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アワビの種苗が出荷されました!

今日の記事は、東海新報2024年5月16日付「アワビ種苗出荷スタート 県栽培漁業協 本年度は329万個供給予定」です。アワビはもちろん天然のものもありますが、人工的に稚貝を生産して海に放流し、生育したものを採捕することで資源を管理しています。アワビ資源は増えているのでしょうか。
(東海新報 https://tohkaishimpo.com/
※写真は岩手県栽培漁業協会のホームページのものです。


記事は、大船渡市にある一般社団法人岩手県栽培漁業協会が飼育しているアワビ種苗を県内の漁協に初めて出荷したことが報じられています。

大船渡市末崎町の一般社団法人・県栽培漁業協会(大井誠治会長)は15日、飼育しているアワビ種苗を初出荷した。初日は山田町の船越湾漁協と三陸やまだ漁協に計10万5000個を出荷。本年度は、県内の漁協を対象に9月前に約329万個の出荷を予定している。
この日は、午前8時30分頃から職員ら約20人が作業。水槽から網ですくわれた稚貝は、陽光を浴びて深緑色に輝いていた。定量別に箱詰めされたのち、トラックに積み込まれ陸送された。

東海新報 2024年5月16日付

続いて、アワビの生産サイクルを説明し、放流から殻長が9cm以上になる収穫時期までに3〜5年要することが伝えられた。

種苗の供給は、大船渡市内にある大船渡市漁協、綾里漁協、越喜来漁協、吉浜漁協など県内18漁協になるということで、漁協の要望に合わせて9月頃まで順次出荷するとのことです。出荷予定数は昨年よりも約26万個多くなるとのことです。

出荷作業を見守った山口浩史専務理事は「冬の高水温の影響で、例年より大きく育っている。餌を十分に与えたので、丈夫に育っているはず。アワビの準備はできているので、丁寧に放流して成長を促し、漁業者の漁獲につながれば」と話していた。

東海新報 2024年5月16日付

人工的に種苗を生産して放流しているアワビですが、生産量は増えているのでしょうか。


一般社団法人岩手県栽培漁業協会は、岩手県、市町村、漁協などの出資により1994年に設立された法人です。アワビやウニなどの種苗生産と放流を主な事業とし、大船渡市内に本所が置かれ、県内にはこの他に洋野町に種市事務所が置かれています。

栽培漁業協会におけるアワビ種苗の販売数量について、同協会のホームページから取得したデータを整理すると次のとおりとなります。この販売数量はそれぞれ購入した漁協が放流するものになります。

(合計、大船渡地区、釜石地区、宮古地区、久慈地区、県外の順)
単位:千個
2019年 4,036 (800 387 1,180 1,579 90)
2020年 4,003.2 (775 387 1,188 1,580.5 72.7)
2021年 3,328 (25 280 896 1,664 463)
2022年 4,100.35 (775 300 1,075 1,698.5 251.85)
2023年 3,186(計画)
2024年 3,290(計画)

この6年間の推移を見ると販売数量は減少していることがわかります。

次に岩手県におけるアワビの生産量について、農林水産省のホームページの「漁業・養殖業生産統計」データを整理すると次のとおりになります。
(農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/

(前:岩手県 中:全国 後:割合)
2004年 343t 1,996t 17.18%
2005年 232t 1,768t 13.12%
2006年 437t 1,976t 22.12%
2007年 522t 2,063t 25.30%
2008年 383t 1,687t 22.70%
2009年 530t 1,855t 28.57%
2010年 283t 1,461t 19.37%
2011年 241t 1,259t 19.14%
2012年 278t 1,266t 21.96%
2013年 382t 1,385t 27.58%
2014年 304t 1,363t 22.30%
2015年 345t 1,302t 26.50%
2016年 285t 1,136t 25.09%
2017年 180t 964t 18.67%
2018年 166t 909t 18.26%
2019年 145t 829t 17.49%
2020年 119t 669t 17.79%
2021年 90t 658t 13.68%
2022年 133t 689t 19.30%

アワビ生産量の推移(単位:トン)

これらのことから分かることは、次のとおりまとめることができます。

  • 全国も岩手県も水揚量は減少傾向にある。

  • 全国と岩手県のグラフの形はほぼ同じである。

  • 2006年から2016年まで岩手県のシェアは20%台だったが、それ以降は10%台になっている。

  • 岩手県のここ数年の水揚量は大きく減っている。

種苗放流した稚貝が3〜5年経てば水揚げできるというものではなく、自然界に放たれた以上、他の生物に食べられたり、生き残れないものも多くあるので、放流効果の是非を問うのは難しいことです。

さらに磯焼けという磯場に海藻が著しく衰退または消失した状態が続いていると言われています。磯場の海藻、特にコンブはアワビの餌になりますが、それがない状態では生存することはできないのです。

また、水揚量にしても、資源管理の面から採捕する回数を制限したり、漁業従事者が減少するなどの要因も考えられます。

とはいってもアワビの水揚量の減少は事実として厳然としてあるのですから、何らかの方策が必要なことは間違いないようです。

陸上施設で稚貝を育成して、それを海に放ち、漁業従事者がそれを採捕するという栽培漁業という考え方自体が見直しの時期に来ているのかもしれません。陸上施設で稚貝を育成しているということは、そのまま育成すれば出荷できるサイズにまで大きくなるということです。事実、アワビの陸上養殖をする事業者は存在します。設備投資面や海水の取扱いなど課題も多いですが、一考する価値は十分にあると思います。


いかがだったしょうか。
水揚量が減っている、漁業経営が厳しいという現実に対して、漁業のあり方そのものが問われているのかもしれません。

今後も気になった記事をちょこっと深掘りしてみたいと思います。

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