見出し画像

レヴィ•ストロースの「神話」

【神話】
 神話とは、世界を理解するために作られた人類最初の哲学です。未開人は、出来事の説明を神話によってしてきました。例えば、何かの起源や自然現象の説明などです。神話は、世界を理解するために、いつでも再生可能でなくてはいけません。何かが起こる度に、それを反復させるからです。しかし、再現される神話は、全く同じものではありませんでした。それは、差異を孕んだ、異なるものの反復だったからです。
 神話は、自然と人間社会との間に相関関係を作るのに役立ちました。永遠の秩序を求め、心理的な矛盾を調停するものだからです。神話は、無意識的に築かれます。それは、人々の思考の基盤にある共通認識でした。神話は、集団的な信仰に基づいています。その意味で、政治的なイデオロギーに似ています。主体は、未開の社会においては、特別なものではありませんでした。そこが神話が再現される場にすぎないからです。

【言語】
 レヴィ•ストロースは、言語学者のソシュールの影響を受けています。そこから、神話そのものが、ラングのようなものだとしました。ラングとは、ソシュールの用語で、言語習慣の規則の総体のことです。同じ言語共同体に属していれば、構成員はそれを共通に持っています。人々が会話することが出来るのは、その社会のラングを共有しているからです。ラングに基づく、実際の個人的な発話行為を「パロール」と言います。パロールは、一回限りの出来事です。実際に神話が、誰かによって、語られている状況がパロールになります。
 レヴィ•ストロースは、神話が、ラングであると同時にパロールだとしました。神話の時間は、ラングとパロールの特徴を併せ持つ第三の時間体系です。それは、「昔々」などと言う、非時間的な永遠の過去に属しています。そのため、明確な直線的な順序がありません。それは、時間的順序に重きをおく、近代西欧の歴史と対比されます。

【構造主義】
 神話の物語は「通時的」に展開されます。通時的とは、時間の流れの変化を観察することです。神話の諸要素は、共時的な意味の体系として、常に組織し直されます。共時的とは、特定の時点での意味の配置のことです。一つの神話それ自体に、固有の意味があるわけではありません。意味とは、諸要素間のそれぞれの配置のことだからです。神話は、他の神話がなければ成立しません。人間は、物事の意味を、それぞれの関係性によって理解しています。それを可能にしていのが「物事の適切な距離」です。例えば、相反するものを二項対立させることにって、意味を理解しています。
 レヴィ•ストロースは、神話を構造主義という「知の技術」を使って解釈しようとしました。神話とは、人間の心の中にある恒常的な構造です。しかし、語られる神話は、語り手によってそれぞれに違いが出ます。ただし、それは表面的なものにすぎません。それらは、同じ構造の異った表現形式だからです。神話は、他の神話との交通によって、初めて意味が生成されます。そのため、それ単体では意味を持ちません。

【神話素】
 神話の最小単位を「神話素」と言います。神話素とは「文」や「モチーフ」のことです。神話とは、神話素の組み合わせで構成された一つの全体的な体系です。その体系は、エピソードの寄せ集めの状態にあります。そのため、必ずしも、ひとつづきになっていません。神話は、それ単体としては、意味を持ちません。いくつかの要素の相互の結びつきによって、初めて意味を持ちます。
 神話は、プリコラージュによって作られてきました。プリコラージュとは、未開人の知的な器用仕事のことです。その器用仕事には、目的がありません。作られるのは、臨機応変に作られた具体的な日用品です。それは、現代のように規格化されたものではありません。そのため、常に変形されて行きます。神話は、そうした思考法で作られました。 また、神話は、言語によって作られたものです。そのため、親族関係や社会構造とは違います。神話という言語活動は、たんなる文章ではありません。それは物語という一つの出来事です。そのため、言語よりも音楽に近いものだとされました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?