最近の再エネ関連のあれこれ(容量市場)
容量市場について調べてまとめてみた。そういうnote。
今の容量市場は、「気候危機」「脱原発」「電力自由化」のいずれとも相容れないものと言えるかもしれません。
ただ、電力システムの工学的、制度的なことについては、広く深い知識がないからネットに転がっている情報を集めることぐらいしかできないし、英語の情報の集約も難しい。けど一般市民の立場で、現状がどうなってて、どういう議論・指摘があって、どうしていくことが望ましいのか、ぐらいのことは考えたい。
容量市場の解説
まずは、大本営発表から。
・建前
電力自由化によって、再エネ等の変動性電源(Variable Renewable Energy:VRE)が多く参入してくる。
電力は、「同時同量」という原則があって、電気の供給量と需要量が一致していないと(バランスが取れていないと)、周波数の変動が起きたり、そもそもの送配電網システムがシャットアウトする可能性がある。
だから、再エネ由来の変動性を調整することができる供給力として、火力発電所などの「調整力」を持つ発電所が必要になる。
出典:資源エネルギー庁
※この図には気になることがあるので後述。
しかし、電力自由化によって再エネが多く導入されると、火力は相対的に減っていくことが予想される。
そうすると、電力の安定供給に必要な火力発電所の設備投資が進まず、電力システム全体のバランスを欠くことになってしまう。(上の図に当てはめると、将来的に火力発電所が減っていくことで、「火力発電」の範囲が狭くなる。そうすると、「電力需要」に対して、VREだけではその変動性から電力の供給が足らなくなる可能性がある、と言っている)
そのため、電力の供給力を将来的にも確保し、電力システムの安定化、ひいては電力料金の最適化を進めていくための市場が必要になる。
それが、容量市場。
容量市場という制度を運営している「電力広域的運営推進機関」の「容量市場解説スペシャルサイト」を要約すると、大体こんな感じ。
実際的な制度
この前に入札・開札されたのは、2024年における供給力に関する市場
売り手は「発電事業者」(発電所を持っている会社等)
買い手は「電力広域的運営推進機関」(通称、オクト)
ただし、実質的には、オクトが買い取った費用は、電力の小売事業者から「容量拠出金」として請求することになってて、最終的には電気代として国民負担となっている。
出典:電力広域運営推進機関
※この図においても、現状に照らすと指摘できることがあるため、後述。
ここまでが、消費者として関係してきそうな主な要点と概要。
指摘されるべき点
いっぱいある。
・再エネを前提とした制度設計になっていないし、ベースロード電源(長期固定電源)に固執しすぎ
→「再エネを主力電源とする」という方針があるにも関わらず、「再エネを導入するためには火力が必要」という論理に頼っているのは矛盾がある。「固定電源」+「調整力」というこれまでの発想が、そもそも時代遅れという指摘もある。
「再エネの主力電源化(資源エネルギー庁)」:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/shuryokudengen.html
「再エネの導入には火力が必要(資源エネルギー庁)」:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/tyoseiryoku.html
・「変動性」のための「調整力」って必要?
→周回遅れな日本と違って、海外では環境的にも経済的にも再エネがベスト、という認識で、そもそもの制度設計を見直してる。そこでキーワードになるのが「柔軟性」。再エネの変動性を前提とするならば、それに合わせた柔軟な電力システムを構築するという議論が海外では多い(らしい)。
・投資状況を想定した中長期的な電力市場の健全化のための手段はいろいろある
→「容量システム」とか「容量メカニズム」っていう括りがある。これは、電力需要のピーク時や送配電網のトラブル時などにおいて、供給の「信頼度(アデカシー)」を確保するための仕組みのこと。いろいろな国で、いろいろな手段が取られている。
それぞれの具体的な内容については、難しいので出典元参照。
出典:Energy Democracy(飯田哲也)
・なぜ「容量市場」なのか、という議論が少ない。
→海外と比較しようすると、発電-送電-配電-小売の仕組みや、周波数管理の地域規模、それぞれの企業体制、電力市場の仕組みなど、状況が違うため直接的な比較は難しいけど、いろいろある手段がどの程度検証されているのかが不透明。容量市場について取り上げたEnergy Shiftの記事執筆者はこんなことも言ってる。
容量市場については、議論が始まった時点で既に、どこの国でもうまくいっているわけではないという認識がありました。そうであるにもかかわらず、導入は早々と方向性として決まり、他の方法を検討しないまま、導入された、という感じです。議事録を読むとそうなっています。(https://energy-shift.com/news/8afd6c24-52da-411b-8ccc-977f03c53cf4)
・結果的に、既存の火力・原子力が温存されることになってる
→「調整力」の確保が目的だとしても、この市場には原則で全ての電源が入札できる。だから、既存の火力発電や原子力発電、大型水力発電なども入札ができる。結果的に、将来の調整力への投資よりも、既存電源の温存にしかなっていない。脱炭素・脱原発からは、まるで逆走してる。
・実態として、東電などの発電事業と小売事業の両方を持っている会社が有利な仕組み
→「容量拠出金」の再掲。
建前上は、市場管理者(電力広域運営推進機関)を介して、小売事業者から発電事業者にお金が回ることになってる。けど、今の日本の電力はその多くが、東電とか関電とかが担ってる。これらの企業は「小売事業」も「発電事業」もどっちも持ってる。ってことは、社内(実質的にはホールディングス内)で、お金が右から左に移っているだけになってる。
・また、電力自由化によって参入してきた小売事業だけを担う「新電力」への負担が大きい
→経産大臣・環境大臣宛に、新電力22社の賛同で、こういう要望書が出てる。(抜粋)
容量市場の見直しと運用のあり方
及び 2020 年度メインオークション結果に関する要望
容量市場は、所有分離が行われていない日本では、発電市場が事実上開放されておらず、現時点で電源を持ち得ない新電力にとって、容量市場により一方的に負担が増加し、結果的に旧一般電気事業者に対して競争上不利な立場に追いやられてしまう懸念があります。このままでは、電力自由化・電力システム改革のあり方を歪めかねないことから、以下の要請をさせていただきます。
① 減価償却を終えた発電所や CO2 排出係数の高い電源の退出を妨げない措置をすること
② 再エネ供給能力等をふまえて容量市場の目標調達量を最小化すること
③ 旧一般電気事業者に有利、新電力に不利な容量市場を根本から見直すこと
本年 9 月 14 日に実需給年度 2024 年に適用される容量市場の約定価格が 14,137 円/kW となったことが公表されました。経過措置を踏まえた約定総額は 1 兆 5,987 億円にのぼり、全小売事業者の平均 kWh に換算にすると約 2 円に相当します。これは小売事業の粗利を超える水準であり、2024 単年度の拠出だけでも、多くの小売事業者にとって深刻な経営へのインパクトを与えるものとなります。
(https://www.greenpeople.co.jp/information/2583/)
これまでの通り、現状の容量市場の仕組みでは、既存電源(火力・原子力)を温存し、東電などの旧一般電気事業者が有利な仕組みになってる。ましてや、電力自由化で参入してきた新電力にとっては致命的にもなり得る。問題ありあり。
・再エネを前提とした電力システムの健全化のためには
→再掲から。
図の書き方として、「長期固定電源」が下にあって、「太陽光」が上にあるというのがミスリード。
「ベースロード電源」「調整力」という供給側のみの発想ではなく、「需要と供給のバランス」と言うぐらいだから、需要側も含めた「柔軟性」が必要であるはず。具体的には、一次電源としての再エネ電源はもちろん、二次的電源の蓄電池などがある。需要側としても、デマンドレスポンスなどを取り入れることが必要になってくる。これらによって、「変動性電源」の変動性を柔軟に吸収できる電力システムが構築できる(かもしれない)。
そもそも、電力の自由化から議論が始まったはずの容量市場は、結果的に、電力自由化から逆行している。その原因を検証するとすれば、そもそもの思想と他国の事例の参照・検証不足、拙速な仕組みづくりが挙げられるのかもしれない。
ただし、気候危機や分散型電源と言う「前提」を踏まえれば、再エネと柔軟性ということを念頭においた方向性に進んでいくしかないし、そう言う「政治的判断」も必要になってくるはず。
参考
電力広域運営推進機関,容量市場とは,https://www.occto.or.jp/capacity-market/shikumi/capacity-market.html
電力広域運営推進機関,容量拠出金について,https://www.occto.or.jp/capacity-market/kouri/kyoshutsukin.html
飯田哲也,2020年12月1日,Energy Democracy,冷静かつ大局的に再考すべき「日本型容量市場」(1)− RE100の未来に向けて,https://www.energy-democracy.jp/3336
飯田哲也,2020年10月27日,Energy Democracy,「容量市場」とは何か – 原発・石炭・独占を維持する官製市場,https://www.energy-democracy.jp/3280
安田陽,2020年12月10日,Energy Shift,容量市場に潜む本質的な問題(前編),https://energy-shift.com/news/8afd6c24-52da-411b-8ccc-977f03c53cf4
安田陽,2020年12月11日,Energy Shift,容量市場に潜む本質的な問題(後編),https://energy-shift.com/news/8cee8069-3e08-4f1b-b70c-0759c1f2672e
Green People's Power,2020年10月8日,容量市場の見直しと運用のあり方及び2020年度メインオークション結果に関する要望,https://www.greenpeople.co.jp/information/2583/
補足
同時同量:今の日本では、30分間の需要と供給の実際の電力量が一致させなきゃいけないことになっている。
周波数:50Hzとか60Hzっていうやつ。交流電源の行ったり来たりする回数。電気の品質みたいなもの。これがズレると電子機器がうまく作動しなくなったりする。だたし、電気はアナログな現象の一つなので、実際は±0.2〜0.3程度の偏差がある(らしい)。
電力広域運営推進機関(Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN:OCCTO):日本の電気事業の広域的運営を推進することを目的として設立された団体である。日本の全ての電気事業者が機関の会員となることを義務付けられている。機関は、会員各社の電気の需給状況を監視し、需給状況が悪化した会員に対する電力の融通を他の会員に指示する。(wikipedia)
アデカシー:電力を安定的に供給することができるかどうかの信頼度。まれな頻度で起きる電力の供給不足への対策の必要性などに関わってくる。海外の多くでは、「アデカシー」と「柔軟性」を基本として電力システムの検討がなされている(らしい)。
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