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東ゆうは何人もいる【小説:トラペジウム感想文】

こんにちは。
東西南北で最初に思い浮かんだのは残火の太刀

ひき海豹(あざらし)です。

トラペジウム。

現在絶賛映画公開中の本作ではありますが

諸般の事情で映画館に行くのが厳しそうなので

原作小説の方を拝読させていただきました。

あらすじはすっ飛ばさせていただきますが、非常に良かったですね。


なんと言っても読みやすい!

内容的な面ではあまりないですが、こちらも作品の魅力として語らねばなりません。

非常に読みやすい。

女子高生の視点で描かれているのもあるんでしょうが、文章に引っかかる読みにくさが私にはほぼ感じられず、サクサク読めました。

文量もあまり多くなく、各章も引きが気になるのでその引きの強さと読みやすさが合わさってぐんぐん読んでしまいました。

普段小説全然読まないのですが、2日、4時間ちょい位で読めたんじゃないかな。

文量、文章的な手軽さが忙しい現代人には合ってますね。

売れてるという説得力がありました。

一方で、内容としてはかなり深いところを描いているように思います。

さらに、後述もしますが作中の描写は主人公の目線で描かれていますから、「トラペジウム」の世界で起きてることなんて、主人公から見た一部でしかないと言っていいでしょう。

つまり、行間がかなりある。

これに関しては各人で好き嫌いありそうですが

個人的に行間を満ち満ちにして解釈の余地がないのはあまり好まないので

これは好きですね。

考えることは好きです。

せっかく辿り着いたコンテンツは

骨の髄までしゃぶり尽くしたい

まぁまぁ、そういうことでございます。

そんなこんなで私なりの感想を
書いてきますわよ〜!

東ゆうは何人もいる

この作品で一番の魅力と言っていいかもしれません、重要なのはやはり主人公「東ゆう」でしょう。

彼女の物語ですから。

彼女なくしてトラペジウムは無く

トラペジウムが無ければ、東ゆうはいない。

NO AZUMA, NO TORAPEZIUM でしょうか

彼女の行動とその結果、という物語ではありますが

あまり彼女はおよそ聖人君子とは言えず、
むしろ

「人を道具にしているクズ」とか「自己中心的」とか

なんだとか色々謗られそうな人間ではあります。

実際、ある面ではかなり自己中心的と言わざるを得ないでしょう。

彼女はアイドルになるために友達を集め、利用し、多くの人と打算的に付き合っていました。

しかし、そんな東にも友人たちは全てが露呈してからもアイドルは続けないけど、と友達でい続けてくれます。

割とあっさり許してくれます。

これに引っかかる人もいるのでしょうか。

そんな簡単にゆるせねぇだろ!

という意見もわかる。

それだけ東は西南北の三人に辛い思いを経験させました。

けれど、けれどね

これは私たちが

「打算的で、人を利用して、価値観を押し付ける東ゆう」

しか見ることができないからです。

確かにこれはある側面から見た「東ゆう」の事実ではありますが

もちろん、全員にこう見えてるわけではないのです。

そして、忘れてはいけないのが
この作品が「東ゆう」の視点から描かれている

ということ。

つまり、
「打算的で、人を利用して、価値観を押し付ける東ゆう」

という像は
「東ゆうから見た東ゆう」なのです。

露悪的にも思えます。
悪ぶってる。

「自分の力でアイドルになってやる」と息巻いておきながら

「東西南北の美少女を集める」という矛盾。

自分の力に自信がないのでしょう。
だから露悪的に思いたいのかもしれません。

卑屈という言葉の方が似合うでしょうか。

だからこそ、彼女の着地点が「一人ではアイドルになれない」とある意味自分のダメさを受け入れて、吹っ切れることができたというところなんでしょう。

自分のダメさを卑屈に悪ぶるのはダサいですね。
それもまた青春です。

要するに「東ゆう」が卑屈で露悪的でダメなとこの言い訳ばっかしてるみたいに見えるのはそれが「東ゆうから見た「東ゆう」」だからです。

人からみれば少し違う。

「西から見た東ゆう」も
「南からみた東ゆう」も
「北から見た東ゆう」も

もちろん
「シンジくんから見た東ゆう」も

全部違います。

それぞれが接した「東ゆう」像があり、
その人だけのものです。

東視点で描かれる本作ではこれらを推し量るのは難しいでしょう。

しかし、三人が最後あっさり東を許すところを見れば

別に、そんな悪いものでもないのでしょう。

少し、それぞれの「東」像を考察してみましょうか。

西から望む東

西、大河くるみにとっての東ゆう

これかなり感情の矢印デカいでしょうね。気のせいでしょうか。

彼女にとって東は「初めてできた女の子の友達」という旨を言っています。高専という女子の絶対数が少ない環境にいる彼女。

その存在はかなり彼女の精神的に支えていたと思います。
同年代の同性との友情というものは彼女には得難いものでした。

更に、打算とは言えプログラミングに多少でも興味を持ってくれるなんて…!
自分の好きなものに興味を持ってくれるというものはそれだけで愛です。

そして彼女には「夢」があり、「やりたいこと」があるのです。
「夢」を持ってる人は実は少ない。

大河がロボコンに夢中な時、色々手伝ってくれた東だからこそ
注目されるのが苦手でも、限界が来るまで東に付き合ってあげたのかな

なんて思います。

「夢」を応援してくれた人の「夢」を応援しないだなんて
筋が通らないじゃないですか。

むしろ、同じく「夢」を持つもの同士だから
ないがしろにしたくないし、できるだけ協力したかったのかな

「西から望む東」はそういった感謝や恩と言うとなんだか厳つい物言いになりますが、そんな想いがあるのでしょう。

南から望む東

南、から見た「東ゆう」像はどうでしょうか。

私は「世界を変えてくれた人」だと思ってるんですよ。
これも矢印デカいよ。

お嬢様学校のテニス部の落ちこぼれ。
そんな中で自分を「お蝶婦人」(漫画:エースをねらえ の縦ロールのテニスが強い人である)と呼んでくれた人。

そこからはお嬢様学校の世界では見られないような世界に連れて行ってくれました。
高専、学童ボランティア、城ボランティア、アイドル、などなど

全て東が連れてきた世界です。
彼女は東に、彼女の見る世界を変えられたのです。

彼女は進路を「世界中をボランティアで駆け回る」に決めました。
これは東のせいと言ってもいい。責任取れ。

東の行動が全部が全部悪い方向に行ってるわけではない、
むしろポジティブに働いてることのが多いでしょう。

罪な女です。東ゆう。

北から望む東

北、亀井美嘉から見た東はどうですかね

これは分かりやすいでしょう。
高校以前につながりのあった彼女は東のファン第一号を名乗るほど
感謝してるし、憎み切れないのでしょう。

北が東のことを憎からず思ってるのは明確です。

あまり深読みしなくてもここは割と示されていますね。

ただ、「彼氏がいるなら、友達にならなきゃよかった」はライン越えです。

次。

工藤真司から見た東ゆう

はい。原作最後のセリフを見てください。

以上。





いやいや、蛇足でしょ。私がなにか言うのは

あの台詞に全て詰め込まれていると思うんですよね。

ただ、蛇足しますと、あれは私は「恋」では無いって思ってるんですよ。

「恋」では無い。
「憧れ」とか「眩しい」とか、それこそ「星」を見るような。

そこだけ、そこだけちょっと考えていただければ

工藤真司ねぇ…本当にかわい、じゃなかった魅力的な人物ですね。

お前も…アイドルにならないか?
ならないですか…そうですか…

まぁいい。いいんですよ工藤真司の話は。

脱線しました。

人の多面性

人というものは多面的な存在です。

それぞれがそれぞれに「イメージ」を持っていてそれはそれで事実なのです。

東ゆうも例に漏れず
「西から見た東ゆう」も
「南からみた東ゆう」も
「北から見た東ゆう」も

全部違う同一人物で別人です。

人は観測されて初めて存在している、なんて難しい話もございますが、

「Aから見た東ゆう」が人の数だけ存在するという訳です。

それはもちろん視聴者我々にも

これは

「私から見た東ゆう」であり、
「私から見たトラペジウム」です。

だからこれがもちろん全てでも正解でもないし

一解釈に過ぎませんが

人の数だけ存在する
これもトラペジウムの1つの事実です。

東ゆうという一癖も二癖もある人物を見るには

人から見た東という要素も大事なんじゃないかな

みたいな話です。


そして多面性には「ペルソナ」
という関連項目があるでしょう。

東なんか、色んなペルソナを使いまくってますし

でも、ペルソナって悪いことではありません。

人によっていろいろな姿を使い分ける。

でもそれは見せる面をある程度意図して変えてる訳で、そのペルソナで過ごした時間まで嘘な訳ではない。

東が「全部アイドルになるための踏み台だから」なんて言ったところで東西南北でボランティアだか喫茶店やらロボコンで過ごした時間は嘘だったのか

なんて、そんな訳ないですよね。

むしろ
「アイドルになるため」に過ごした時間なんだから

「アイドル性」を作る時間なんだから

そこの時間まで「アイドルである時間」なんでしょう?
東ゆうにとっては

むしろ全部本気ですよね。

学童ボランティアだって
「あそこもっと上手く教えられたな…」
とか考えている時点で本気です。

東ゆうは猪なので、小器用に手を抜くとか出来ません。
全部本気です。

本気すぎて、ああなったんですが。

だから、その本気度合いをいつも間近で見続けてきた西南北だから、友達してるのも全力投球だったってわかってるはずです。

まとまらなくなってきた。

つまり!
東ゆうは出会った人それぞれに東ゆう像があって、全部事実で、必要以上に露悪的に見えるのも、卑屈な東の自己評価的な面もあるけど、

何時でも本気な東ゆうは打算だろうと本気で友達してた!ってことです!!

トラペジウム

面白かったです!!!


最後にもうひとつ。

とても優しい物語でもありますね。

東は何度も失敗しますが諦めない。

ほかの人もそんな彼女に振り回されながらも
彼女を応援している。

これってすごい優しいっておもうんですよ。

一度の失敗をダメなとこはダメって認めて、でも挑戦することには咎めない。

一度失敗したら非難を浴びたり、諦めたりする中で

諦めない姿を応援してくれるのは

愚ろかでも、優しさだと思います。

人の優しさというより、作品の優しさでしょうか。

読了後に気分が悪いなんてことはなく、

むしろかなり暖かい作品だと思います。




雑すぎるまとめ方

ここまで読んでくれたら何となく伝わってると信じて

それでは

Au revoir〜

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