約束(エッセイ)
「絶対戻って来てね。約束だからね」
私は主人の手を取って、声にならない声を振り絞って言った。
「泣くな」
主人は看護師さんたちが居る前で、軽く私にキスをして、
つないでいた手を離した。
そして、手術室へ消えて行った。
私は手術が無事に終わることをひたすら祈りながら、
待合室でツルを折り続けた。
折り紙の角が涙でかすんで見えない。
10時間後、看護師さんに案内され、
小刻みに震える足に力を入れてICUに入って行った。
ベッドに横たわる主人の体には、数え切れないほどのチューブがつながれ、まるで人造人間のようだった。
その痛々しい姿にまた涙があふれた。
「手術は成功しました」
先生の言葉に、緊張の糸が緩んで、腰が砕けそうになった。
先生方にどう感謝すればいいのか言葉が浮かばない。
自然に先生に手を合わせていた。
次の日、面会した時は、もう話が出来るようになっていた。
医学の進歩は本当に素晴らしいと思った。
そして人間ってものすごいことが出来るんだと思った。
「お父さん、無事に戻って来てくれてありがとう。
約束を守ってくれてありがとう」
主人にも心から感謝した。
長年の「カカア天下」はここまで。
これからは「じじい天下」大歓迎です。
「神様、主人がそばにいてくれるなら、
主人のどんなわがままも笑って許します」
あれから5年・・・・
いつの間にか、カカア天下復活!
じじい天下?
それなんだっけ?
70を過ぎると物忘れが激しくなる。
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