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雑草と呼ばないで(創作童話)


みいちゃんはおばあちゃんと散歩の途中、
公園に寄ってブランコに乗りました。
おばあちゃんは待っている間に、草むらで何かをしていました。
「おばあちゃん、何してるの?」
ブランコから下りてきたみいちゃんが聞きました。
「ん?これか?おじいちゃんの好きな花やから、摘んで帰って見せてあげようと思ってね。ほら可愛いやろ?」
おばあちゃんが、草むらで摘んだピンクの花を見せてくれました。
「でもこれ雑草でしょ? そんなん、仏さんにあげてもいいの?」
「なーんも。なーんも。花壇の花も道端の花も、花にはかわりあらへん。
この葉っぱみてみ。ハートの形していて、幸せになれそうな気がするやろ? ほんでな、雑草っていう名前の草はないんよ。どんな草にも全部名前がついてるねん。このピンクの花はムラサキカタバミっていうんよ。こっちにあるんはペンペン草。こっちきてごらん」
 おばあちゃんは、持っていたペンペン草の実がちぎれないように、ゆっくり下にひっぱりました。三角の実がブランブランになりました。
「はい、かんざしができた」
といって、それをみいちゃんの耳元でふりました。
「わあ、シャラシャラって音がする」
「そうやろ。おばあちゃんの子どもの頃は、これを髪の毛に挟んで、
お姫さまごっこして遊んだもんや。ほら、こうやってね」
おばあちゃんは、ペンペン草を耳のうしろにはさんで、シャナリシャナリと歩きました。
「あはは。おばあちゃん、わたしにもして」
 みいちゃんは、頭を前につきだしました。
「お姫様みたいになった?」
みいちゃんも、おばあちゃんのまねをして、お姫さま歩きをしました。
「うん、うん。かわいい、みいちゃん姫やわ」
おばあちゃんが目を細めて言いました。
「あした、幼稚園に行ったら、さっちゃんに作ってあげよう。
さっちゃん、喜ぶわ、きっと」
「あ、みいちゃん気をつけて。足もとにイヌノフグリが咲いてるよ。この花が咲いたらすぐに春がくるのよ」
「え、これ? お星様みたいでかわいいね。こっちのちっちゃな花はなんて言う名前?」
みいちゃんは、真っ白で小さな小さな花を指さしました。
「ああ、それはハコベや。こんなちっちゃい花やのに、花びらはきっちり切りそろえたようや。神様はこまかいお仕事なさるね~。これはな、小鳥の大好物やねんで」
「小鳥がこんな草をたべるの」
「そうや。特にこのつぼみが好きでな。これを食べるとき、プチプチって音をさせて、目をつむっておいしそうにたべるんよ」
「小鳥って可愛いんやね。みいちゃんも、小鳥ほしいわ」
「そうやな。一人で世話が出来るようになったら、ママとパパにたのんであげるわね」
「ほんま? きっとね。ゆびきりげんまん」

二人は道端の花を見たり、摘み取ったりしながら家に帰ってきました。
門のそばに細い草が生えていました。
「そうそう、これや。ミイちゃんいい事教えてあげるわ」
おばあちゃんがその草を何本かぬいてきました。
「それなに?」
「これはな、スズメノテッポウいうてな、笛になるんや」
「笛? ピーって鳴るふえ?」
「そうや、こうやってね・・・」
おばあちゃんは、細いくきのまんなかにある穂をスポっとぬきました。
「草が笛になるなんて、ほんとに?」
みいちゃんは、信じられないという風に、スズメノテッポウを見ています。
「ほんまやって。みててごらん。あれ、どうやったかな。そうや、この細い葉っぱをちょっと折ったらいいんや」
 おばあちゃんは、子どもに戻ったように、夢中になって葉っぱを向こうにたおしたり、手前におったり、まっすぐたてたりしました。ブーブブブ・・・プピー、ピー・・・
「なった、なった。おばあちゃんすごい」
「なーんもすごいことあらへんよ。昔の子どもは、みーんなできたもんや」
「みいちゃんもやりたい」
「じゃあこれを口びるの下にあてて。そうそ、その葉っぱを向こうにたおすねん」
ブーブーッブブブ・・・
「鳴らないよ~」
「すぐには無理かも。でもすぐにコツがつかめるようになるわ」
ふたりが草笛に夢中になていると、ママが家から出てきました。
「あら、楽しそうね~。何をしているの」
「ママ~、草笛ふける?」
「草笛? それ、なーに?」
ママは不思議そうに聞きました。
ミイちゃんはおばあちゃんからスズメノテッポウを一本もらうと
「ママ、これは雑草と思ってるでしょ?違うのよ。スズメノテッポウって名前があるのよ」
と、園長先生のように、ちょっと反っくり返っていいました。
横にいたおばあちゃんはプッと噴き出しました。
「このね、穂を抜いて吹くとね、あ~ら不思議!笛になりま~す」
ママもおばあちゃんから1本もらって、細い茎に唇をとがらせて、
空気をふきこみます。
「ブブブブ・・・、まあ、いやだわ。うふふふ」
「きゃははは・・・。ママ変な音」
「あら、みいちゃんだって・・・」
「おほほ・・・。ゆりさんその調子。すぐにうまくなりますよ」
三人はほっぺをふくらませたお互いの顔を見て、笑いあいました。  
柔らかい日差しが、花壇の花や小さな草たちに優しくふりそそぐ
昼下がりでした。

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