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ヨブ記とギリシア悲劇

 旧約聖書のヨブ記は、よくギリシア悲劇との類似性が指摘されますが、その理由は大きく2つあります。
 一つ目は、その構成です。ヨブ記は、最初と最後の散文部分に韻文部分を挟み込む三部構成になっていますが、これがエピローグ、本筋、プロローグという劇の構成に似通っているためです。
 二つ目は、神の登場によって本筋が終わりを告げる点です。これは古代ギリシア三大悲劇詩人の一人、エウリピデスがよく使ったと言われる、“機械仕掛けの神”という手法に通じるところがあります。
 実際、ヨブ記を演劇として捉え返してみると、観客という視点が、物語に重層性と膨らみをもたらしてくれるようにも思えます。
 さらに、舞台に登場しながらセリフを口にすることがない黙役(だんまり役)の存在は、エピローグで姿を消したままに終わるサタンが、実は始終ヨブの傍らに立っていた可能性を炙り出してくれます。