見出し画像

【ムラコのコラム】 「チャング」は日本の子だよ

金 泰均/キム・テギュン

 先日、仕事を通して知り合った日本人の友人の結婚式に出席するため、ソウルから石川県小松市に行って来た。
 日本の結婚式には出席したことがなく、「ぜひ招待してくれ」とせがんだ。
 ソウルから小松までは羽田空港での乗り換えが必要だった。7歳の長男を連れての「長旅」だったのだ。失礼にならないようにと、今まで日本のドラマや映画などで見てきた結婚式の風景を何度も頭の中で繰り返した。
 挙式当日の土曜日の朝。ホテルの部屋で退屈している長男のため、テレビをつけた。番組はアニメ『クレヨンしんちゃん』。韓国のケーブルテレビでも頻繁に流れており、韓国人の子どもの間では知名度も高い。シャワーを浴びてきたら長男から「パパ、日本でも『チャング』(しんのすけの韓国名)やっているよ」と言われ、「そうだよ。だって、チャングは日本の子だから」と何気なく答えた。そしたら、「へえっ」と首をかしげる。
 続く番組は『仮面ライダー』。こちらも韓国で放送されている。案の定、「パパ、今度は仮面ライダーやっている」と困ったような表情を見せる。「このお兄さんたちも日本人だよ」と返したら、「うそ!」と声を上げる。当たり前のように韓国のものだと思っていたことが、実はそうではないことを知り、かなりショックを受けた様子だった。
 ホテルを出てタクシーを拾い、式場に向かった。和服を着た新郎と新婦が丁寧に招待客一人ひとりに接する姿が印象的だった。式に続き、長男を連れて披露宴にも出席した。
 韓国の結婚式では両家合わせて300〜400人の人を招待するのが一般的だ。挙式は約30分で終わり、披露宴はない。式が終わると各自自由に式場に併設されたレストラン(ブッフェ形式で、ククス(麺料理)は必ずある。「長い縁」を意味する料理だからだ)に行って料理を食べ、自由に帰る。招待客一人ひとりの席が用意され、進行も周到に考慮されている日本の披露宴は、韓国とはずいぶんと異なる雰囲気だった。
 韓国の結婚式はカカオトーク(※)を使って「時間があったら来て」と手軽に友人を招待でき、招待される側も手軽に式場に出席するというメリットがある。ドレスアップして参列する人もいるが、ジーンズ姿で参列しても失礼にはならない雰囲気だ。ご祝儀の相場は新郎新婦との関係や年齢などによって異なるが、一般的に5万~10万ウォン(約4500円~9000円)程度となっている。一方、招待客が多いため一人一人に時間をかけて接することはできず、お金もかかるというデメリットもある。ただ、近年は景気低迷や不動産価格の高騰などにより、地味婚が広まり始めている。
 韓国と日本の結婚事情。確かに違うものもあるが、両国の結婚式に参列して感じたのはどちらも根底にあるのは新郎新婦の新しい人生のスタートを祝う気持ちだった。
 韓国への帰路、長男に日本の結婚式に出席した感想を聞くと、「『チャング』にはびっくりしたけど、結婚式は楽しかった。また来たい」と笑う。ソウルに戻って数日後、彼が自宅で一緒にテレビを観ていた弟に「お前知ってる? チャングはこないだ旅行で行った(家族旅行で沖縄に行ったことがある)日本の子なんだって」と自慢げに話していたのが面白かった。 
 アニメの主人公の国籍なんて、結婚文化の違いなんて、関係ないのではないか。

〈ムラコのコラム/1段目・完〉

※カカオトーク……韓国で一般的に使われているスマホ用無料通話、メッセンジャーアプリ。通称「카톡(カトク)」。オリジナルのキャラクター「カカオフレンズ」は日本でも知られるところ。

               * * * *  *

【今号のムラコ】金 泰均/キム・テギュン 
韓国メディア記者。1980年生まれ。ソウル在住。2002年より東京に一年間留学し、日本メディア勤務を経て現在は韓国メディアにて日本関連の記事などを担当。妻、3人の男の子の5人家族。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?