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ニーチェの「例外者」


【例外者】 

  例外者とは、世間の圏外に立ち、孤独な境涯を行く単独者です。平均的なものから距離を確保し、平等化を退けようとします。例外者は、精神的な貴族主義者です。あらゆる平均的なものを嫌い、それらから境界線を引きます。現代は、大衆が支配する世界です。そこでは、例外者は、犯罪者のように扱われ、迫害された状態にあります。世間では、自分たちの価値観と合わないものは排除されるからです。例外者は、世俗から一人離れ、孤立しています。寂寥の中にいる孤高な隠遁者のようなものです。一人、自分自身の充実を求め、その境遇に満足しています。例えば、鷲は群れをなして飛びません。そのため、孤高の象徴です。例外者は、鷲に喩えられます。 

  例外者を台無しにしようとするものが教育です。教育は、中級品を育成しようとします。現代は、一般大衆の評価の方が支配的です。大衆が名誉受けている時代には、中位のものが最高とされます。教育においては、独創的なものは評価されません。標準的なものが正しいとされるからです。 

 【英雄】

  例外者は、英雄のような者です。自分の運命の重荷を担い、その義務に服従しています。彼らが求めるものは、自分の仕事です。自分自身の幸福などは求めません。英雄が戦うものは、この世を支配している巨大権力の価値観です。それは、自分の価値観を強制してきます。英雄は、懐疑者であり、古い価値観にはとらわれません。また何も信じないため、ニヒリストになります。彼らは、新しい価値観の立法者です。そのため世間から疎外され、たいてい過酷な生存状態にいます。新しい価値観を持つ者が、世の中で成功することは稀です。彼らは、決められた道を真っ直ぐ歩きません。常識を疑い、好んで曲がった道を行くからです。 

 【創造者】 

  例外者は、創造者です。創造することによって無「ニヒル」を超克します。無とは、物事には意味がないということです。彼らは、知恵を創造するだけで、何かを批評する能力はありません。創造するための素材は、自然と集まり蜂蜜のように蓄積されます。彼らは、それを惜しみなく与える者です。健康で力の充溢から生産的になります。自由精神の権化であり、既成の価値観にはとらわれません。凝り固まった論理的思考ではなく、詩的な思考をしています。 

 【超人】 

  ニーチェは、世界の総体的な運動が無限の反復だと考えていました。それを永劫回帰と言います。その永劫回帰を告知する者が「超人」です。世界が同じことの繰り返しであるならば、全ての運命は決まっています。全ては総体的に生起し、決まった通りに動くので、そこに人間の自由意思はありません。たとえそうだったとしても、それを肯定的にとらえるのが超人です。超人は、大地の主として人々にそれを伝えます。しかし、そうした考え方は、西洋世界では、一般的に受け入れられていませんでした。西洋の古い価値観では、時間の経過は一直線だったからです。

 世間と違った考え方を持つという意味では、超人も例外者と言えます。ニーチェは、西洋文明は、不健全だと考えていました。超人とは、不健全な考え方から目覚めた者です。新しい価値観を創造し、古い価値観に代わる人類の目標となります。 

 【ギリシャ人】 

  我々は、古代人の事業を受け継いでいます。現代人は、先祖の残した財産を食い潰しているようなものです。何事も先行する世代の文化がなければ成立しません。ニーチェが最高に出来の良い人間類型だとしたのが古代ギリシャ人です。ギリシャ人は、きわめて明朗で健康的に現世を謳歌していました。創造的な民族であり、その文化は、全ヨーロッパの母胎となっています。ニーチェは、ギリシャ文化を人類文化の中核をなすものだと考えていました。ニーチェが自分の先駆的思想家としたのが、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスです。

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