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レビー小体型認知症介護④『ごめん』

脊椎管狭窄症の

リハビリの為

義母を整形に

連れて行く。

車椅子がまだ

なかった頃、

徒歩10分位の

病院でも

タクシーを利用していた。

歩行介助しながら

タクシーに乗せて

病院名を告げる。

『近いんですけど、○○整形までお願いします』

病院に着き

『車椅子が必要なので少し待っていて下さい』

とお願いした。


「チッ」


タクシーの運転手さんが

舌打ちをした。


ミラー越し

目を合わせない。

私は

目を合わせない

運転手さんを

睨んだ。

一瞬で

腹が立った。


義母を

車椅子に乗せたあと

『どうもありがとうございました』

大きな声で

お礼を言った。

そんな事しか

出来なかった。


そして、

もう二度と

この会社の

タクシーには乗らない

と誓った。


旦那を説得して

車椅子を買った。

何故、

説得という事を

しないと

買って貰えないのか、

必死だったのか、

その時は

家族の無関心さに

気付かなかった。


雪が積もり

ガタガタの道も

車椅子を押した。


横断歩道を渡り終え

交差点の段差

凍ったくぼみに

ハマった時

義母が落ちた。


通りすがりの人は

避けて行った。


義母の着替え袋の重みで

車椅子は

背中側に倒れた。


義母は

何か言っていた。


大粒の雪が

降っていた。


整形の

長い待ち時間の

おかげで、

車のヘッドライトが

灯る時間になっていた。


小さな子供と

手を繋いで

信号待ちをする

親子。

青に変わり

子供を前に歩かせて

私の横を

通り過ぎて行った。


買い物帰りの

おばさんが

「何してるの?危ないねー。」

と言った。


もう

どうでもいいと

思ってしまった。

助けて

と、

誰かにすがりたくなった。


でも、

周りには

誰もいなかった。


信号が点滅する。

正面から

義母の両脇に腕を入れ

ズボンを掴み

車椅子に座らせる。

落ちた

荷物を掛け直し

前車輪を上げ

後ろ向きに

車椅子を引っ張る。


家に着いて

ズボンとオムツを

取り替える。

テレビを見せて

ご飯を作る。

飲み込みも

弱くなっていたから

ご飯にお湯を含ませ

ふやかした

卵かけご飯。

煮豆。

お豆腐のお味噌汁。

魚の缶詰。

ほぼ、

毎日同じ。


自分で食べる。

昔からの癖で

かき込んで食べるから

むせる。

一口ずつ食べて

と言っても聞かない。

案の定

むせる。

きちんと噛まないまま

お味噌汁や

お茶で

流し飲む。

だから

味なんて

関係ない。


美味しい物は

施設で

食べてもらって

家では

同じ物を。

何度もむせるから

スプーンで

一口ずつ

食べさせる。


ある時

スプーンで食べさせると

「いいよ!こんな物!」

と言って

スプーンを

投げつけてきた。

私は

とっさに

投げ返していた。

顔に当たった。

「何すんの!痛いこと!」

投げ返された。


私は

スプーンを持ち

有無を言わさず

義母の口に

食べ物を入れた。


(うるさい、だまれ、くちごたえすんな)


そう思いながら

無言で

強制的に

食事を終わらせた。


台所の流しに

おぼんごと投げ入れ

冷蔵庫を殴った。

何度も何度も。

冷蔵庫のドアは

拳の形に凹んだ。


冷蔵庫のドアは

意外と柔らかいよ。


ガチャン!

ガンガン!


この音に驚いた

犬は

二階の部屋に

逃げて行った。


『ごめん!』


犬達に

怖い思いを

させてしまった…


泣きながら

部屋に行き

犬達の名前を呼んだ。

しっぽを丸めて

体を低くして

耳を寝かせて

ゆっくり擦り寄ってきた。

『ごめんね、

怖かったね、

あなた達を

怒ったんじゃ

ないんだよ。』

『ごめんね』


涙を舐めてくれた。


謝っても慰めても

もう遅いのは

分かっていた。

一度

怖い思いを

させてしまった

犬達の心は

その記憶は

二度と消えない。


その日から

私が

義母の部屋にいる時は

犬達は

二階の部屋に

いる様になった。


私は

義母に対しても

犬達に対しても

あんなに

否定していた


父親と

同じ事をしていた…










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