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11/13 ウタは新時代の敗北者じゃけぇ……。(『ONE PIECE FILM RED』の感想)

久々に「世界精神型の敵役」が見れて嬉しかった。

新海誠の新作、『すずめの戸締まり』公開翌日にこれを観に行ったので「なんか逆張りオタクみたいだな……」と思った。同じ映画館でやっていたので正直はしごしたかったのだけど、「今日は1日活動している……ここで2本目を観たとて万全な状態で楽しめるだろうか?仮に途中で寝落ちしたらもう一度観に行く羽目になるし、ここは大人しく1本にしておこう」と思って帰った。

それではフィルムレッドの感想。ネタバレは気にしないというか、覚えているうちに思ったことを書くだけなので観てない人には何が何だかという内容になると思う。


敗北したテロリストの悲哀

ヒロインのウタ。「二重人格っぽいキャラデザだな」と思ったけど、よく言われてるのは「Vtuberぽい」らしい。なるほど。

今回のタイトルでパロった「敗北者じゃけぇ……」というのはワンピース本編に登場するとあるシーンで海軍大将の赤犬が言うセリフだが、ウタはまさに「敗北者」だった。目的は果たせないし、最後死ぬし。そして主人公が明らかにルフィではなくウタであることを考えると、この映画はバッドエンドに分類されるだろうと思う。

ただ、この映画をバッドエンドたらしめているのは「ウタが死んだこと」でも「ウタの計画が成就しなかったこと」でもなく「ウタの思いが誰にも伝わらなかったこと」だと思う。それこそぼくが見出しに書いた「敗北したテロリストの悲哀」だ。これについて説明するために、とりあえずウタの思想や目的を書いておこう。

世界の歌姫・ウタの目的は?能力は?調べてみました!

動機と目的
世間から隔離された島・エレジアで暮らす歌がめちゃめちゃ上手い少女、ウタ。彼女のもとにある日突然、映像電伝虫(映像を中継できる能力を持つ生き物)が流れ着く。ウタが自分の歌う映像をライブ配信で世界中に公開すると、その歌声は一斉に世界に広まり、彼女は一躍スーパースターになる。

そんなウタの元にはファンからのさまざまな声が届くが、その中で彼女の目を引いたのは「生きるのが辛いが、ウタはそんな人生を支えてくれる」というようなメッセージだった。そしてウタは、世界が大海賊時代を迎え、海賊が跳梁跋扈していることが多くの市民の平和を犠牲にしているということを段々と理解していく。

そしてウタは「自らの歌を聴いた人間を気づかぬうちに仮想空間「ウタワールド」に連れ込む」というウタウタの実の能力を使い、世界中の人々を永久にウタワールドに閉じ込めることで苦しみから解放し、その中で幸せな生活を送らせることを画策する。

ウタの「世界転覆」計画

ウタが世界的人気歌手としてライブを開催、それを配信して全世界の人々に歌を届け、聴いた人々をウタワールドに誘いこむところからこの計画は始まる。

そして「ウタワールドの中では、能力者が望んだことをなんでも実現できる」「能力者が死ぬことで、ウタワールドに連れ込まれた人々はそこに閉じ込められる」というウタウタの実の特性を利用し、最終的にウタ自身は死を選ぶことで、人々は貧困も差別も労働も戦争も略奪もなく、幸せなことしか起こらないウタワールドという仮想空間に閉じ込められ、そのなかで生きていくことができるようになる……というのが一連の流れだ。

これがのちに「世界転覆計画」と名指されるウタの企みであり、彼女が大海賊時代を終わらせ作ろうとした「新時代」である。

ONE PIECE FILM REDは、この計画を実現しようするテロリスト・ウタと、それを止める海賊・海軍・世界政府たちの戦いを描いた映画……ということになる。最終的には、育ての親であるシャンクスやゴードン(映画オリジナルキャラ)やルフィに阻まれてウタの計画は頓挫するわけだが、真に悲劇的なのは、ウタの理想を誰一人理解していないし、それどころか彼女を阻止する側の人間がウタの問題視する「大海賊時代の暗部」について省みることが一切ないということなのだ。

上に書いた通り、ウタは大海賊時代を「海賊が好き勝手に暴れ、その結果ふつうの人々を苦しめている」時代だと捉えている。そのことは映画の冒頭におけるナレーションでも語られているし、ポスターの「ねぇルフィ、海賊やめなよ」という煽り文からは「大海賊時代が苦しめている市井の人々の現実に触れ、海賊をやってて良いのかルフィが悩む」という物語すら想像されうる。そんな話になったら相当すごいしキャラの解釈違いとかで叩かれまくると思うけど……。

しかし、ウタのそのような問題意識は誰1人として理解することはないし、耳を傾けることもないのだ。実際海賊に民衆が苦しめられていることは事実なので反論不可能なのかもしれないが、真にウタと対峙するためには、ウタの主張に対する何かしらの応答が必要だったはずなのだ。しかし、そうするものは誰もいない。

ただし、ウタが計画に踏み切った動機は「苦しい社会からみんなを解放し、幸せにする」というところだけにあるのではない。育ての親であるシャンクスへの思い、過去に犯した罪のトラウマという個人的なところにもある。そして、物語が進むにつれてその部分のみがピックアップされていく流れになっているのだ。

そうして、序盤では世界政府の最高権力者である五老星から「革命の芽は早めに摘んでおかねば」と警戒された民衆のためのテロリスト・ウタは、終盤ではシャンクスとの「親子喧嘩」に世界を巻き込んだエゴイスト・ウタのように描かれてしまい、そのまま死んでしまう。ウタの歌声は世界の誰もに届いていたが、ウタの理想は世界の誰にも届かなかったことがぼくは寂しかったし、その悲哀が描かれていることがとても気に入った。

それ以外のことについて言えば


・Adoさんが歌ってる曲はウタカタララバイってのが好きだった。ただ、最近のアニメ映画って盛り上げるためにライブみたいな感情の喚起を多用しすぎじゃね感もあった。細田と『竜とそばかすの姫』のときもそう思ったけど。スタァライトは良かった。

・社会から隔絶されながら暮らしていたが、ある日ネットにアクセスするとそこには恐ろしい真実が明かされていてそんな社会を変えることを決意する……というのは、ネットde真実を知った陰謀論者みたいだ!と思った。

・サニーくんとかいうキャラはなんだったのかと思った。

以上です。


余談だけど、集合絵のサンジはいつも一人だけ冬服着てる季節感ガバい奴みたいでかわいそうだと思う。9月中旬あたりの教室か?

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