映画「新聞記者」感想

※ネタバレを気にせず書くので、苦手な方は申し訳ありませんがご遠慮下さい。
※原案の小説は未読です。すみません。

下記のツイートを教えてもらって、気になっていた新聞記者を観る意欲ががぜん高まり、先程視聴完了しました。

そして、例によって宇多丸氏の非公式書き起こしと、

町山智浩氏のツイートまとめと、

カミヤマ氏の記事と、

……を読んで、あらためて感想をざっくりまとめました。

■映画の内容の現実感と、部分的に演出が過剰で、嘘臭く見えてしまう点の不一致が気になった。
・主人公が冒頭、ノートPCでTwitter観てる途中で、プロジェクションマッピングみたいにするの必要だったかな……何かチープさが目立った。映画「バクマン」でも似たようなシーンあったけど、あれはフィクション寄りの作品でそういう演出も多かったのでそんなに気にならなかった記憶。
・内閣情報調査室が暗いのは、シリアス具合が出ていて田中哲司氏の狂気さや怖さ(最高)が倍増されて非常に良かったが、出来れば各部屋の照明の明るさ全開の中で冷徹な怖さを観たかった。(ミッドサマーみたいな)省エネの為に内閣が多少暗いことはあるかもしれないが、あんなに暗い中で作業するのは非効率的では。THE悪の組織的ではあるけれど、物語の現実感が薄れてしまってもったいないなと感じた。
「それぞれの職員が正義の為を思って動いてるけど、結果は悪い方になってしまっている」とか「それぞれが仕事をしているけど、組織的過ぎてその作業自体に個人的な感情や明確な責任意識が生まれなくなっている」とかの状況に持っていっても面白いのかなと思った。(要はもう少し地味な気味悪さとか、感情のなさ故の怖さとかを観たかった)
・元上司の神崎が、誰が情報をリークしたか暗示するにしても、あのかわいい?羊の絵で良かったのだろうか。娘を喜ばせる為に描いていた〜で出てきた子供のクレヨンの絵の現実感は過去最高というかめっちゃリアルでよかった。何かわからない多色で描いてある歪な円の絵とか、本当の子供が描くあるある絵だなと。……それをわざわざ時間を割いて映す配慮あるのに、何故あの羊の絵の選択になったのだろうか。ちょくちょく映るけどあまりにかわいすぎる……神埼の性格で、大人が暗示する時にあの絵を選ぶだろうか、とか。(神埼の部屋で、吉岡が主人公に絵を見せて、これで良いんですか?というシーンでまたあの羊絵を大映しするかと焦ったけど、それはカメラからきちんと見切れるようにしてて配慮があるなと感じて良かった)
・神崎が自殺した理由が、生物兵器の転用〜だったのも含めて、それで良いのかな?と感じた。SF小説(虐殺器官とか猫のゆりかごみたいな)とかであれば、物語の中盤で謎の解明……ということで出てきてもまだ納得できるけど、現実感を重視するこの作品内だとカミヤマ氏の発言もあるよう現実の問題が薄っぺらい着地になってしまうよう感じた。わかりやすいけど、この映画で描くなら、地味な理由だとしてももっとハードでじりじり心がやられるような重責で自殺を選んだ…という方が良かったし納得できたのでは(それ描写するには時間配分が足りないだろうけど)
■田中哲司、最後に吉岡へわざわざ電話する必要ある?
露骨に「俺は悪いぜ〜」みたいな。あれは主人公と繋がってるかどうか探る為の罠なんだろうけども…であるならば、「お前がリークするはずがない」的なセリフはおかしいだろ。散々煽ってたじゃねーか。煽ってるつもりないサイコパス的なキャラ描写はなかったと思うのだが。自然派パワハラ上司的なキャラだとすれば、冒頭のツイート内にある人物像と重なるからそれならアリか。
■本田翼がやたらにかわいすぎる。
顔のほおのこけ方が妊婦の疲れてる感じでリアルかなと思ったけど、難産の産後に布団でごろごろのびのびしてるのは演技的に健康過ぎではないか?と思った。内閣に勤務できるような人が本田翼くらい美人と結婚できるんだぞ、という点は納得できた。しかし、神埼の奥さんも神埼に対して細身で若すぎて美人というか、それってどうなんだろうな〜とほんのり思った。(トロフィーワイフ的な話でなく、若くて美人ばかりってどうなの?という疑問点です)
■吉岡(シム・ウンギョン)の表情の演技がすごい。
こわい。圧がすごい。めぢからすごい。日本語のつたなさに関しては、慣れてる外国暮らしを捨てても、日本で父親の無念を晴らしたいという感情を理解できたし、周りに流されない、という際立ってる点が強調されてて良かったのでは。(でもポストイットぺたぺたとか、壁に記事貼りまくりってリアルなんだろうか。海外ドラマっぽい)ハンドジェル?を手に塗って集中モードに入るキャラづけは潔癖さを象徴するようで良かった。集中モードに入る為の条件付けは、左利きのエレンを少し思い出した。
■新聞記者の記事作成、輪転機印刷の冒頭から梱包まで、配達から読者への一連の配送ルート……の描写が丁寧で素晴らしかった。
祖父は新聞社勤務で役職にも就いていたのだが、当時の私はにちゃんねる系まとめブログ読者で思想が偏っていたこともあり、どのような気持ちで働いていたのかもっときちんと話を聞いておけば良かったなあ……と反省するくらい、新聞の作り手の情熱がわかる素晴らしいシーンだった。輪転機の動作をあんなに時間割いて描写してるのは中々ないのでは?吉岡が朝から晩まで記事を書いて、何度も記事に修正赤を入れられて詰めてく様は、仕事人〜これがプロ〜感が出てて良かった。
前半にTwitterのデジタル優勢感を出して、後半の新聞もまだまだ戦える〜という対比で良かった。(でも現実は、映画内でもセリフで言ってるけど、新聞媒体は弱っていってるよな……と切なくなった)

映画を観ている時にドキドキ感を維持できたのは、「これが実際に起きてることなんだ」と感情移入できたからで、だからこそもっと現実的な描写に終始した方が映画ラストの「ここからは観客一人一人が紡いでいくこと」というオチにすっと自然にいけたかなと感じました。

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