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「自己」について~上田閑照『実存と虚存 二重世界内存在』を読んでみた

今月に入って藤田正勝『日本哲学入門』を買って読んでいた。
正直日本哲学は得意ではない(^^;)ので、一通り読んで見たものの消化できているかどうか自信はない。西周や西田幾多郎、三木清などとにかく広範囲に渡って言及されているので非常に勉強になる。
興味を惹かれる話は色々あった。今回はその中で名前が出てきた上田閑照(”しずてる”と読む)の『実存と虚存 二重世界内存在』を入手して読んでみたので、そちらの話をしていきたいと思う(『日本哲学入門』の話じゃなくてゴメンナサイ)。

さて、この『実存と虚存 二重世界内存在』という本ではタイトル通り、「二重世界内存在」という聞き慣れない概念が提示される。元はハイデガーの「世界‐内‐存在」から来ている。ハイデガーによればそれは、何らかの世界の内に世界を了解しつつある現存在(人間)の本質構造である。
上田はそれを、世界において、自己において、その地平において二重化させる。
西田幾多郎の「絶対無」のように、有の背後には必ず無が二重化されているのである。ただし、有と無という二つの別々な世界があるという訳ではなく、地平線で分かたれた此方と彼方のように、その境界線自体も移動しながら常にその二重性の中にある。
また、僕たち人間は、ただある世界にあってその世界内の存在者としてだけある訳ではない。勿論世界の中に投げ込まれて世界の内の存在者としてある訳だが、それだけにとどまらず、その世界を包み込みように、あるいはその世界を縁取るようにあるもう一つの世界(虚空)という二重性としてあるというのである。
これは自己においても同様である。自己はただ単独の自己としてある訳ではなく、自他の間に「自己ならざる自己」として二重化してあるのである。
ちょっと分かりづらいだろうか。
入不二基義は『問いを問う』の中で、「【Y←X←】」(Xを通じてYを知る)に対して「Y←【Y←X←】」(経験内のYではなくその外に本当にYはあるのか)の懐疑の問題を論じている(あくまで知識、認識の問いとして)。世界や自己の二重化はこの経験の内と外との二重化に似ている。ただし上田は、これを「二重世界内存在」と命名し、僕たち人間の本質的なあり方だと捉えている。
「我は我なり」と一重の自意識に批判の目を向け、西田幾多郎的な「我は、我ならずして、我なり」という場所としての自己への自覚を促すのである。

さて、自己ということを考えるとき、僕たちはデカルトの「我思う、故に我あり」のように、自己の存在の明証性から出発する。西田の「私と汝」にあっても、コミュニケーションの「場所」の自覚こそが自己として現れてくるのであって、その場所にはすでに「私」という自己(と絶対の他者)が存在している。
僕たちは、僕たち自身であるこの「私」を疑うことができないのである。
僕も以前、ロボットの心について考えたとき、疑いえない「自分の心」から始めるのだ、と書いた。

しかし今回「二重世界内存在」について考えながら、あるいは西田の「私と汝」を考えながら、「この私」という自己に関していうならば、他者があることによってその同型としての自己を見出すという方が実情に近いのかもしれないと考えた。
しかし、ここでいう「この私」という自己は、普通言われるような自我や心といった意味での自己とはちょっと違う。二重世界的には虚空に於いてあるような、西田的に言えば場所的な自己である。それは、僕がhimaという名前でnoteを書いていたり、子どもが二人いたり、サッカー観戦が好きだったりといったこと、その人の属性とは関係がない。ただ、僕が僕であるというだけ・・の意味での自己ということだ。
そのような自己は、他者(この意味では他者は常に絶対であるのであえて絶対的他者とは言わなくて良いように思う)と触れ、それが同型であるということでしか知ることができないのではないだろうか。
一方で、所謂自我や心といったものは、自己がもつことになった意味と同型のものを他者の中に見出すように発見していくように思われる。
この双方が不即不離で同時成立するような形で自己というものが姿を現し、そして成立した後には、双方向に二重に忘却が可能となるのではないだろうか。意味を持った自己はただ単に僕であるだけの自己を忘却し、ただ単なる自己はどんな意味でも持ち得るという形で最初に得た意味を忘却し訂正可能になる。
どちらからの忘却も、僕たちが生きていくのをほんの少しだけ楽にしてくれるかもしれないし、それに苦しむ場合もあるかもしれない。
もし僕たちが「二重世界内存在」としてあるのであれば、忘却もまた二重化されている。僕たちはきっと、今のこの「自己」の状況について、その両方の忘却に抗するように物語ることができるはずである。そんな言葉を探しながら、これからもこのnoteを書いていってみたい。

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