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ワイン初心者にどんなワインを勧めるべきか。ワインブロガーの僕がかんがえた4つのこと



普段ワインを飲まない人に勧めるべきはどんなワインか

「ワイン初心者にはどのようなワインを勧めるべきか」はよく語られるテーマだが、それについて思ったことがいくつかあるので、私自身の備忘録ならびに次の会へのPDCAの一環として記録しておきたい。

さて、昨日、お友だちのフード系インフルエンサー・とりゅふさんと「世界のワインと冬タコスで忘年会」と題したイベントを開催してきた。場所は注目著しい蔵前エリアの101(ichi-maru-ichi)。

会場に集ったのは約70名。男女比率は2:8から3:7くらいで女性(とりゅふさんのフォロワー)中心。「お酒は好きだけど、ワインのことは全然わからないです」という方が多数を占めるという環境だった。冒頭に挙げた「ワイン初心者にはどのようなワインが求められるか」を考えるには理想の環境だったと思う。
私の役割はワインのセレクトならびにワイン注ぎ係。以下、16時から22時くらいまで、70名の方が手にするグラスに30本分のワインを注ぎながら考えたことをまとめていきたい。


初心者に勧めるべきワイン1/「指名買い」できるワイン

まずはどのようなワインを用意したかを説明したい。このなかでどのワインが一番「ウケた」と思われるだろうか? 名前と説明文から予想してみてほしい。

正解を発表すると、MVPは白の「ブレッド&バター シャルドネ」だった。アメリカの白ワインで、その名の通りバターやパンのような風味のするワインだ。これが非常に好評だった。

なぜか。それは、リストの中でほぼ唯一「指名買い」が可能だったからだと私は思う。

たとえば、1本何万円もするパヴィヨン・ブラン・ド・シャトー・マルゴーとルフレーヴのシュヴァリエ・モンラッシェ、そして3000円くらいの「ブレッド&バター」の3つが、説明は一切付されずに一律グラスワイン500円で提供されていたとする(ありえないが)。

ワイン好きがブレッド&バターを選ぶ可能性はゼロ。ただ、ワインに関する知識がない方の場合、ブレッド&バターを選ぶケースがグッと増えてくると思う。唯一名前から味わいが想像できるし、同時に知的好奇心をかきたてられるからだ。「ワインなのにパンとバターってなに!?」と。

ワインの名前がワインの味わいを表現していて、しかもそこに意外性がある。その点で、ブレッド&バターはワインに興味のない方でも選びやすいし、評価軸が「おいしい/おいしくない」でなく、「ほんとにバターか/否か」「バターなのか/パンなのか」になるから語りやすいのも良い。
「ほんとにバターの味する〜!」と盛り上がることができ、それ自体が体験価値となる。

「ワイン初心者にはどのようなワインが求められるか」という問いに戻れば、そのうちのひとつは中身が想像できてかつ知的好奇心をくすぐられるもの。結果「指名買いできるもの」ということになると思う。飲むことが体験価値となるワイン、と言ってもいいかもしれない。


初心者に勧めるべきワイン2/ 料理に合うワイン(という体験)

また、多くの方が「今からフムスを食べるんですけど、なにが合いますか?」というふうに注文してくれたのは非常に嬉しい誤算だった。

「レモンパイに合うのは?」「タコスに合うワインどれですか?」とたくさん質問をいただき、答えは人によって変えた。

私はそもそもソムリエでもなんでもないただのド素人なので料理に合うワインを正確に提案することなどできない。にも関わらず自信を持ってお答えした。「それなら絶対これですよ!」みたいに。

なぜそんな無責任なことができるのかといえば、この場合求められているのは「フムスに合うワインだとお墨付きがついたワイン」であり、つまり「誰かに選んでもらったワイン」であると考えられたからだ。

「今からフムスを食べるんですけど、なにが合いますか?」と言われたときに私がカウンターで販売していたのは極言すれば「とりゅふさんのイベントで、料理に合わせてワインを選んでもらった」という体験そのもの。

その体験をより良いものにしようと思ったら、躊躇なく「フムス? だったらこのワインが最高ですよ!」というのが最善手。

また、時間が許せばゲストと一緒にあれこれ考えて答えを出すのもいい。最高の一杯を手にするためにアイデアを出し合い、協働する。これも「ワイン」という液体を体験に変える行為のひとつだ。

私の知識とセンスには非常に低い限界があるが、コミュニケーションによって体験価値を高めることには限界がない。

深夜2時にオフィスで食べるカップラーメンは砂の味がするが、午前6時にキャンプ場で朝日を見ながら食べるカップラーメンは一生忘れられない味になり得る。そのような環境の違いを擬似的に作る手伝いは素人にも可能だ。

「今からフムスを食べるんですけど、なにが合いますか?」という質問は、だから最高のホームランボールなのだ。1杯のワインにできる限りのバフを盛ることができ、体験価値を含めて提供することができる。

ふたたび「ワイン初心者にはどのようなワインが求められるか」という問いに戻れば、それは「(シチュエーションや料理に合わせて)選んでもらったワイン」ということになる。


初心者に勧めるべきワイン3/ 「今しか飲めない」ワイン

「提案のやり方」という面でもうひとつ良かったのは、やや希少な日本ワインを1時間に1本抜栓したこと。

16時から21時の会のなかで、17時、18時、19時、20時を限定ワインの販売開始時間としたところ、18時以降はそれを求める行列ができたり、販売時間の前からカウンター前から待機する方がいるという状況となった。

「その時間しか買えない」「すぐに売り切れてしまう」「どうやら希少なワインらしい」という口コミが会場内で拡散した結果生まれた状況で、すぐに欠品してしまったのは大変申し訳なく反省材料なのだが、イベントの盛り上げという点ではよかったように思う。

パン屋で買い物をしているとしばしば「たったいま焼けた」というパンが店頭に並ぶことがあり、それらについ惹かれてしまうのに少し似ていると感じた。大切なのは商品そのもののレアリティではなく、その日その場所その時間しか飲めないというレアリティだ。

珍しめの日本ワインは採算度外視で私のお友だちのワインマニアの方向けに用意したのだが、むしろワインマニアの方々が「えっ、もう売り切れちゃったの?」みたいになるという現象が起きていた。


初心者に勧めるべきワイン4/とにかく「イチオシ」のワイン

また、「エレスコ フランコフカ・モドラ」というスロバキアワインもよく売れたが、これは「2023BEST候補」といった打ち出し方をしたことがシンプルに効果的だった。

初見の居酒屋でメニューを開いたとき「一番人気! まずはこれを食べてください」みたいなメニューがあったらとりあえずそれ試してみっか、みたいになるのと同じことだ。


ワイン初心者にどんなワインを勧めるべきかのまとめ

まとめると、この日好評だったのは、
・指名買いできるワイン
・料理に合わせたワイン
・その時間しか買えないワイン
・主催者イチオシのワイン
といったワインたち。すべてに共通しているのは、選択コストが小さいということ。

ワインに興味のない方が、10数種類のワインのなかから「これ!」と選ぶことは非常に難しい。自分の好みを言語化することも極めて難しい。ていうか無理で、「詳しい人」にそれを聞かれるのは苦痛だ。

たとえば日本ではあまり飲まれないが中国には「白酒」という酒がある。ではみなさんは、どんな白酒がお好みだろうか? フルーティなタイプ? さわやかなタイプ? 重め? 軽め? なんでもいいからイメージだけでも伝えてください!

無理なのだ。「ワインの好みを伝える」なんて、知識がなければ不可能だ。ワインを選ぶことはストレスフルな作業。それを楽しめるのはワイン好きという自己自認が得られてからだと私は思う。

ゲヴュルツトラミネールがいいとか甘口がいいとか香りの良いピノ・ノワールがいいんじゃないかとかいっそワインカクテルじゃない? などなどいろいろ思うところはあるのだが、それよりもなによりも選択肢を少なくして選択ストレスを取り払ってあげることが重要だしこの会における私の役割だなと感じたのだった。

・有名ワイン(普通の人は知らない)
・おいしいワイン(飲んでないから知らない)
とかは、意外とフックにはならない。もちろんおいしさは重要で、それはワインという飲料自体のリピート率に直結するわけだが、初手にはならない。

レストランで「どれがオススメですか?」と問うた場合に「ぜんぶオススメですよ!」と返ってくるケースがある。それと同じような不毛さが「このワインはおいしいですよ! 」と勧める行為の根底にはあるのだ。そもそもおいしくないワインがリストに載っているはずがないのだから。

すべてのワインはひとしくおいしい。問題は、その区別がつかず、選択にペインが伴うことなのだ。

普段ワインを飲まない人がたくさん集まるワインパーティという稀有な場。そこで求められるのは、数多くの選択肢を用意しつつ、選択のハードルを下げるという一見矛盾して見える行為だった。

私の試みが成功しているかどうかはわからない。

30本以上のワインが空になったイベントを通じて、一人でも多くの方がワインにほんの少しでも興味を覚えてくれたらいいなと思っている。参加してくださった皆様、ありがとうございました。

※あくまで自分用メモであり「ワインはこう売るべし!」みたいな話ではまったくありません。


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