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怒りの遊園地/夕景と夜景

Twitterのタイムラインに富士Qハイランドの写真が多数流れてきて、ある遊園地のことを思い出した。西武園ゆうえんちである。こいつは近年「昭和の熱気を遊び尽くそう!」という訳の分からないコンセプトでリニューアル、園内を二分割し、半分を「夕日が丘商店街」といういかにもな店が並ぶエリアにしてしまった。閉園時間は18:00である。夏に行ったら夕日が見れない時間帯である。せっかく屋外なのに。この時点で相当適当なやつがトップにいるに違いないと思わせる。偉い奴のドラ息子が金と地縁にあぐらをかいて経営する遊園地。これぞ昭和レトロだ。

実際は、開演時間の大半は日が出ている。

夕日の見れない夕日が丘商店街より理不尽さを感じるのが「西武園通貨」という園内でしか使えない紙幣である。これは園内二箇所で現日本円と交換できる。レートは西武園通貨1円=現日本円12円だ。これがややこしい。自分がいくら払ったのかわからなくなる。

たとえば昼食に西武園通貨90円(現日本円1080円)のオムライスを食べたとする。それは良い。しかし手持ちの西武園通貨がなくなった場合、どれくらい追加すると残りの滞在時間で使えそうか直感的にわからないのだ。基本的に、西武園通貨は50円(現日本円で600円)か、250円(現日本円で3000円)という単位で我々が持参した財布にある現日本円と交換する。ここまで書いてて数字ばかりで頭がおかしくなってきた、やめます。

怒りの西武園通貨

すべてが嘘くさい

そもそも今は令和なんだから昭和レトロをコンセプトに遊園地なんかやったら嘘くさいだろ、と言われるかもしれないがそういうことではない。このホームページのイラストを見て欲しい。とにかく嘘くさいのである。

嘘くさい表情

嘘くさすぎる笑顔のイラスト。妙にリアルタッチなのでちょっと怖い。ついでいえばキャストさんもなんか嘘くさいのだ。ディズニーランドのキャストさんは「夢の国」の人だから良い。しかし「昭和の日本」の人が日本家屋をバックにディズニーと同じノリで喋っていると物凄く違和感があるのだ。苦しい。聞いていたくない。

リニューアルした側はこの遊園地を「昭和レトロ」「ノスタルジー」「エモ」的なノリで売り出そうとしたらしい。が、ここが自分にはよくわかっていない。冒頭でも書いた「夕日が丘商店街のくせに夕日が出る前に閉園する」問題である。

一応言っておくと、秋から冬にかけていけばこれは多少解消される。最初に書いた通り屋外なので、陽が落ちたらすぐわかる。が、せいぜい1時間か2時間くらいだ。正確に言えば夕日が出てくると閉園の雰囲気が漂ってくる。これはいけない。そもそも、「昭和レトロ」とか「ノスタルジー」みたいなものはある程度「暗さ」が必要なものだと自分は思っているのだ。要は令和におけるそういった昭和風、昭和的なものは西岸良平の『夕焼けの詩 三丁目の夕日』みたいなイメージなのだから、まず第一にロケーションは夕方に設定されている必要があると思うのだ。

昭和レトロって言われて想像する景色って絶対なんかオレンジ色っぽい街だろう。現代人は昭和の朝と昼にまったくエモさなど感じない。サザエさんがエモいか考えて欲しい。

昭和レトロ?

暗さ、というのは単に陽が落ちてるとか落ちてないとかいう問題ではない。たとえばさっきの『三丁目の夕日』にはメインのキャラクターに何人か小学生がいるが、彼らの親世代キャラは大体大東亜・太平洋戦争での戦争体験エピソードを持ち、彼ら自身、戦時中に死んだ上の兄弟の存在を知る回があったりする。昭和の「暗さ」はまず第一に敗戦国としての空気にあり、第二に高層ビルもタワマンもない時代の、夜にだんだん近づいていく夕方の落陽と物悲しさに起因するのだ。やがて太陽が沈んでゆく様子は高度経済成長が産んだビル群に隠れて見えなくなり、代わりにその高層階から綺麗な景色を眺めて食事ができるようになった。日本がいわゆる「戦後」から復興後の「ポスト戦後」に移り変わっていく流れは、日本から「夕景」が消え「夜景」が台頭していく様子と重なる。

夕景


夜景

そこへいくと、西武園ゆうえんちよりもお台場の「台場一丁目商店街」の方が完成度が高い。いや高くない。実際、ここは昭和30年代の街並みが〜とかなんとか言ってる割にワンピースのフィギュアが当たるクジとかもある。昭和もなにもない。が、暗いのだ。

ここは屋内なので、いくらでも暗くできる。これだけでグンと昭和感が上がる。

昭和は暗いのだ。

照明が微妙に暗い!!この時点で、園内の約半分が和式トイレであるという点しかマトモな昭和要素がない西武園ゆうえんちに勝っている。こっちが好きです。やっぱり照明って大事だよなと思わせる。駄菓子の隣に普通にお台場土産とか売ってるような、マジで適当な昭和感ではあるのだが……。

白いお台場。元ネタはもちろん……。

上の写真は「白いお台場」というパチモンのお菓子なのだが、お台場はそもそもパチモンが似合う土地だ。まず、お台場のビーチは人工砂浜であり、あの砂は伊豆諸島から持ってきている。本物の7分の1のサイズのアメリカの自由の女神像も建っている。「ヴィーナスフォート」という、イタリアの街並みを模したショッピングモールもある。すべてなにかのパチモン。誠意果つる修羅の街・お台場。土地全体が海外のパチモンだ。そしてその中心にあるのはお台場のランドマーク・フジテレビなのではないかと思っている。

そもそも、お台場という土地が臨海副都心として開発された経緯としては、フジテレビ局舎をあそこに移転し、中心として観光地にしていこうという計画を前提として始まっている。のだけれど、その観光地化においては「海外」がキーワードになっていたのではないか、と思っている。それを裏付けるように、当時のフジテレビは三谷幸喜にドラマを書かせていた。『やっぱり猫が好き』や『王様のレストラン』といった三谷のドラマ作品はアメリカンホームドラマの流れを汲むシチュエーションコメディであり、そこにはフジテレビが海外的なセンスを使ってコンテンツ作りをしようとしていた思惑が見て取れるのではないか、と思う。

アメリカ🇺🇸🗽

そしてこっちがイタリア。

イタリア🇮🇹🍕

ここ、ヴィーナスフォートはお台場にある主に服屋や飲食店がアウトレットだが、Wikipedia曰く「女性のためのテーマパーク」らしい。確かに(?)ここの最奥には小さいが派手なステージがあり、そこでよく若いアイドルがミニライブのようなものをやっていたりする。自分の働いてる事務所でもここでイベントをやることがあります。

この日は10時間働いた。

ただこのヴィーナスフォート、今月27日、つまり明日に閉館するらしい。西武園ゆうえんちの昭和感に比べたらよほどイタリア感があるのに、残念だ……まぁ、実際にイタリア人が見たら西武園ゆうえんち並なのかもしれないが……。

しかし、散々パチモンだなんだと言ったけれど、自分はお台場がかなり好きなのだ。日本で一番好きな場所かもしれない。夜景が良い。エモい。「相対性理論」の曲を流しながら夜お台場周辺を走る車に乗るのが、夢です。

お台場の夜景。

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