9/11 誕生日おめでとう

とよく言われるが、現代日本で若い奴が1年間生き延びられることなど大しておめでたくなんかないのだ。これが例えば、一年中爆撃が絶えないとか、そういうことならそりゃあおめでたいだろうが。しかし、コロナ禍の長期化と拡大と変異株続出という事態で少し事情が変わってきている。

前も書いたかもしれないけど、ぼくはコロナに対する不安度の乱高下が激しい。なので本当はなるべく外出なんかもすべきではない。不安の波が低いときに軽い気持ちで行動し、波が高くなったときその時の行動を後悔するからだ。この乱高下は外出中にもままあるので、映画を観ている途中で不安になって帰ったりすることもある。映画くらい観て帰ろう!

そういうのは金がもったいないので困る。ぼくは基本的に「精神的な問題の半分は規則正しい生活をして朝から庭で乾布摩擦でもしとけば解決するる!」と思っているのだが、映画館で乾布摩擦はできない。なので最近、そういう時は「感染はなるべく拡大させ、特に若い重症者を増やした方が良いのだ」と考えるようにしている。もちろん、これは僕の「不安度の乱高下とそれに伴う反動による不調」をマシにするためだけのものなので、僕はこれをベタに信じているわけでもなければ、この主張に根拠やデータは必要ない。

まず、コロナの感染拡大は止まらない。最近感染者が減ってきているらしいが、コロナ禍になって何回「なんか最近下がってる!凄い!あれ?また増えてきた!」を繰り返してきたのか。というわけで第五波も第六波も必ず来る。となれば、やはりどんどん人はコロナに感染するし、どんどん死ぬ。なら、ここまで来たら「人命を軽く見る社会」に変わっていくべきかもしれない。もちろん、死生観が変わったからといって人間の社会リソース的な損失は事実として存在するし、生命至上主義的な批判は免れない。が、人が死ぬことによる個々人の精神的なダメージやそこに起因する社会不安は緩やかに現象していく。命の選別も容易になり、迅速に進む。戦後社会は長寿化や死亡率の低下を1つの誇りとし、現在では若年層が病気や無事に成人することも珍しくなくなってきたから反発も多いだろうが、だからこそ、ショック療法として爆発的な感染と死亡が必要になってくる。

「誕生日おめでとう」をより実感の伴う言葉にするのだ。若年層の死亡率や疾病率を爆発的に上げる。当然、初めはそれをネガティブに捉えることしかできないだろう。しかし、そのうち慣れてくる。社会が変わりきってしまえば、意識も変容せざるを得ない。客観的に考えていくら悲惨だろうが、自分の置かれた環境を徹底的に否定し続けるのは難しい。どこかで一線を越えて慣れる。そして人が死ぬことが日常になる。最近は以前より聞かなくなったように思うが、生命至上主義はコロナ禍において一長一短な役割を果たしている。生命至上主義は短期的な安心感や、一時的な行動変容には繋がる。しかしコロナは短期では終わらない。「○○さえすれば終わる」と、安易に非現実的な短期決戦をさもあり得るかのように嘯くべきではない。長期的なコロナ対策を立て、それを人口に膾炙する為にも生命至上主義を脇に退けることは急務であり、そのためにも死生観の変容が必要だ。

自分の行動に不安になったとき、僕は以上のように考えることにしている。「今、自分や周囲の感染・重症化・死亡リスク上昇させかねない行動をしているかもしれないが、それは正しい、だからこれで良い」と。そうすると多少落ち着く。もちろん、同時に「これは本気でそう思っているわけではない」と意識もしている。それなしにベタに信じていればノーマスク集団と変わらない。

しかし、ここまで「死生観の変容」について書いてきたが、そもそもその変容されるべき「死生観」はこれまで一つの形で共有されていたのだろうか。それが案外、そうでもないような気もする。

コロナを巡る報道、特に感染拡大を抑えるための重要事項として「危機感の共有」についてたびたび言及された。つまり「みなさん、もっと自分や周りの人の命に危険が迫っていることを実感しましょう!」ということだ。だが、この「危機感の共有」という方向性はそこまで有効に働かなったような気がする。これはそもそも「危機感の共有」も求める呼びかけに前提として必要な「死生観の共有」がされていなかったからではないか。人によって死生観があまりに違えば「命に危機感が迫っている」ことを訴えることは虚しいことだ。

それはともかく、僕は「死生観の変容とそのための必要悪としての感染拡大のための行動の重要性」を考えることで自分の行動の正当化をすることで本当に自己否定に陥らないようにしている。あくまで個人的な試みだ。

だが、かりにワクチンや治療薬による人工的な集団免疫の獲得が実質的に無効化、本当に絶望的となった場合は社会全体で「死生観の変容」を迫られることもあるとは思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?