11/30 聞き間違えた僕vs見間違えた男

13:00頃、渋谷で信号待ちをしていたら、「STAFF」というカードを首から下げた男に「お兄さん、ちょっと良いですか?」と声をかけられたのでイヤホンを外した。大体こういうのは無視するのがセオリーだろうが、僕はいつも、なんとなくそうしづらい。同じように、秋葉原で客引きするメイドに対sても、いつも申し訳なくなる。彼女たちに声をかけられたらいつでもついていき、それなりのお金を落とせるような金持ちになれたら、あの辺りを歩くのも面倒じゃないのに、と思う。

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↑あの辺り。

男は「お兄さんにちょっと2、3分のアンケートに協力して欲しくて〜」と言い出したので、まぁそれくらいならと着いていった。美容脱毛に関するアンケートなのだという。そういえば、ここから3分か4分くらい歩いたところにメンズの美容脱毛サロンがあるなと思い出す。なぜそんなことを知っているかというと、20歳になった去年、成人式のお知らせと一緒にそこの無料チケットが届いたからだ。結局捨ててしまったが、その引け目もあってアンケートくらい協力しようと思った。

しかし、うるさい。こっちが協力的になっているところにやたら「お兄さん今日はどっか行くとこでした?」「お兄さん渋谷よく来るんですか?」「お兄さん美容脱毛って体験したことあります?」とかなんとか話しかけてくる。気になるならアンケート項目に入れろよ。

そのうち、あることに気がついた。正直、向こうもマスクをしているし、最初こっちはイヤホンをつけていたから気の所為だと思っていた、が。やはり。

この人は僕のことを「お姉さん」と呼んでいる。お姉さんじゃないが……。

「お姉さん声ハスキーで素敵ですね〜イケメンみたいで〜」というセリフで確信する。たしかにマスクはしてるし、上着の襟が立っているので喉仏は隠れている。でも普通間違えるか?間違えないだろ。

が、ここで「お兄さんなんですが……」とも言えない。その後に待ち受ける空気に耐えられそうにない。しかし。本当にそんなことがあるだろうか。間違えないだろ、と思う。少なくとも声を聞いたらわかるはずだ。声ハスキーで素敵ですね〜じゃないのである。ここで僕は確信した。おそらくこの人も引くに引けないのだ。何人もの人に声をかけて断られ、ようやく応じてくれた相手が実は男だったという現実を受け入れらずに喋り続けているのだ。しかし、なぜ僕がそんなことに付き合わされなければならないのか。そっちが間違えたんだからそっちが引けよ!!!

しかし、引かない。聞き間違えた僕vs見間違えた男。「男」「男性」「お兄さん」、これを口に出した方が負けなのだ。今さら後には引けず、絶対に怯んではならず、一歩たりとも譲ってはならない。

アンケートに素早く解答していき、その間も向こうは喋り続ける。いくら適当に回答していっっても、会話にまで気を回しつつ打っていくのは大変だ。

全ての項目に回答し、向こうがそれを受け取った。僕たちは勝負を引き分け、男はまた別の「お姉さん」に声をかけにいった。実はこのアンケート、書く前に男から「これに応じて頂くと無料で施術が受けられる」という説明がされる。しかし、僕が行っても良いのだろうか。行ったらやってくれるのだろうか。

規約を見ると「キャンセルの場合は料金が発生します」と書かれている。「キャンセルの場合、別の回をご提示ください」とも。絶対来させたいわけか。しかし、そうもいかない。

アンケートの最後にLINEを追加した。名前や住所は適当に書いておいたし、ブロックすれば良いか、と思ったからだ。

すると。

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なるほど。


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〜完〜



【今日読んだ本】
・渡辺優『ラメルノエリキサ』
気持ち良く性格の歪んだ小峰りなの異常な言動に振り回されてる気がしたけどそんなことはなかったぜ。いや異常なのは家族全員だった。メインキャラは異常者だらけ×復讐小説→残酷描写いっさい無し。普通、逆になりそうなもんだけど……つまり、この本自体が異常なのだ。

・朝井リョウ『武道館』
好きなアイドルが欲望の客体から主体に転じた瞬間、オタクはキレる。「好き」「欲望」「キレる」3つのテーマが小説の中でぐるぐる回ってくっついたり離れたりしながら描かれる「アイドル」小説だった。同時に、丸刈り騒動や、握手会での殺傷未遂、現実の出来事が露骨に参照され現実と接続されるアイドル「批評」でもある。アイドルがたくさん登場するので、推しが出来てもおかしくない。自分の推しは鶴井るりか。通奏低音として流れ最も迂遠に語られる4つ目のテーマ、「正しさ」を背負うことになった悲壮感がアツい。

・宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』
「過激な表現は現実に影響を与えない!」という主張は見当違いだと改めて思う。「道端で人を殴っちゃダメだがボクサーは試合で相手を殴って良い」「強姦をしてはダメだがセックスをすること自体は良い」←自分たちはこれを理解できるが、認知機能の発達度合いによっては殆ど不可能な層が大量にいる。「無論現実に影響を与える。が、過激な表現は規制されるべきではない」という方で行った方が誠実だ。


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