆

僕らの間に、ずっと、
大河のような
橋も掛けられない大きな河が存在する。

あの日までは、そう思っていた。

美術館で君がモナリザを見たとき、
「モナリザの背中って見たことある?」
と僕に質問した!

モナリザは、
レオナルド・ダ・ビンチ作の婦人肖像画。
フランチェスコ・ダ・ジョコンドの依頼で
彼の夫人を描いたと言われる。

「レオナルド・ダ・ビンチが、
そんな人妻の背中を、いくらモデルでも、
見るわけないだろう?」

「あら?そうかしら?うふふ(笑)」

僕らは、
いつもの大河に小さな言葉のカヌーを浮かべた。

漕ぎ手も居ないまま、
流れに任せて、
対岸にたどり着く奇跡を信じてた。

リバーサイドのプライベートビーチに、
夏、夜空を眺めるために、
ベッドを外に置いた。

ベッドで君が、
「もしこのまま朝まで、
ここで寝ちゃったら、どうする?」
と僕に質問した!

「そりゃあ風邪ひくだろう?」

「うふふ(笑)そうかしら?うふふ(笑)」

結局、君は星の中の流れ星を探しながら、
すっかり乙女の寝顔をして、
朝まで夢宙旅行を楽しんだ。

僕らの間に流れる大河に、
ようやく橋が掛けれると思ったとき、
君がすでにカヌーに乗り、
大河へと1人漕いで出発してしまった。

大河は上流の大雨の影響で、
水かさも流れ方も日に日に
激しさを増した。

「もうこんな流れでは、
カヌーは流されているだろう。
あの娘のことは諦めたほうがいいかもな。」
と、僕の周りの人々が口にした。

そんなとき、
漕ぎ手の居ないカヌーが僕たちの前に流れ着いた。

僕は必死で君を探したが、
カヌーには居なかった。

流れ着いたカヌーには、
いつものように、
君の言葉が浮かんでいた。

「お元気ですか?
この言葉が誰も居ないカヌーで届いたなら、
言葉と一緒にある私が大切にしている鍵を
どうか大切に持っていてください。
いつか、それを受け取りに、
あなたのもとへ
参ります。」

それから僕は、
ずっと、君を待った。
まだカヌーに乗っているかもしれないと、
大河にも毎日探しに行った。

そんなある日、
君が僕に「鍵がほしい!」
とお願いしたことがあることを思い出した。

でも、あの頃の僕には、
まだまだ鍵を持てる力がないから、
本当のことが言えなくて、
君に嘘を付いた。
「まだ君が受け取れるほど、
君は僕の大切な人じゃないよ!」
と・・・。

あの時の君の表情は、
まるで、霊(たましい)が抜けたようだった。
そして、
君は涙を浮かべた笑顔で、
ずっと僕に微笑んだ。
「またまたご冗談を・・・」

それから、
君が自分で鍵を作り出した。
「いつかあの人にプレゼントする」
と周囲に話したという。

君の鍵を受け取ってから、
どれくらいが過ぎただろうか?

プライベートビーチに出した
夏のベッドも、
秋風に汚されないように、
部屋に戻されていた。

冬の夜、
そのベッドに寝ると冷たく濡れている。
誰かのいたずらだと思い、
新しいシーツに変えようとしたとき、
シーツにくるまり、
むらさき色の唇をした
まるでモナリザの微笑を浮かべた
君がベッドの影に隠れていた。

「どうしたの?いつから、ここに?」

君は大河の水の寒さで、
言葉も話せないほど震えていた。

僕は、
暖かい部屋に、暖かいお風呂に、
暖かい飲み物に、暖かい食べ物に、
何でも暖かいものを君に与えた。

朝焼けになる頃、
ようやく君の震えも止まり、
暖かい僕の腕の中で夢宙旅行に、
やっと出掛けた。

君が目覚めると、
僕は君から受け取った大切な鍵を
君に返そうとしたら、
君はそれを嫌がった。

「違うよ!ほらっ!よく見てごらん!(笑)」

そう僕が話すと、
君は少し不安な顔をしながら、
僕の手にある鍵を見た。

「これは?」

「そうだよ!これ僕が作ったんだ!」

「どうして?」

「僕にとって君が大切だからさ!」

「でも、あの時・・・」

「ごめん・・・(笑)」

「うん・・・(笑)」

僕らの間に、
ずっとあると思っていた
大河のような橋も掛けられない大きな河。

僕らはその河は障害だと思っていた。

でも、
君がカヌーで渡ってきた大河は、
僕と君をつなぐ2人だけの河だった。

僕が上流に君が下流に
君が上流に僕が下流に
言葉がお互いに届くように、
順番に入れ替わっていただけだった。

僕が本棚に忘れた、
君にとってベッドで昼寝するには
邪魔な本。

偶然本に挟んだしおりが、
君に秘密のページを開いて
君に見せた。

僕が重要な言葉に引いたラインが、
君の目に触れる。

君はそれを読んでしまうと、
君が作った鍵と僕が作った鍵を取り出し、
2枚を重ね合わせた。

「あら!本当っ!うふふ(笑)」

僕が本に引いたラインには、
こんな言葉があった。

「見知らぬものが作った鍵が、
ぴったり重なるとき、
互いに温もりの大河が流れ始めるだろう」


(制作日 2022.1.8(土))
※この物語はフィクションです。​

お話は、
CHAGE&ASKA『モナリザの背中よりも』を
参考にしています。
また、
お話の内容は、
きのう1月7日(金)初日が開幕した
ASKAさんのコンサートツアー『アンコール公演』を
見た時に感動した一つを書いてみました。

どんな感動だったかは、
お話からご想像ください!

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『モナリザの背中よりも』
作詞作曲 ASKA
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『SEE YA!』
(1990.8.29発売)

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