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他人に声をかける

知らない人に声をかける、というのは人によっては本当に勇気の要る行為で、私は大抵の場面においてその勇気が出ない。きっとその人のためになることを自分が知っていても、やはり見ず知らずの自分から声をかけられるというのは、気味が悪いと思われてしまうだろうな、という気持ちが勝ってしまう。三十路を越えてもなおそんなことばかり考えて、考えているうちにタイミングを逸してしまうようなことばかりだったから、まさかもうこの傾向は変わることはないだろうと思っていた。

先日、小鳥書房でアイスコーヒーをいただいているとき、初めて来られたと思しき親子がいた。出版社も兼ねていることに気づいたようで、本屋夜話を買って行ったのだが、カウンターでの会話を間近で聞くことになった。どうも子どもさんの方が文章を書くようで、それをたくさんやってほしいのか、お父さんは小鳥書房文学賞が気になっているようだった。そういえば、中学生くらいの作品とかもあったような気がするな。そんなことを思ったが、読めばわかるから口に出すほどでもないし、先述の通り少し悩みもした。だが、一応言ってみた。「その賞、中学生くらいで応募してる子もいた気がしますよ」お父さんは「そうなんですか?」と明るく返してくれ、もう少し具体的に興味を持ってくれたように見えた。

たぶん、この場所だからこそ、そのことをわざわざ声に出してみようとしたんだと思う。それは自分にとっては結構衝撃的なことで、それがいい方向に向いたように受け取れたのも、ああ、こういうことって、自分にとっても声をかけられる相手にとっても、自分が考えているほどはハードルが高くないことなのかもしれない、と思えた。

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