第2章:物語を生み出すゲーム
本記事は『ボードゲームと文学展@小樽文学館_Web版』の記事のひとつですhttps://note.com/hilow_zero/m/m51eaca69998f
第1章ではゲームの中に設定として組み込まれた物語に着目してみました。この章では、逆に物語を作ることが目的となるゲームにスポットライトを当ててみます。
物語を生み出すゲームの特徴は、その作成されるストーリーがゲームごと、プレイヤーごとに異なるということ。その多様さが、物語が作成される過程とは別の面白さに繋がっています。こうしたゲームに触れる経験をすると、既成の物語の多様な再解釈が可能になってくるでしょう。例えば『桃太郎』という物語の舞台や登場人物をそのままにしながらの別展開のストーリーというのを想像しやすくなるのではないでしょうか。ゲームで遊んでいくうちに、物語そのものが潜在的に持っている豊かさに気付いていくのです。
○ ローリーズ ストーリーキューブス
イラストが描かれた9つのサイコロを振り、出たイラストから連想されるキーワードを組み合わせてひとつの物語を作るゲームです。イラストをどう組み合わせるかはプレイヤーの自由、物語に関連付ける要素をイラストからどのように引き出すかもプレイヤーの自由です。正解はありませんし、間違いもありません。自分と他人の解釈の違いを楽しむのも、このゲームの醍醐味と言えるでしょう。サンプルとして展示している物語(下記画像)は、あくまで一例です。実際に手にとって、自由に物語を作ってみてください。
※お客さんに作っていただいた物語が新たな展示になるかもしれません。
・サンプルストーリー
・来館者のみなさんが作ったストーリー
展覧会開催中、ストーリーキューブスを使って実際に来館者のみなさんが作ったストーリーを投稿していただきました。その一部を紹介します。
・ストーリー1
むかしむかし、宇宙人が虫眼鏡を落として目が見えなくなりました。家に帰ると二人の子供が真逆の態度(表情)で磁石を月に向かって掲げると、一本のカギが降ってきました。それを懐にあったリンゴに刺すと中からリンゴの蜜が出てきました。めでたしめでたし。
・ストーリー2
魚がある日、思いました。ぼくは噴水の近くに住んでいるけど、木のそばで読書がしたい。そうすると魔法使いが天秤を持ってきて「このルーペで見てごらん」と言いました。そこにはカギがありました。「ビルの上にあるものを持ってくれば読書ができるよ」。魚は喜んで向かいました。夢でした。
・ストーリー3
月夜の晩、流れ星が落ちるのが見えたので、懐中電灯片手に探しに行くことにした。落ちた先には不思議な紋様が浮かび上がっており、虫眼鏡でよく見ると小さな鍵穴が見えた。矢の型をしたキーホルダーを入れてみたが開けることはできず、電話で友人を呼ぶことにした。
・ストーリー4
むかしむかし、青森に住むリンゴ農家のおばあさんがいました。サイロを建て直し塔のようになってしまっていた建物に収穫したリンゴを貯蔵し、カギをかけていました。
「今年のリンゴは何個かのう・・・」とそろばんをはじき計算していたおばあさんは、目の前に宇宙人とも思われるような格好をしたおじいさんを見つけました。
二人は磁石でくっ付いたかのように目を合わせ続けました。なぜなら、そのおじいさんは「オレはナイル川に誰も見たことのないカブトムシを捕まえにいく」と言って出ていったきりだったからです。
おばあさんの方は宇宙人のような格好をしたおじいさんに灯りのついた家の奥まで案内しました。おじいさんは「いや・・・、ばあさんや、ここでよい」と言い、玄関から動こうとしません。おばあさんは「どうしたんじゃ、おじいさん。せっかく45年ぶりに会えたというに・・・?」と訝しみました。
おじいさんが宇宙人のような服をとると、そこには・・・。青森で採れる普通のカブトムシが全身にくっ付いていました。「どうじゃ、誰も見たことがないカブトムシじゃろう?」。自慢げに言うおじいさんに、おばあさんは離婚の決意をしました。
・ストーリー5
むかしむかし、三日月が光り輝く夜、双子の男が迷子になっていた。月の光を懐中電灯代わりに、先が見えない道をひたすら歩いた。
やがて大きな木の下に灯がともっているのが見えたので、おそるおそる近づいてみると、近くにはカブトムシが乗せられた天秤が置かれたいた。歩き疲れた双子の男は、天秤の近くに座り、カブトムシを眺めていると、そのまま眠ってしまった。
次に目を覚ますと、双子の弟が付けていた時計は午前4時を指しており、太陽は迷子だった二人に街までの道を照らしてくれるのだった。
・ストーリー6
むかしむかし、大きな魚がいました。大きな魚は、世界が始まる前から黒い闇の中にいました。魚の息があぶくとなって浮かんだときに、時間が始まりました。そして地球が生まれました。
・ストーリー7
むかしむかし、とあるお城にパラシュートが降りてきました。とても静かな夜で、月を眺め流れ星に願い事をしていたその城のお姫様は、降りてきたパラシュートが空からの贈り物だと考えました。「きっと、一人で寂しく空を見ていた私に白羽の矢が当たったのよ!」と。
磁石に吸い寄せられるようにお姫様は近付いていきました。すると、どうでしょう! パラシュートに乗っていたのは亀でした。お姫様に雷が走りました。
それからお姫様はこの空から降ってきた亀を「世にも珍しい空中遊泳の好きな亀」として、アクロバットな出し物にしました。儲けたお金で立派なビルも建ち、家事の好きな旦那様もできました。「亀ビル」で長いこと幸せに暮らしたそうです。おしまい。
○ 人狼
様々なバリエーションを持つパーティゲームの総称です。基本設定は以下のとおり。人狼を全員処刑することができれば村人側の勝利、村人の人数を人狼の人数と同じになるまで減らすことができれば人狼側の勝利となります。同じ人狼でもタイトルによって「預言者」など様々な役割が付加されていています。人狼側は誰が人狼か分かっていますが、村人側はそれが分かりません。ゲームは夜と昼のフェイズに分かれています。夜のフェイズでは村人たちは目をつむり、その中を人狼側が捕食する村人を一人決めます。選ばれた村人は退場となります。昼は正体を隠した人狼側を含めた村人全員で話し合いを行ない、人狼と思われるプレイヤーを一人選定し処刑します。処刑されたプレイヤーは人狼かどうかに関わらず退場することになります。これをゲームの終了条件を満たすまで繰り返します。狼を全員処刑することができれば村人側の勝利、村人の人数を人狼の人数と同じになるまで減らすことができれば人狼側の勝利となります。同じ人狼でもタイトルによって「預言者」など様々な役割が付加されていています。
役割を演じながらのプレイヤーどうしの駆け引きが肝となるこのゲームの展開は、ひとつの物語と言って差支えないほどの独特のストーリー性を内包しています。そして、その物語はゲームごとに千変万化します。この人狼ゲーム自体をそのまま舞台で行なう演劇版人狼の『人狼TLPT』も開催されています。もちろん舞台ごとに、そのストーリー展開は異なります。
※ ワンナイト人狼
人狼を少人数、短時間で楽しむことができる簡易版。その名のとおり、1回の夜とその後の昼間で決着がつきます。昼間の決着時に人狼が全員生き残れば人狼側の勝ち、人狼を一匹でも処刑できれば村人側の勝ちになります。このワンナイト版では人狼が誰もいない場合もあります。その場合は誰かが処刑されると全員が負けという判定になります。簡略された内容でありながら、人狼の本質的なテイストをそのまま楽しむことができます。
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