なぜ、今さら“音声”なのか。の謎
ごきげんいかがでしょうか。himalaya公式note編集部の佐藤です。
音声業界の盛り上がりが本格化の兆しを見せています。音声SNS「Clubhouse」の熱狂の残像がまだまだ消えぬ中、大手SNSプラットフォーマ―もこぞって音声分野に参入を果たそうとしています。
さまざまなエンターテインメントや情報取得手段の選択肢が増えた今、なぜ“枯れた技術”とも言える音声が注目を集めているのでしょうか。今回は、その要因について考えてみます。
巨大プラットフォーマーが続々と音声に本腰
つい先日、Facebookが「Clubhouse」の対抗馬として「Live Audio Rooms」というサービスの開発を発表しました。Twitterも「Spaces」という音声SNS機能をすでにスタートしていますから、SNSの2大巨頭が音声に参入してくることになります。
またAppleは、ポッドキャストでサブスクリプション(定額課金)の提供を開始することを発表しました。Appleはこれまで、ポッドキャストのプラットフォームこそ提供してきたものの、一貫して収益化については関わってこなかったため、「ついに」というニュアンスで伝えているメディアも多いようです。
さらに、Amazon Music や Spotify でもオリジナルポッドキャスト番組が続々と配信されるなど、かつてないほどに音声コンテンツに注目が集まっています。日本でも近い将来、音声コンテンツの利用が爆発的に増える可能性は十分にあり得ます。
なぜ、音声なのですか?動画のほうがいいじゃないですか。
さて……今まで何度このような質問をされたか分かりません(汗)。このような疑問を持つ人が多いということは、音声コンテンツを語る上で避けて通れない議論なのでしょう。
つまり動画には映像があり、もちろん音声もあります。動画コンテンツは音声コンテンツを兼ねていて、情報量が多く表現の幅も広い。だから、動画コンテンツがあれば音声コンテンツは不要なのではないか、ということかと思います。
情報量で言えば、たしかに動画が圧倒的です。伝え手の表情も見せられますし、図表で分かりやすく解説することもできます。字幕を入れて、演出することも可能です。そして、これらのすべてが、音声コンテンツでは基本的にできません。
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同じ時間内に得られる情報量では音声は動画に劣ることは事実です。しかしこのことが、「動画コンテンツがあれば、音声コンテンツは不要」ということの根拠になりません。
例えば、「傘は大きいほど濡れないから、小さい傘や折りたたみ傘は不要」でしょうか。あるいは、「ゴルフクラブは、一番遠くへ飛ばせるドライバーだけあれば、アイアンやパターは不要」でしょうか。……そんなことはないはずです。
なぜなら、最適なツールは利用シーンによって異なるからです。動画と音声、あるいはテキストコンテンツでは、利用に適したシーンが異なります。
音声コンテンツの利用に適しているシーンとは?
動画はたくさんの情報を一気に得られる優れた情報ツールです。スマートフォンの普及によって、いつでもどこでも動画を楽しめる時代になり、利便性はさらに増しています。一方で以下のような課題もあります。
・画面をずっと見ている必要があり、行動が制限される
・同じ理由から、目を酷使する
・多くの通信容量を必要とする
音声コンテンツは、これら動画の課題をクリアにし、メリットに変えることができます。
・画面を見る必要がなく、情報を取得しながら別のことができる
・目を閉じた状態でも情報を取得できる
・通信容量が少なく済む(動画の5~10分の1程度)
* * *
これらのことから、動画の視聴が難しいシーンなどで音声コンテンツが活躍します。例えば、以下のようなシーンです。
・料理や掃除といった家事や、事務作業・ルーティン作業などをしながら
・トレーニングやランニングをしながら
・眠る前、布団に入って目を閉じた状態で
・満員電車など、スマホを持つ手が使えない状況で
・今月の”ギガ”がピンチ!だけど、エンタメを楽しみたいときに
ほかにも、器用な方であればテキストコンテンツを読みながら耳では音声コンテンツを聴く、という使い方をする方もいらっしゃるでしょうし、小さな子供に動画コンテンツばかりを見せたくない、映像がないからこそ想像力を育める、という理由で子供に積極的に音声コンテンツを聴かせている親御さんもいらっしゃるかもしれません。
なぜ「今」、音声なのか。
では、なぜ「今」になって、音声コンテンツが盛り上がりを見せているのでしょうか。例えばラジオにいたっては、おそらく当記事をご覧の多くの方が生まれる遥か前からあるわけで、音声コンテンツ自体が特段新しいわけではありません。
実は、この時代に音声が脚光を浴び始めているの理由として3つ挙げることができそうです。
▽1.新しいデバイスの普及
利用デバイスが変わることは「利用シーン」が変わることも意味します。音声コンテンツに関して言えば、なんといっても一番大きいのがスマートフォンの普及です。スマホが普及したことによって、ラジオ番組が専用のラジオ受信機なしで気軽に聴けるようになりました。
また、ポッドキャストも今では「PCでダウンロードしてiPod(DAP)にデータを移す」といった、ちょっと面倒だった操作が完全に不要になっています。
ポッドキャストは、ポッドキャストプレーヤーのアプリから番組を直接検索して再生できますし、私たちが運営する「himalaya(ヒマラヤ)」のような一般のユーザーが気軽に音声配信できるサービスもどんどん生まれています。これによって、音声コンテンツを聴取できるシーンが格段に広がりました。
さらに、スマートスピーカーの普及も少しずつ進んでいるほか、音声コンテンツを気軽に聴取できる車載デバイスの普及も今後進むと考えられ、音声の利用の幅はさらに広がっていくでしょう。
▽2.新たなニーズの登場
YouTube、NETFLIX、TikTokなどなど……さまざまな動画関連サービスが登場し、コンテンツは飽和状態とも言える状況です。そんな中で、最新の動画コンテンツを追い続けることに疲れる「動画疲れ」を訴える人も現れてきているようです。
また、「アプリマーケティング研究所」は、スマホの普及による「暇な感覚の拡張」を指摘しています。
例えば、いまの若い人は「お風呂に浸かってるとき」を暇だと感じている人がわりと多いようです。なぜかというと「目や耳が暇だから」
お風呂に入ってるのだから「暇じゃない」とも言えるけど、ある意味「目や耳が空いてる」のを物足りなく感じて、その空白を埋めようとする。
いつでも、どこでも情報取得が可能になったことで、少しでも目や耳が空くと「暇だな」と感じてしまう(みなさんの中にも、このような感覚が理解できる方がいらっしゃるのでは?)。
やはり利用シーンの話にもつながりますが、料理をしているのに耳が暇、ランニングをしているのに耳が暇、という感覚。つねに情報を浴びていないと不安になるような感覚が、たしかに私自身にもあります。
デバイスの普及も相まって、このようなニーズを満たすコンテンツとして音声に活路を見出すことができます。
▽3.新しい技術とのシナジー(相乗効果)と可能性
音声コンテンツ自体は新しいものではありませんが、新しいデバイスや新しい技術との組み合わせによって、さまざまな可能性が広がってきています。
・位置情報との組み合わせ
スマホで位置情報を取得し、その場所でしか聴けないコンテンツを提供したり、それによって特定の店舗が近づくと音声広告を流す、といった利用方法も。
・4G以降の高速移動通信の普及
4G以降の移動通信技術の進化によってストリーミング配信/受信が容易になりました。さらに5G移動通信の普及が進めば、さらに低遅延かつ多数デバイスの同時接続が可能になり、LIVE配信をはじめとする同期コミュニケーションがよりスムーズになります。
また、IoT(モノのインターネット)の普及も音声コンテンツの盛り上がりを後押しする可能性があります。さまざまな家電や道具などがインターネットとつながることで音声の利用の幅が一気に広がるでしょう。併せて、介護・福祉や教育分野での利用も期待される「VUI(ボイスユーザーインターフェイス)」の進化にも注目が集まっています。
・VR/AR音響との組み合わせ
音響技術と通信速度の向上により、スマホで気軽に多チャンネルの立体サラウンド音声なども聴取できるようになってきています。上述の位置情報と組み合わせれば、特定の場所に行くと本来そこにないはずのモノの音声(環境音や動物の鳴き声など)がリアルに聴こえてくる、といった演出も可能になります。
・デジタル化による音声アドテクノロジーの進化
ラジオ時代のCM(音声広告)の最大の課題は、広告の成果が分からないことでした。まずCMに接触した人の数を正確に知ることができないうえ、聴いた人が購買行動に移ったかどうかも確認できないことが大きなネックになっていたのです。
しかし、インターネットを介した音声コンテンツは、デジタルデータを個別のデバイスとやりとりするため、1つ1つの行動データが圧倒的に取得しやすくなりました。購買行動に関する詳細なデータ取得にはまだ課題もありますが、広告に接触した人数や接触した時間、接触した人の属性などはかなり正確に取得可能で、ターゲティング広告の精度も向上しています。
さらに位置情報などを活用した音声広告を展開することで、聴取から購買にいたるまでの経路の追跡や、費用に対する効果検証の精度もさらに高まっていくでしょう。
音声は「今」、盛り上がるべくして盛り上がっている。
この1~2年で、音声市場の注目度はかなり高まっています。「これから確実に音声が来る」と言う声もすごく増えた印象があります。
一方で、「なぜ、今さら音声が?」と首を傾げていた方もいたかと思います。その理由について、今回の記事が理解のヒントになったら幸いです。
私たち「himalaya」の母体となっているサービス、中国の「喜马拉雅(シマラヤ)FM」は、2021年に月間アクティブユーザー数が2億5,000万人を超えました。中国やアメリカでどんどん利用が進む音声コンテンツ。日本での爆発的普及も時間の問題――のはずです。
我々自身も、その瞬間を心待ちにしています。
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